CHIOU / 株式会社地央

線引きの見直し ── 廃止すると、何が変わるか

この記事の要点
  • 線引きは都道府県が定める。市町村が単独で決められるものではない
  • 廃止しても建てられるようになるだけ。誘導の仕組みは別に要る
  • 代わりに特定用途制限地域などを重ねるのが通例
  • 調査では見るべき資料が入れ替わる

市街化区域と市街化調整区域を分ける線引き。これを廃止する動きが、各地で出ています。

人口が減り、市街地が広がらなくなった。抑制する必要が薄れた一方で、調整区域に土地はあるのに使えない。

この記事では、廃止すると何が変わり、何が変わらないかを整理します。

線引きとは何だったか

広がる時代の制度

正式には区域区分といい、都市計画区域を市街化区域と市街化調整区域に分ける仕組みです。

性格
市街化区域 すでに市街地、または計画的に市街化を図る
市街化調整区域 市街化を抑制すべき区域

高度経済成長期、市街地が無秩序に広がることを防ぐために導入されました。

道路や下水道の整備が追いつかないまま宅地が散らばると、後から公共施設を入れる費用が膨らみます。それを避ける仕組みでした。

誰が定めるか

市町村の一存では決まらない

区域区分を定めるのは、都道府県です。

市町村が「廃止したい」と考えても、都道府県が都市計画を変更しなければ実現しません。

  • 市町村が方針を示し、県と協議する
  • 都市計画の変更手続きを経る
  • 案の公告・縦覧、意見書の提出
  • 都市計画審議会の議を経る
  • 国との協議が必要な場合がある

報道で「廃止する方針」と出ても、それは出発点です。

実現するかどうか、いつになるかは、その時点では確定していません。

顧客に説明する際、「決まったこと」と「検討中のこと」を混ぜないでください。

廃止すると、何が変わるか

廃止前 廃止後
調整区域だった土地 原則として建てられない 建てられる余地が出る
開発許可 調整区域は厳格 規模による判断に変わる
用途の制限 用途地域なし 特定用途制限地域などを定めうる
農地 農地法・農振法は別に働く。変わらない
農地の制限は、そのまま残る

これが最も誤解されるところです。

線引きが廃止されても、農地を宅地にするには農地法の許可が要ります。

  • 農用地区域内なら、まず農振除外
  • 第1種農地は、原則として転用不許可
  • 農業委員会・都道府県の判断

都市計画法の制限が外れても、農地法の壁は残ります。

「線引きが廃止されれば、田んぼに家が建つ」という理解は誤りです。

代わりに何を置くか

外すだけでは、抑制が効かなくなる

線引きを廃止すると、市街化を抑える仕組みがなくなります。

そのまま放置すれば、かつて防ごうとした無秩序な広がりが再び起きます。

そこで、別の仕組みを重ねます。

手法 役割
特定用途制限地域 用途地域を定めない区域で、建てられない用途を定める
用途地域の指定 必要な範囲に用途地域を広げる
立地適正化計画 誘導区域を定め、中心へ集約する
地区計画 地区ごとに細かく定める
開発許可の基準 規模・接道・排水の条件
農振法・農地法 農地の保全

「線引きをやめる」ことは、「規制をなくす」ことではありません。

抑制の手法を、区域による一律の分け方から、用途や地区ごとの細かい制御に切り替えるという組み替えです。

特定用途制限地域

用途地域が定められていない区域について、制限すべき建築物の用途を定める仕組みです。

  • 市町村が都市計画に定める
  • 「建ててよいもの」ではなく「建ててはいけないもの」を列挙する
  • 具体的な内容は市町村の条例で定める
  • 周辺の環境を害するおそれのある用途を排除する

調査では、この条例を確認する必要が出てきます。

調査で見るものが入れ替わる

「調整区域だから駄目」が使えなくなる

これまでは、調整区域と分かれば、そこで判断がついていました。

廃止後は、一段階ずつ確認することになります。

確認するもの
用途地域の有無と種類
特定用途制限地域の指定と、条例の内容
地区計画の有無
立地適正化計画の誘導区域の内外
開発許可が必要な規模か
農地なら、農振・農地法の区分
接道、上下水道の引込み
災害関係の区域指定

確認する項目が増えます。

「線引きがなくなったから自由に建てられる」と説明すると、後で覆ります。

インフラが決め手になる

規制が緩んでも、実際に建てられるかはインフラで決まります。

  • 建築基準法上の道路に接しているか
  • 上水道の引込みが可能か。距離と費用
  • 排水の放流先があるか
  • 下水道が未整備なら、浄化槽の設置と維持
  • 電気・ガスの引込み

これらの費用が、土地の安さを打ち消すことがあります。

調整区域の土地が安かったのは、建てにくいことに加えて、こうした条件が悪いからでもあります。

価格をどう説明するか

実現していない制度変更で、価格を語らない

制度の見直しが報じられると、「上がる」「狙い目」という話が出ます。

次の点に注意してください。

  • 都市計画の変更は実現しないことがある
  • 実現しても、数年先になる
  • 用途制限や地区計画で、期待どおりに使えない場合がある
  • 農地法の制限は残る
  • インフラの費用が読めない

宅地建物取引業者が、将来の価格について断定的な判断を提供することは認められていません。

示せるのは、「こういう検討が行われている」という事実と、その出典です。

各地で起きている理由

背景 内容
人口の減少 市街地が広がる圧力がなくなった
市街化区域の空き地 区域内でも埋まっていない
調整区域の集落の維持 建て替えができず、住民が減る
企業立地の要請 まとまった用地が調整区域にしかない
近隣自治体との差 線引きのない市町村へ人口が流出する

最後の点は、県内で線引きの有無が分かれている地域で問題になります。

制度が違えば、住宅の供給しやすさが変わります。その差が人口の移動を生みます。

熊本での見方

県内でも、都市計画区域の設定と線引きの有無は市町村によって異なります。

  • 線引きがある区域とない区域が隣接している
  • 調整区域内の既存集落をどう維持するか
  • 集落内開発制度などの運用
  • 災害を踏まえた土地利用の見直し

個別の状況は、市町村の都市計画担当課にご確認ください。

線引きの見直しに関する確認
  • 「方針」と「決定」を区別した
  • 都市計画の変更手続きがどこまで進んでいるか確認した
  • 実現の時期の見通しを確認した
  • 農地法・農振法の制限が残ることを踏まえた
  • 用途地域の指定予定を確認した
  • 特定用途制限地域と条例の内容を確認した
  • 地区計画の有無を確認した
  • 立地適正化計画の誘導区域を確認した
  • 接道と上下水道の引込みを確認した
  • 浄化槽の要否と費用を確認した
  • 災害関係の区域指定を確認した
  • 将来の価格について断定していない
  • 示した情報の出典を明らかにした

まとめ

  • 区域区分を定めるのは都道府県。市町村の方針だけでは変わらない。
  • 廃止しても農地法・農振法の制限は残る。田んぼが宅地になるわけではない。
  • 抑制の手法が、区域の分け方から用途・地区ごとの制御に切り替わる。
  • 調査項目は増える。「調整区域だから」で判断がつかなくなる。
  • 実現していない制度変更を根拠に、価格を語らない。
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