民泊の条例 ── 熊本に無いことと、2026年の方針転換
- 熊本県にも熊本市にも、住宅宿泊事業の制限条例はない。九州では制限条例を持つ都道府県・保健所設置市が一つもない
- 法第18条で条例が制限できるのは、区域を定めたうえでの「期間」だけ
- 2026年7月15日、国がゼロ日規制を容認する技術的助言を出した。法律も政令も変わっていない。変わったのは読み方
- チェックイン時間の制限、定員の上限、ICTを用いた管理は、第18条とは別の枠で条例に載りうる
「熊本の民泊の条例はどうなっていますか」と聞かれることがあります。調べても出てこないので、探し方が悪いのだろうと思われる。
そうではありません。無いものを探しています。熊本県にも熊本市にも、住宅宿泊事業を制限する条例はありません。
ただし、無いことをそのまま前提にできる状態ではなくなりました。2026年7月に、国の立場が変わっています。この記事では、条例で何ができるのか、何が変わったのか、そして「無い」をどう確かめ続けるのかを整理します。
熊本には、制限条例がない
観光庁が公開している自治体の窓口案内でも、熊本県に条例の記載はありません。全国の条例を集めている一覧を見ても、九州の都道府県・保健所設置市で制限条例を持つところはありません。熊本県が公開している手引きにも、事務処理要領にも、条例に関する記載がありません。
つまり熊本では、住宅宿泊事業法と政令・省令がそのまま効いています。年間180日という上限のほかに、区域の上乗せも、営業日数の上乗せもない状態です。
条例を定めるのは熊本県です。熊本市ではありません。熊本市が住宅宿泊事業の事務を処理していないため、条例を定める立場にもないからです。この点は別稿で扱っています。
条例で何ができるのか
住宅宿泊事業法第18条は、次のように定めています。
「都道府県(第六十八条第一項の規定により同項に規定する住宅宿泊事業等関係行政事務を処理する保健所設置市等の区域にあっては、当該保健所設置市等)は、住宅宿泊事業に起因する騒音の発生その他の事象による生活環境の悪化を防止するため必要があるときは、合理的に必要と認められる限度において、政令で定める基準に従い条例で定めるところにより、区域を定めて、住宅宿泊事業を実施する期間を制限することができる。」
| 内容 | |
|---|---|
| 目的 | 騒音の発生その他の事象による生活環境の悪化の防止 |
| 限度 | 合理的に必要と認められる限度 |
| 方法 | 政令で定める基準に従い、条例で定める |
| 内容 | 区域を定めて、実施する期間を制限する |
制限できるのは期間で、それを区域ごとに定める、という組み立てです。区域を定めずに全域を制限することも、期間以外のことを18条で定めることも、条文の形からは出てきません。
2026年7月、国が「ゼロ日」を認めた
長く論点になっていたのは、「合理的に必要と認められる限度」の読み方でした。期間の制限を突き詰めていくと、年間ゼロ日、つまり実質的な禁止になります。それは限度を超えるのではないか、という問題です。国はこれまで、超えるという立場をとっていました。
2026年7月15日、厚生労働省・国土交通省・観光庁の三省庁が連名で、都道府県・保健所設置市・特別区あてに技術的助言を出しました。「住宅宿泊事業法に規定する届出住宅に係るゼロ日規制等について」という通知です。
内容は、住宅地や教育施設等の周辺で、宿泊者の頻繁な往来によって静穏な居住環境や清純な環境が損なわれるおそれがある場合には、新たな住宅宿泊事業を実施することを禁止することも可能である、というものです。
これは改正ではありません。第18条の条文も、政令の基準も、そのままです。変わったのは、同じ条文の読み方です。
だから「いつから変わる」という施行日がありません。自治体が条例を作った時点で、その区域について変わります。法改正であれば全国一斉ですが、そうではないので、地域ごとにばらけていきます。
また、地方自治法第245条の4第1号に基づく技術的助言なので、自治体を拘束するものでもありません。作らないという判断もありえます。
既存の届出住宅も、対象になりうる
通知は、すでに弊害が生じている地域については、新規の参入を止めるだけでなく、既存の届出住宅に対しても、一定の猶予期間を設けたうえで制限を設けることが考えられる、としています。
