地域公共交通のリ・デザイン ── 競争から協調へ、そして実装へ
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地域公共交通のリ・デザイン ── 競争から協調へ、そして実装へ
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この記事の要点
- 地域公共交通は「利用者減 → 収入減 → 減便 → 不便 → さらに利用者減」という悪循環に入っており、2024年問題がそこに重なった
- 打開策の柱は「競争」から「協調」への転換。独占禁止法特例法により、同じ路線を複数社で奪い合う構図を解ける
- 自動運転・ドローン・MaaSは実証段階を越えつつある。技術より先に、計画と役割分担を決めた自治体が成果を出している
路線バスの時刻表を見て、「これでは使えない」と思ったことのある方は多いと思います。朝と夕方に数本。日中は空白。不便だから乗らない。乗らないから減る。減るからもっと不便になる。
この循環は、事業者の努力不足で起きているのではありません。制度の設計と、人口構造と、労働法制が重なった結果です。そして2024年、そこに「運び手そのものがいない」という条件が加わりました。
この記事は、国の側がこの問題をどう捉え直そうとしているのか、そして実際に手を打った自治体が何をしたのかを、順にたどったものです。
全体像 ── 教訓・ビジョン・鍵
話は三つに分かれます。
過去の教訓。経済合理性を追い求めたかつての国土計画(一全総)は、太平洋ベルトへの集中を招き、地方の過疎と都市の過密という二極化を生みました。
新たなビジョン。デジタル田園都市国家構想と第三次国土形成計画は、物理的な距離をデジタルで克服する「シームレスな拠点連結型国土」を目指しています。
解決の鍵。崩壊の危機にある地域交通を救うのは、「競争から協調」への政策転換と、自動運転・ドローン・MaaSといった、すでに実装フェーズに入ったテクノロジーです。
歴史的視座 ──「均衡」と「集中」の矛盾
元資料にはこの時期の公共投資配分表が添えられていたが、合計と構成比が整合しないため本記事では扱わない。
1962年の全国総合開発計画(一全総)は、地域間格差の絶対是正を理念に掲げました。しかし実際には「国民所得倍増計画」の経済合理性が優先され、投資は太平洋ベルト地帯へ集中しました。
結果として、格差是正は建前となり、大都市への人口流出と地方の過疎化が加速した。「均衡ある発展」と「経済成長」のトレードオフが、現在の東京一極集中の起源にあるというのが、菊地裕幸氏の論考が示すところです。
いま地方の路線バスが立ち行かないのは、その六十年の帰結として人口が薄くなった土地に、当時と同じ密度を前提にした交通網が残っているからでもあります。この経緯については全総の70年で詳しく扱いました。
パラダイムシフト ── シームレスな拠点連結型国土
物理的な移動を減らすのではなく、移動と通信を組み合わせて到達可能性を保つという考え方である。
第三次国土形成計画が掲げるのは「新時代に地域力をつなぐ国土」。人口減少と巨大災害リスクに対応するため、10年後を見据えた構造転換を図るとしています。
手段は、物理的なインフラ整備に加えて、デジタルの力で地域ごとの「中小規模の生活圏」をネットワーク化すること。戦略は、全国8ブロックごとの「広域地方計画」による連携強化です。
ここで大事なのは、デジタルが移動を「不要にする」とは言っていない点です。リアル(交通)とデジタル(通信)の二層で、中枢拠点・地域生活圏・主要都市圏をつなぐ。移動と通信を組み合わせて、到達可能性を保つ。この構想への批判的な検討は第三次国土形成計画を、批判的に読むにまとめています。
デジタル田園都市国家構想と「地域生活圏」
圏域を先に決めるのではなく、生活の実態から圏域を描き直す。
地域生活圏とは、人口減少下でも生活サービス(買い物・医療・交通)を持続させるための、新たな圏域概念です。
実装モデルとして挙げられているのが香川県三豊市の例です。共助として地元企業13社が出資するAIオンデマンド交通。連携として行政・企業・デジタルによる「データ連携基盤」の活用。そして圏域として、既存の行政区域にとらわれず、デジタルでサービス圏域を最適化する。
三つめが要点です。行政区域を前提にすると、隣町のスーパーへ行く足は「よその話」になってしまう。圏域を先に決めるのではなく、生活の実態から圏域を描き直す。地域生活圏という言葉が指しているのは、その順番の入れ替えです。
出資社数や運行方式は変わることがあります。最新の状況は各自治体の公表資料でご確認ください。
