第三次国土形成計画を、批判的に読む ── 学術会議の提言から
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第三次国土形成計画を、批判的に読む ── 学術会議の提言から
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この記事の要点
- 「均衡ある発展」を掲げた戦後の国土開発は、実際には経済成長の維持を優先し、集中を強めたという批判がある
- 第三次国土形成計画の三つの柱(地域生活圏・日本中央回廊・産業再配置)には、いずれも「かえって集中を進めるのではないか」という反論が立てられている
- 日本学術会議は計画を否定せず、実効性を高めるためにEBPM・コロナ禍の教訓・地域の知という三つの視点を求めている
国の計画を読むとき、いちばん難しいのは「掲げられた目標」と「実際に起きること」を分けて考えることです。
2023年に閣議決定された第三次国土形成計画は、「新時代に地域力をつなぐ国土」という理念のもと、地方の暮らしを守るための構想を並べています。読めば読むほど、書かれていることに反対する理由は見つかりません。
しかし日本学術会議は、この計画に対して提言をまとめました。その骨子は「目標は野心的だが、実効性の裏づけが足りない」というものです。この記事は、政府のビジョンと、それに対置された学術側の見解を、同じ画面に並べて読むための整理です。
- 「均衡ある発展」は、建前だったのか
- 産業を分散させる計画が、集中を強化した
- 現在地 ── 四つのリスクが同時に来ている
- 2008年を頂点に、人口は急激な減少局面へ
- 政府のビジョン ── 「新時代に地域力をつなぐ国土」
- 重点テーマ① 地域生活圏 ── デジタルは万能薬か
- 重点テーマ② 日本中央回廊 ── 分散か、更なる集中か
- 重点テーマ③ 産業再配置 ── 移転か、現地での構造転換か
- 批判から行動へ ── 三つの要諦
- 要諦1 EBPM ── 野心的な目標に、証拠を添える
- 要諦2 コロナ禍の教訓 ── 三つの再検証
- ただし、地方回帰への期待は慎重に
- 要諦3 「地域の知」を活かした広域地方計画へ
- 結び ── 設計図ではなく、活力
- 参考文献・出典
「均衡ある発展」は、建前だったのか
「建前」ないし「まやかし」であった。実際の政策は経済成長の維持を優先し、結果として
東京への一極集中と地方の過疎化を加速させた
高度経済成長期、政府は「地域間格差の是正」と「均衡ある発展」を繰り返し掲げました。一全総から四全総まで、どの計画の冒頭にもこの言葉があります。
経済地理学者の菊地裕幸氏は、この目的を「建前」ないし「まやかし」であったと評しています。実際の政策は経済成長の維持を優先し、結果として東京への一極集中と地方の過疎化を加速させた、という見方です。
厳しい言い方に聞こえますが、これは政策担当者の誠実さを疑う話ではありません。限られた資源を「成長」と「均衡」の両方に配分しようとすれば、短期に成果の出る前者が優先されるという、制度の構造の話です。いま第三次計画を読むときにも、同じ構造が働いていないかを確かめる必要があります。
産業を分散させる計画が、集中を強化した
その典型が、1960年代の新産業都市です。工業を地方に分散させるという明確な目的のもとに、21地域が指定されました。
ところが配置を地図に落とすと、その大半は既存の産業集積地である太平洋ベルト地帯に位置していました。鹿島、四日市、水島、大分。名前を並べれば、既に港湾と後背地を持っていた場所です。
この「拠点開発方式」は、経済合理性を優先する国民所得倍増計画の論理に従うものでした。効率よく成長させるには、条件のよい場所に投じるほうがよい。その論理は正しく、だからこそ真の格差是正にはつながりませんでした。
この経緯は、指定された都市の土地利用に半世紀の痕跡を残しています。詳しくは新産業都市が残したもので扱いました。
