住宅セーフティネット法 ── 貸す側の不安に、制度で応える
- 制度は三本柱。登録住宅・居住支援法人・家賃債務保証
- 2024年改正で居住サポート住宅の認定制度が加わった
- 家賃を下げる補助は、実施している自治体に限られる。全国どこでも使えるわけではない
- 自治体が家賃を保証するのではない。保証は家賃債務保証業者が行う
「高齢の方の入居を断られてしまう」「保証人が立てられない」。賃貸の現場で繰り返される問題です。
一方で、空室を抱えたオーナーもいます。住まいを探す人と、貸したい部屋がありながら結びつかない。この隙間を埋めるのが住宅セーフティネット制度です。
この記事では、制度の仕組みと、オーナーに提案するときに注意すべき点を扱います。
正式名称は住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律です。法律自体は2007年(平成19年)に制定されています。
2017年(平成29年)に改正され、登録住宅を中心とする新たな住宅セーフティネット制度が始まりました。「2017年に制定された法律」ではありません。
さらに2024年(令和6年)に改正され、居住サポート住宅などの仕組みが加わっています。
住宅確保要配慮者とは
法律および省令で定められた、住宅の確保に配慮を要する者です。
| 類型 | 備考 |
|---|---|
| 低額所得者 | 収入が一定額以下 |
| 被災者 | 発災から一定期間内 |
| 高齢者 | |
| 障害者 | |
| 子どもを養育している者 | ひとり親世帯を含む |
| その他 | 外国人、被生活保護者、生活困窮者、DV被害者、更生保護対象者など。地方公共団体が供給促進計画で独自に追加できる |
最後の項目が重要です。自治体が計画で独自の類型を定めている場合があります。地元の供給促進計画を確認してください。
三本柱
| 柱 | 内容 |
|---|---|
| 登録住宅 | 住宅確保要配慮者の入居を拒まない住宅として登録する |
| 居住支援法人 | 都道府県が指定。入居の相談、見守り、生活支援などを行う |
| 家賃債務保証 | 保証人が立てられない場合の受け皿 |
登録住宅
オーナーが都道府県等に申請し、住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅として登録するものです。
登録にあたっては、どの類型の要配慮者を受け入れるかを、オーナーが選択できます。
「高齢者は受け入れるが、他は従来どおり」といった形も可能です。「登録すると誰でも受け入れなければならない」わけではありません。オーナーが誤解している場合は、この点を伝えてください。
登録された住宅は、セーフティネット住宅情報提供システムで公開されます。
登録の基準
- 耐震性を有すること
- 各戸の床面積が原則として一定以上であること
- 一定の設備(台所、便所、浴室等)を備えていること
- 家賃が近傍同種の住宅の家賃と均衡を失しないこと
基準は地方公共団体が供給促進計画で強化・緩和できます。面積要件などが地域の実情に応じて調整されている場合があります。
居住支援法人
都道府県が指定する法人です。NPO法人、社会福祉法人、一般社団法人などが指定されています。
| 業務 | 内容 |
|---|---|
| 入居相談 | 物件探しの支援、契約に関する助言 |
| 家賃債務保証 | 保証人の代替 |
| 見守り | 定期的な安否確認 |
| 生活支援 | 福祉サービスへのつなぎ |
オーナーの不安の多くは、この法人が関与することで軽くなります。入居後に問題が生じたとき、相談できる先があるかどうかは大きな違いです。
2024年改正で加わったもの
2024年の改正により、次の仕組みが設けられました。
居住サポート住宅
単に入居を拒まないだけでなく、入居中の見守りや、福祉サービスへのつなぎといった支援が組み合わされた住宅を認定する制度です。
大家が居住支援法人等と連携して支援を行う体制を整え、認定を受けます。「入れた後」の支援まで含めた仕組みになっている点が、従来の登録住宅と異なります。
家賃債務保証業者の認定制度
一定の基準を満たす家賃債務保証業者を国が認定する制度が設けられました。要配慮者の受け入れを断らないことなどが要件とされています。
終身建物賃貸借の手続きの簡素化
入居者が亡くなるまで契約が継続し、相続されない賃貸借契約です。高齢者に貸す際、相続が発生したときの契約関係が複雑になるという懸念に対応する仕組みです。
従来は認可手続きが煩雑でしたが、簡素化されました。
市区町村の居住支援協議会