直面する危機 ── 地域公共交通の悪循環
いま起きているのは、四つの段が閉じた輪になっている状態です。利用者の減少 → 運賃収入の減少 → 減便・路線廃止 → 利便性の低下 → そしてまた利用者の減少。
そこに二つの圧力が加わりました。
2024年問題。ドライバー不足と労働時間規制による、「運び手」そのものの消失です。運転手がいなければ、需要があっても走らせられません。
路線の維持困難。地方だけでなく、都市部でも赤字路線の廃止が相次いでいます。内部補助 ── 黒字路線の利益で赤字路線を支える仕組み ── が成り立たなくなったことが背景にあります。
このままでは、地域の「足」が消滅し、生活そのものが成り立たなくなる。交通の話に見えて、実際にはその地域に住み続けられるかどうかの話です。
解決策の柱 ──「競争」から「協調」へ
それぞれの効率が低い状態。
重なる区間と、空白の区間が同時に生まれる。
共同経営(Joint Op)とMaaSによる
効率的な運行体制へ。
従来の枠組みでは、複数の事業者が同一路線を運行することがありました。競争によってサービスが良くなるという想定です。しかし需要が縮んだ市場では、重なる区間と、空白の区間が同時に生まれるだけになります。
これを解くのが、独占禁止法特例法の活用です。2020年に施行されたこの法律により、地域の乗合バス事業者が共同経営(ジョイント・オペレーション)を行ってもカルテルとして扱われない道が開かれました。ダイヤを揃え、区間を分け、運賃を共通化できるようになったということです。
提示されている解決策の柱は三つ。
- 官民連携。行政が主導し、交通事業者が運行を担う役割分担の明確化
- 競争から協調へ。共同経営とエリア一括運行による効率化
- デジタルの徹底活用。データの利活用による需要予測と最適配置
一つめが最初に来ているのは偶然ではありません。誰が路線を決めるのかを行政が引き受けない限り、協調も最適配置も始まらないからです。
テクノロジー実装① 物流DXと自動運転トラック
新東名・駿河湾沼津SA〜浜松SA間で、自動運転車用レーンの運用が始まっている。
ドライバー不足の解消。
ここから先は、実証実験ではなく実装の話です。
高速道路での無人運転(Level 4)を目指す取組みが、新東名の駿河湾沼津SA〜浜松SA間で進んでいます。深夜・長距離輸送の無人化により、ドライバー不足を解消するというねらいです。
成立には三つの側が要ります。車両側にカメラ・LiDAR・ミリ波レーダー。道路側に路車間通信による情報提供。そして制度側に、レーンの指定、運行管理、事故時の責任の所在。
技術単体の問題ではない、という点は繰り返し確認しておく価値があります。自動運転が「まだ来ない」とすれば、それは多くの場合、車両ではなく道路と制度が追いついていないからです。
対象区間・開始時期・レーン運用の条件は変更されることがあります。国土交通省の公表資料で最新の内容をご確認ください。
テクノロジー実装② 「空のインフラ」ドローン配送
補助者・看板の配置が必要となる。
手続きの即日化・不要化により、社会実装が加速する。
ドローンの制度は、飛行の区分で理解すると見通しがよくなります。
Level 3は無人地帯での目視外飛行。ただし補助者や看板の配置が必要で、運用コストが下がりません。
Level 3.5/4は補助者なしの目視外飛行。手続きの即日化・不要化により、社会実装が加速します。
すでに動いている場所があります。長崎県五島市では医薬品・日用品の配送が1日最大20便。山梨県小菅村では、既存物流とドローンデポの接続が試みられています。
離島や中山間地では、ドローンは「未来の技術」ではなく「今ある選択肢」になりつつあります。道路を維持する費用と比べたとき、どちらが現実的かという議論の段階に入っています。
便数・実施主体・対象品目は変わることがあります。各自治体および運航事業者の公表情報でご確認ください。
テクノロジー実装③ 自動運転バス・タクシー
全国で実証から定常運行への移行が進む。
自動運転バスは、全国での実証実験から「定常運行」へ移行する段階に入りました。導入自治体への支援も、段階的に対象箇所を広げる方向で進んでいます。
支えているのが路車協調システムです。信号情報や死角情報を、インフラ側から車両へ提供する。車両単体でセンシングするより、確実で安価になります。
北海道上士幌町、福井県永平寺町、香川県三豊市など、先行する自治体には共通点があります。いずれも「実験を誘致した」のではなく「自分たちの計画に組み込んだ」ことです。
支援対象の箇所数と年次は、施策の改定により変わります。
実装事例 香川県坂出市の挑戦