現在地 ── 四つのリスクが同時に来ている
- 未曾有の人口減少・少子高齢化がもたらす地方の危機
- 巨大災害リスクの切迫と、気候危機の深刻化
- コロナ禍を経た暮らし方・働き方の変化と、新たな地方回帰の兆し
- 激動する世界情勢と、経済安全保障上の課題
過去の政策が残した構造的課題に加えて、いまの日本は複数の深刻なリスクと構造変化に同時に直面しています。
人口減少と少子高齢化。巨大災害リスクの切迫と気候危機。コロナ禍を経た暮らし方・働き方の変化と、新たな地方回帰の兆し。そして激動する世界情勢と経済安全保障。
注意したいのは、三つめだけが「機会」で、他は「脅威」だという点です。国土計画の議論が地方回帰の話題に集まりやすいのは、それが数少ない前向きな材料だからでもあります。その材料をどれだけ確かなものとして扱えるかが、後述する要諦2の論点になります。
2008年を頂点に、人口は急激な減少局面へ
2008年、日本の総人口は1億2,808万人でピークを迎えました。そこから先はほぼ一本調子の下り坂です。
2050年に約1億469万人、2070年に約8,700万人、そして2120年には中位推計で約4,973万人。21世紀末には、明治維新期(約3,330万人)と江戸時代中期(約3,128万人)の中間水準まで戻る可能性があるという推計です。
この曲線は、国土計画の前提そのものを変えます。拡大を配分する計画から、縮小をどう受け止めるかの計画へ。第三次計画の「地域生活圏」も「産業再配置」も、この曲線の上で読む必要があります。
推計値は社会保障・人口問題研究所の将来推計に基づくものですが、推計は数年ごとに改定されます。具体の数値を計画書や議会答弁で使う場合は、最新版をご確認ください。
政府のビジョン ── 「新時代に地域力をつなぐ国土」
〜列島を支える新たな地域マネジメントの構築〜
人口や諸機能を分散
重層的な生活・経済圏を形成
デジタルとリアルを融合
第三次国土形成計画が目指す国土の姿は「新時代に地域力をつなぐ国土」、副題は「列島を支える新たな地域マネジメントの構築」です。
国土構造の基本構想は「シームレスな拠点連結型国土」。広域レベルでは人口や諸機能を分散させ、さまざまなレベルで重層的な生活圏・経済圏を形成し、圏内の拠点をネットワーク化してデジタルとリアルを融合させる。これによって行政界を越えたサービスを展開する、という構想です。
言葉としては明快です。問題は、この三段構えのそれぞれに、「逆の結果になるのではないか」という反論が立てられていることです。ここから三つの重点テーマを、政府側の説明と学術会議側の見解を対置しながら見ていきます。
重点テーマ① 地域生活圏 ── デジタルは万能薬か
これまでの地方創生施策の成果を踏まえ、基礎自治体における人口減少対策(移住・定住支援)と産業振興策の強化が基本となる。
政府のビジョン。デジタルの徹底活用と「共」の視点(官民共創)により、人口が少ない地域でも生活機能を維持する「地域生活圏」を形成する。目安として人口10万人規模を想定し、市町村を越えた連携を促進する。
学術会議の見解。デジタル技術の活用は一つの手段だが、それだけで地方都市が抱える深刻な人口減少問題を克服するのは困難である。これまでの地方創生施策の成果を踏まえ、基礎自治体における人口減少対策(移住・定住支援)と産業振興策の強化が基本となる。
提言はさらに踏み込んで、「地方都市が抱える問題を、デジタルの徹底活用と『共』の視点からの地域経営だけで克服することは難しいように思われる」と述べています。
この対立は、実務の感覚とよく合います。オンライン診療も遠隔教育も確かに有効ですが、それは「そこに住み続ける人がいる」ことを前提とした施策です。人が減ること自体には、直接には効きません。
重点テーマ② 日本中央回廊 ── 分散か、更なる集中か
長野新幹線の事例では、開通後に長野市の事業所数・従業者数が減少した。
