官民連携とソーシャル・キャピタル ── 施設をつくることは、関係をつくること
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この記事の要点
- 官民連携は費用を抑える手段であると同時に、人が集まる場所を残す手段でもある
- 全国9市町の事例は手法が別々でも、「場を続けるために民間の力を借りる」という一点で共通している
- 補助率・補助上限・制度の運用は年度で変わる。検討に入るときは国土交通省の公表資料で最新を確かめる
公共施設の建て替えの話をしていると、いつのまにか費用の話だけになる。
けれども住民が惜しむのは、建物そのものよりも、そこで会っていた人と時間であることが多い。
この記事は、官民連携(PPP/PFI)を「地域の関係をどう残すか」という角度から読み直したものです。
ソーシャル・キャピタルという言い方

ソーシャル・キャピタルは、政治学者のロバート・パットナムが広めた考え方で、人々の協調行動を活発にする社会の仕組みを指します。図が示すとおり、信頼・ネットワーク・互酬性の三つが重なるところに、地域を動かす力が生まれます。
実務の側から見ると、この言葉が効いてくるのは「同じくらいの事業費をかけたのに、片方の施設だけ人が集まる」という場面です。差を生んでいるのは設備の差ではなく、その場に集まる人の関係の密度であることが少なくありません。
災害からの復興でも、住民同士のつながりが厚い地区ほど生活再建が早い傾向がある、という指摘は繰り返しなされてきました。仲の良さの話ではなく、復興の速度や教育の成果といった結果に効いてくるから、政策の言葉として扱われています。
舞台がなければ、関係は続かない


Soft
Hard
民間の「資金」と「ノウハウ」を取り入れ、ソーシャル・キャピタルが醸成される空間を持続可能な形で実装する。
人が集まる関係は、集まる場所があってはじめて続きます。図書館、道の駅、公園、公民館──こうした場が舞台です。
ところが人口が減り、税収が細り、施設は同じ時期に一斉に更新期を迎えます。行政が単独でこの舞台を維持し続けることは、多くの自治体で難しくなっています。
ここで民間の資金とノウハウを取り込むのが官民連携です。要点は、コスト削減の手段としてだけ見ないことにあります。削るために使うのか、人が集まる場を残すために使うのかで、事業の設計はまるで変わります。
国の支援は、お金だけではない
定額補助:最大 2,000万円
国土交通省は、導入を検討する自治体に対して二方向の支援を用意しています。ひとつは資金的支援、もうひとつは人的・知的支援です。後者では、検討の初期段階から専門家の派遣を受けられる仕組みが置かれています。
補助率・補助上限・対象分野は年度によって変わります。金額を前提に庁内の説明資料をつくる前に、その年度の公募要領で必ず確認してください。

大和リース株式会社
日本管財株式会社

株式会社鹿児島銀行
株式会社静岡銀行

PwCアドバイザリー合同会社
ランドブレイン株式会社
あわせて、相談先が公表されている点も実務上は大きい。セミナー、資金調達、案件形成と、聞きたいことによって窓口が分かれています。「まだ何も決まっていないので相談しにくい」と抱え込むより、決まっていない段階で当たったほうが、結果として手戻りが少なくなります。
防災と日常を、一つの建物で兼ねる ── 睦沢町

東日本大震災を教訓に、千葉県産天然ガスによる自立発電機能を備えた「道の駅」を整備。平時は「ウェルネス(健康・温泉)」の拠点、有事は「防災」の拠点として機能する。
千葉県睦沢町の道の駅は、県産の天然ガスによる自立発電機能を備えています。平時は物販と温泉のある日常の場所として使われ、災害で停電したときには電力と熱を供給する拠点に変わります。
防災施設は、備えている間はほとんど使われません。使われない建物は、いざというときに人が集まりにくい。日常的に人が出入りしている場所が、そのまま非常時の拠点になるという設計は、ソーシャル・キャピタルの観点からも理にかなっています。
静かな図書館を、集まる場所に変える ── 大府市・尾道市

図書館、文化ホール、スタジオを複合化。カフェやホール運営において独立採算制を導入し、単なる学習の場を超え、市民が日常的に集い活動する「サードプレイス」を創出した。
愛知県大府市は、図書館・文化ホール・スタジオを一体で整備しました。カフェやホールの運営に独立採算の考え方を持ち込み、学習の場を超えて、市民が用がなくても立ち寄る場所に変えています。

Public Warehouse
による出資

Cyclist Hub
築70年の港湾倉庫を、サイクリストの聖地「ONOMICHI U2」へ再生。担保設定が困難な公有地において、民都機構の出資制度を活用し資金調達をクリア。設計・運営一体の提案公募が成功の鍵となった。
広島県尾道市は、築70年の県営上屋(港湾倉庫)をサイクリストの拠点へ再生しました。公有地は担保に取りにくく、民間だけでは資金調達が難しい。ここでは民都機構の出資制度を使ってその壁を越えています。設計と運営を切り離さず、一体で提案を募ったことが効きました。
二つに共通するのは、「何をつくるか」より先に「誰がどう使い続けるか」を決めていることです。運営が先に決まっていると、建物の形はあとから素直に決まります。
収益で場所を支える ── 北九州市・津山市