具体的にどう進めたのか。坂出市の例が分かりやすいので取り上げます。
背景。バスの利用低迷と、財政負担の増大。どこの自治体にもある話です。
アクション。「坂出市地域公共交通利便増進実施計画」を策定し、民間事業者による伴走支援を受けながら実行しました。
成果。地域公共交通の再編とデジタル実装が高く評価され、交通関係優良団体として国土交通大臣表彰を受けています。
注目したいのは順番です。計画をつくり、実行し、評価される。この三つが揃った自治体は、まだ多くありません。計画だけつくって実行が続かない、あるいは実証実験だけして計画に載らない、というほうがむしろ一般的です。
成功の要因 Community MaaS とデータ活用
坂出市の取組みを支えた要素は三つに整理できます。
交付金の活用。デジタル田園都市国家構想交付金を用いた、先進的なデジタル実装モデルとして進めたこと。
マイナンバーカード連携。市民限定の運賃割引(ゾーン制運賃)を、本人確認を経てスムーズに適用したこと。「市民だけ安く」を成立させるには本人確認が要りますが、それを窓口で行っていては運用が回りません。
EBPM。キャッシュレス決済データや乗降データを分析し、ダイヤと路線を最適化したこと。
市民認証 → 利用データ → 分析 → ダイヤ・路線の見直し。この輪が回りはじめると、交通は「補助する対象」から「設計できる対象」に変わります。悪循環の輪を、別の輪で置き換えるということです。
広域連携の推進 太平洋新国土軸構想推進協議会
広域の構想は、事業化までの時間が長い。
発信を続けること自体が、活動の一部になる。
個別の自治体の話とは別に、広域の枠組みも動いています。
太平洋新国土軸構想推進協議会は、四国・九州・紀伊半島を結ぶ「もう一本の軸」を求める、自治体・経済界による協議会です。令和6年9月に国土交通省・国会議員への政策提言活動、令和7年1月には国土交通省国土政策局総合計画課を講師に迎えた講演会を開催しています。機関誌『虹の向こうに』も発行されています。
広域の構想は、事業化までの時間が長い。だからこそ発信を続けること自体が活動の一部になります。個別の自治体だけでなく、広域的なブロックでの連携が、新しい国土構造を支える。この考え方は、第三次計画の「広域地方計画」とも重なります。
結論 未来へのロードマップ
ハード中心の国土。
物理的制約を取り払う、ソフトとの融合。
持続可能な「地域の足」と「日本の未来」を創り出す。
From ── 集中型国土。経済成長のみを追い求め、歪みを生んだハード中心の国土。
To ── 分散・連携型国土。デジタルとモビリティDX(MaaS・自動運転・ドローン)が物理的制約を取り払う、ソフトとの融合。
ハード(インフラ)とソフト(デジタル・共助)の融合こそが、持続可能な「地域の足」と「日本の未来」を創り出す ── というのが、この筋道の結論です。
ただし、技術が問題を解くわけではありません。ここまで見てきた事例が示しているのは、計画を書き、役割を決め、データで検証するという、きわめて地味な作業を続けた地域から順に、技術が使えるようになっていくということです。
地域交通を検討するときの確認ポイント
- 地域公共交通計画(利便増進実施計画)が策定され、実行段階まで進んでいるか
- 同一路線に複数事業者が重複していないか。共同経営の余地はあるか
- 乗降データ・決済データを、ダイヤや路線の見直しに実際に使えているか
- 実証実験が、既存の計画に組み込まれているか(単発で終わっていないか)
- 圏域の設定が、行政区域ではなく生活の実態に沿っているか
参考文献・出典
本記事は、国土交通省『第三次国土形成計画(全国計画)』(2023年7月閣議決定)、地域公共交通の活性化及び再生に関する法律の関連資料、デジタル田園都市国家構想関連資料、各自治体および太平洋新国土軸構想推進協議会の公表資料をもとに構成しています。なお元資料に添えられていた1955〜74年の公共投資地域別配分表は、各地域の金額の合計と構成比が整合せず、地域区分にも成立しない項目が含まれていたため、本記事には掲載していません。制度、支援対象、実施区間、便数などは改定されることがあります。実際の検討にあたっては、必ず原典と最新版をご確認ください。
次に読む
- 第三次国土形成計画を、批判的に読む ── 学術会議の提言から
- 全総の70年 ── 「開発」から「形成」へ、そして「強靱化」へ
- 地域生活圏 ── 市町村を越えた連携の枠組み
- 国土計画 ── 分野のページへ
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