波及効果を地方圏に広げるには、実効性のある広域地方計画が不可欠である。
政府のビジョン。リニア中央新幹線により三大都市圏を結ぶ「日本中央回廊」を形成する。これにより、東京に集中する中枢機能等の分散を促し、災害時のリスク対応力を高める。
学術会議の見解。三大都市圏の一体化は、むしろ名古屋・大阪の支店や研究開発機能の東京への撤退を促し、「かえって東京への中枢管理機能の集中が進む」可能性が高い。
根拠として挙げられているのが、長野新幹線(現・北陸新幹線)の事例です。開通後に長野市の事業所数・従業者数が減少した。移動時間の短縮は、必ずしも地方に人と機能を運んでくるとは限らない。むしろ「日帰りで済む」ようになることで、支店が畳まれる。
提言は、波及効果を地方圏に広げるためには「実効性のある広域地方計画が不可欠」だとしています。回廊そのものを否定しているのではなく、回廊ができたあとに何をするかが決まっていないという指摘です。
重点テーマ③ 産業再配置 ── 移転か、現地での構造転換か
現実的なアプローチは、その場所でのGX(グリーン・トランスフォーメーション)などによる「構造転換を促す方」である。
機械工業の地方分散は進んだが、地方にも災害リスクは存在し、サプライチェーン強靱化の視点が重要になる。
政府のビジョン。巨大災害リスクの軽減とカーボンニュートラル実現のため、産業の構造転換と再配置を同時に図る。成長産業を地方に分散立地させ、持続的な経済を構築する。
学術会議の見解。鉄鋼や石油化学などのコンビナート企業は「立地固着性」が強く、移転は極めて困難である。現実的なアプローチは、その場所でのGX(グリーン・トランスフォーメーション)などによる「構造転換を促す方」である。
機械工業の地方分散は進んだが、地方にも災害リスクは存在する。したがってサプライチェーン強靱化の視点が重要になる、と続きます。
これは立地論としては当然の指摘です。製鉄所や石油化学コンビナートは、港湾・用水・パイプライン・熟練労働力が一体になった設備であり、「工場」ではなく「地形の一部」に近い。移すのではなく、そこで変えるしかない。
批判から行動へ ── 三つの要諦
ここまで見てきた指摘は、計画への反対ではありません。学術会議は計画の野心的な目標を評価したうえで、その実効性を高めるために三つの視点が不可欠だと提言しています。
- EBPM(証拠に基づく政策立案)の徹底
- 新型コロナウイルス感染症の教訓の反映
- 「地域の知」を活かしたボトムアップの推進
順に見ていきます。
要諦1 EBPM ── 野心的な目標に、証拠を添える
・過去の地方創生施策の効果検証
・立案された政策と効果を結びつけるロジックを、事前に吟味する
「地域生活圏」や「産業再配置」といった野心的な取組みは、必ずしも十分な証拠に裏付けられていない点が見られる、というのが出発点です。
具体的なアプローチとして挙げられているのは三つ。RESAS(地域経済分析システム)などを活用したビッグデータ分析。過去の地方創生施策の効果検証。そして立案された政策と効果を結びつけるロジックを事前に吟味し、施策を精緻化すること。
提言はさらに、中心地論や立地調整論など、人文・経済地理学が蓄積してきた学術的知見を最大限に活用すべきだとしています。
実務に引きつけると、これはInput → Activity → Output → Outcome を分けて設計するという話です。「補助金をいくら出した」(Input)と「移住者が何人増えた」(Outcome)のあいだには、本来いくつもの段が挟まっています。その段を飛ばして書かれた計画は、検証もできません。
要諦2 コロナ禍の教訓 ── 三つの再検証
二つめは、コロナ禍で見えたものを国土政策に折り込むことです。提言は三つの論点を挙げています。
分散型国土構造への転換。リモートワークの推進や地方移住への関心の高まり、とくに若年層のそれを、持続的な流れへとつなげる政策が重要になる。