Park-PFI制度を活用し、設置管理許可期間を20年に延長。長期事業が可能になったことで人気テナントの誘致に成功し、条例価格の5倍にあたる土地使用料収入を実現した。
北九州市は、公園にPark-PFIを使いました。設置管理許可の期間が長くなると、民間は内装や設備に投資しやすくなります。投資が回収できる年数が確保されてはじめて、人気のある事業者が手を挙げます。結果として、公園は支出の対象から収入を生む場所へと性格を変えました。

重要伝統的建造物群保存地区の古民家を「コンセッション方式」で再生。指定管理者制度ではなく長期の運営権を設定することで、高品質な宿泊施設として歴史的価値を経済価値へ転換した。
岡山県津山市は、重要伝統的建造物群保存地区の古民家を宿泊施設として再生しています。指定管理ではなく長期の運営権を設定する方式をとったことで、事業者は建物に手を入れて質を上げる判断ができるようになりました。
古い建物を残す議論は、しばしば「保存か活用か」で止まります。泊まれるようにすることが、結果として残す力になるという順序は、空き家を抱える地域にとって現実的な示唆を含んでいます。
出資のかたちを変える ── 山陽小野田市・鎌倉市
商工会議所・銀行・交流スペース

自治体が土地を「現物出資」し、民間が「現金出資」して共同事業体を設立。単発の施設整備に留まらず、エリア全体の連鎖的なまちづくりへ利益を再投資する仕組み。
山口県山陽小野田市は、市が土地を現物で出資し、民間が現金を出資して共同事業体をつくりました。施設を一つ建てて終わりにせず、そこで生まれた利益を次の区画へ回していく仕組みです。土地を売ってしまえば一度きりの収入ですが、出資すれば関与が続きます。

投資型クラウドファンディングで資金調達。資金集めのプロセスそのものが、施設の「ファン」や「利用者」を育てるソーシャル・キャピタル醸成の装置として機能した。
神奈川県鎌倉市は、投資型のクラウドファンディングで資金を集めました。注目したいのは集まった金額よりも、集める過程のほうです。お金を出した人は、その場所の利用者になり、説明役にもなる。資金調達が、そのままファンをつくる工程になっています。
点ではなく、面で考える ── 富山市・三条市
地域包括ケア拠点
フィットネスクラブ

中心市街地の公有地を活用し、民間資金で「医療・福祉・健康」の拠点を整備。市は土地を貸し出し、地代と固定資産税収入を確保しながら、街なかに健康コミュニティを形成した。
富山市は、中心市街地の公有地に民間資金で医療・福祉・健康の拠点を整備しました。市は土地を手放さずに貸し、地代と固定資産税を得ながら、街なかに人の流れをつくっています。コンパクトシティの政策と、施設一つの整備が同じ方向を向いている例です。

施設ごとに発注
エリア包括管理
点在する施設を個別に管理するのではなく、面としてまとめて委ねる。維持管理の担い手を地元に確保することが、そのまま地域の関係資本を厚くする。
新潟県三条市は、市道・橋梁・公園をまとめて委ねる包括管理に切り替えました。施設ごとに発注していたものを面でまとめると、巡回の効率が上がります。そのうえ受け手が地元企業のコンソーシアムであれば、維持管理の仕事そのものが地域に残ります。効率化の話が、そのまま地域の関係を厚くする話につながっています。
手法の違いは、目的の違いではない
人々が集い、信頼を育み、地域の未来を共創するための「場」を
持続可能にするためのエンジンです。
Email: hqt-PPP_PFI@gxb.mlit.go.jp
Web: https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/kanminrenkei/index.html
ここまで、PFI、Park-PFI、コンセッション、LABV、包括管理、クラウドファンディングと、別々の手法が出てきました。制度としては違うものですが、狙いは重なっています。
いずれも、行政だけでは維持できなくなった「場」を、誰かが使い続けられる形に置き直すための手続きです。手法を先に決めて当てはめるのではなく、残したい場面から逆算したときに、どの制度がいちばん近いかを選ぶ。順序はそちらが自然です。
検討に入る前の確認事項
- 残したいのは建物か、そこで起きていた活動か。言葉にしてあるか
- 運営する主体の見込みが、設計より先に立っているか
- その年度の補助率・補助上限・対象分野を、公募要領で確認したか
- 事業期間は、民間が投資を回収できる長さになっているか
- 維持管理の担い手を地域内に確保する道筋があるか
- 公有地の扱い(売却・貸付・現物出資)を、収入の一度きり/継続で比べたか
- 庁内の合意形成と議会説明の時期を、事業者選定の前に置いているか
まとめ
官民連携は、財政の逃げ道として語られることが多い制度です。けれども9つの事例を並べてみると、うまくいっているところは共通して、削ることではなく続けることを目的に据えています。
施設をつくるという行為は、同時に関係をつくる行為でもある。そう考えると、事業手法の選択は財務の問題であると同時に、まちの設計の問題になります。
本記事は国土交通省の官民連携に関する公表資料をもとに構成しています。個別の事業条件・補助内容は年度や自治体によって異なるため、実際の検討にあたっては国土交通省の官民連携ページで最新の情報をご確認ください。
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