届出をして営業している施設が、あとから制限の対象になりうる、ということです。
これは事業として持つときの前提に関わります。物件を取得して改装して届出をする、という一連の投資が、制度の変更で使えなくなる可能性がある。猶予期間があるとしても、回収の計画がその期間に収まるとは限りません。
もっとも、熊本県が条例を作るかどうかは分かりません。制限条例は、実際に苦情や紛争が起きている地域で作られてきたものです。作られると決まったわけではなく、作られないと決まったわけでもない、という状態です。
18条の外側でも、規制はできる
同じ通知は、第18条の枠の外についても述べています。
ICTを用いた管理。騒音計や出入口のカメラを設置してモニタリングを行い、過去1年分などの一定期間のデータを保存すること。自治体が保存データを確認して管理状況を検証できる、という利点が挙げられています。
チェックイン・チェックアウトの時間の制限。施設の定員数の上限。これらは第18条の規定にかかわらず、地域の実情に応じて合理的な範囲で規制することが可能である、とされています。
期間の制限は「営業できる日が減る」という形で収支に効きますが、こちらは設備投資と運営の手間として効きます。騒音計とカメラを付け、データを一年分保存する。運用を回す人が要ります。
都市計画という、別の経路
通知はもう一つ、まちづくりの観点から都市計画によって立地を規制することも可能である、と述べています。特別用途地区が例として挙げられています。
これは条例を探しても出てこない経路です。民泊の条例が無くても、都市計画の側で決まっていることがありうる、ということになります。物件の所在地について、用途地域だけでなく、特別用途地区の指定の有無も見ておくことになります。
あわせて通知は、旅館業法による教育施設等の周辺での許可の運用など、関連する規制との整合に留意する必要があるとしています。民泊だけを見ていると、隣で動いている制度に気づきません。
他都市の条例は、熊本の答えにならない
全国では、制限条例を持つ自治体が六十ほどあります。都道府県が十九、保健所設置市が二十、特別区が二十一です。内容は、区域と期間の制限だけのもの、それに行為規制を加えたもの、行為規制だけのものに分かれます。
他都市の例としてよく挙がるのは、住居専用地域での制限、学校の周辺での制限、平日を営業できない期間とする定め方です。ただしこれらは他都市の条例であって、熊本の答えではありません。
民泊の解説を読むと、こうした事例が「民泊のルール」として紹介されています。読んだ人が自分の物件に当てはめてしまうことがあります。条例は自治体ごとに違い、無い自治体のほうが多い、というのが実際のところです。
「無い」を、どう確かめ続けるか
条例が無いことは、調べた時点の事実です。次に見たときも同じとは限りません。
条例は議会を通ります。案の段階でパブリックコメントにかけられることが多く、公布から施行までにも期間が置かれます。突然できるものではないので、見ていれば分かります。
- 物件の所在地について、熊本県に制限条例が無いことを、直近の時点で確認した
- 県の民泊のページと、県の例規を見た
- 観光庁の自治体の窓口案内で、条例の記載が無いことを確認した
- 他都市の条例を、熊本の前提にしていない
- 用途地域だけでなく、特別用途地区の指定の有無を確認した
- 旅館業を選ぶ場合、教育施設等の周辺での運用を確認した
- 制度が後から変わりうることを、事業計画に織り込んだ
- 数か月前の資料や、他県の事例をそのまま使っていない
まとめ
- 熊本県にも熊本市にも、住宅宿泊事業の制限条例はない。定めるのは熊本県の側になる
- 法第18条で条例が制限できるのは、区域を定めたうえでの実施期間だけ
- 2026年7月15日の技術的助言で、国はゼロ日規制を容認した。法律も政令も変わっておらず、変わったのは読み方
- 既存の届出住宅も、猶予期間を置いたうえで制限の対象になりうる
- ICT管理、チェックイン時間、定員の上限は18条の外の枠。都市計画による立地規制という経路もある
熊本県・熊本市の住宅宿泊事業(民泊)の届出、旅館業の許可申請。行政書士 村上事務所(熊本市東区)が承っています。