不動産関係団体、居住支援団体、行政が参加する協議の場です。市区町村における設置が努力義務とされました。
地元に協議会があれば、実務上の相談先になります。設置状況を確認しておいてください。
改正法の仕組みは、自治体の体制整備の進み方によって、使えるかどうかが変わります。
認定を行う窓口があるか、連携できる居住支援法人がいるか。制度としてあることと、その地域で使えることは別です。市区町村の担当課で確認してください。
補助制度について
「家賃の一部を国や自治体が負担する」という説明を見かけますが、正確ではありません。
家賃低廉化に対する補助は、要配慮者の入居を専用とする住宅(専用住宅)を対象とし、地方公共団体が実施している場合に限られます。実施していない自治体もあります。
また、予算の範囲内であること、対象となる入居者の収入要件があること、補助の期間に上限があることなど、条件が細かく定められています。
「登録すれば家賃補助が受けられます」と伝えると、後で食い違います。地元の自治体が実施しているか、条件は何かを確認してから伝えてください。
改修費への補助
バリアフリー改修、耐震改修、間取り変更などに対する補助制度があります。こちらも実施主体と条件を確認する必要があります。
国が直接補助する枠組みと、地方公共団体を通じた枠組みがあり、要件が異なります。
家賃債務保証料への補助
保証料の一部を補助する制度が設けられている場合があります。これも自治体によります。
オーナーへの説明
誤解を解く
| よくある誤解 | 正しくは |
|---|---|
| 「登録すると誰でも受け入れなければならない」 | 受け入れる類型を選択できる |
| 「家賃補助が必ず受けられる」 | 自治体が実施している場合に限られ、条件がある |
| 「自治体が家賃を保証してくれる」 | 保証を行うのは家賃債務保証業者や居住支援法人 |
| 「入居審査ができなくなる」 | 登録した類型以外の理由での審査は従来どおり |
不安に具体的に答える
| 不安 | 制度上の受け皿 |
|---|---|
| 家賃を滞納されたら | 家賃債務保証。認定業者の制度も設けられた |
| 室内で亡くなられたら | 居住支援法人による見守り。残置物の処理に関する支援 |
| 相続で契約関係が複雑になったら | 終身建物賃貸借の活用 |
| 生活面のトラブルが起きたら | 居住支援法人が相談を受ける |
不安を「大丈夫です」で流さず、どの仕組みが対応するかを示してください。それが提案の説得力になります。
断定しない
補助の可否、認定の可否を判断するのは行政です。「これなら補助が出ます」と断定しないでください。
制度の概要を説明し、自治体の担当課や居住支援協議会につなぐ。これが実務での立ち位置です。
制度の限界
- 登録戸数と、実際に入居できた戸数は違う 登録されていても、個別の審査で断られることはある
- 専用住宅は少ない 家賃低廉化補助の対象となる専用住宅の登録は、全体から見ると限られる
- 自治体の体制に差がある 居住支援法人の数、協議会の設置状況、補助の実施状況
- 受け入れ後の負担 支援体制がなければ、結局オーナーが対応することになる
制度があることと、その地域で機能していることは別です。地元の実情を踏まえて提案してください。
- 地元の供給促進計画を確認した独自の要配慮者類型、登録基準の調整
- 登録基準を確認した耐震性・床面積・設備・家賃水準
- 受け入れる類型を選択できることをオーナーに説明した
- 家賃低廉化補助の実施状況を自治体に確認した実施していない自治体もある
- 改修費補助の実施主体と要件を確認した
- 家賃債務保証料の補助があるか確認した
- 地元の居住支援法人を把握した
- 市区町村の居住支援協議会の設置状況を確認した
- 居住サポート住宅の認定を行う窓口があるか確認した
- 終身建物賃貸借の活用可能性を検討した
- オーナーの誤解を解いた「誰でも受け入れる」「補助が必ず出る」「自治体が保証する」
- 不安に対して、どの仕組みが対応するかを示した
- 補助や認定の可否を断定していない
まとめ
- 法律は2007年制定。2017年の改正で登録住宅の制度が始まり、2024年にさらに改正された。
- 三本柱は登録住宅・居住支援法人・家賃債務保証。2024年改正で居住サポート住宅が加わった。
- 登録しても、受け入れる要配慮者の類型はオーナーが選択できる。
- 家賃低廉化補助は専用住宅が対象で、実施している自治体に限られる。
- 家賃を保証するのは自治体ではなく、家賃債務保証業者や居住支援法人。
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