国内生産の再評価。グローバル化したサプライチェーンの脆弱性が露呈した。国内回帰も視野に入れ、地方における魅力的な雇用の場を創出する。
観光政策の再検証。訪日外国人旅行者に過度に依存した観光産業の脆弱性が明らかになった。今後は雇用の安定化や地域内循環を高める施策を重視すべきである。
ただし、地方回帰への期待は慎重に
元資料には、移住相談者の希望就労形態を示す図表が添えられていました。目を引くのは、テレワーク希望が7.7%にとどまることです。
最も多いのは企業等への就労で67.2%。次いで農業14.9%、自営業(継続)8.6%、地域おこし協力隊6.5%。つまり移住を考える人の大多数は、移住先での「仕事」を探しているのであって、「どこでも働ける」から移るわけではない。
これは要諦1と要諦2をつなぐ論点です。リモートワークの普及を地方回帰の原動力として語る前に、実際に相談窓口に来ている人が何を望んでいるかを見る。それがEBPMの最も素朴な形です。そして数字が示しているのは、地方回帰を支えるのは通信環境ではなく雇用の場だということです。
この図表は元資料に出典と調査年の記載がないため、数値は参考値として扱ってください。移住相談者の動向は、認定NPO法人ふるさと回帰支援センターや各自治体の相談窓口が年次で公表しています。政策検討に用いる場合は原典をご確認ください。
要諦3 「地域の知」を活かした広域地方計画へ

三つめは、計画のつくり方そのものについてです。これまでの広域地方計画には、トップダウンで策定された事例も見られたと提言は指摘します。
次期計画では、地域生活圏で強調された地域主体によるボトムアップの議論を積み重ね、地域の特性を踏まえた個性豊かな施策が求められる。
とくに重要なのは、地域の将来を担う若年層の参加を促すこと。高校で必修化された「地理総合」での地域探究の成果などを、政策提案に活かすことが挙げられています。
ここは実務の手ざわりがある部分です。広域の計画は、どうしても事務局が原案をつくり、協議会が追認する形になりがちです。計画をつくる席に、その土地で暮らす人がいるかどうか。そこがボトムアップと呼べるかどうかの分かれ目になります。
合意形成の場をどう設計するかについては、まちづくりファシリテーションで具体的な進め方を扱っています。
結び ── 設計図ではなく、活力
中央からの壮大な設計図によってではなく、
それぞれの地域で育まれる内発的な活力によって決まる。
提言の趣旨を一文にすれば、こうなります。
日本の国土の未来は、中央からの壮大な設計図によってではなく、それぞれの地域で育まれる内発的な活力によって決まる。
戦後の国土開発は、壮大な設計図の連続でした。一全総から五全総まで、そのたびに新しい国土像が描かれ、そして70年の総括としては、集中は解消されなかったというのが率直なところです。
第三次国土形成計画がその轍を踏まないために必要なのは、計画の言葉を洗練させることではなく、証拠に基づいて検証し、現場の教訓を折り込み、地域の側から積み上げること。学術会議の提言は、そう読めます。
計画を読むときの確認ポイント
- 掲げられた目標と、それを実現する手段のあいだに、検証可能なロジックがあるか
- 「分散を促す」と書かれた施策が、実際には集中を強める可能性はないか
- 根拠として示された数値に、出典と調査年が明記されているか
- 計画の策定過程に、その地域で暮らす人、とくに若年層が参加しているか
参考文献・出典
本記事は、日本学術会議「新しい国土形成計画に関する提言」の趣旨、国土交通省『第三次国土形成計画(全国計画)』(2023年7月閣議決定)、および菊地裕幸氏による地域開発政策の分析ほか、公表資料をもとに構成しています。なお元資料に掲げられていた三つのデータ表(人口減少率の大きい地方都市の一覧、三大都市圏における産業中分類別一人当たり売上高、主要工業地域の製造品出荷額シェアの推移)は、市町村名の明らかな誤りや、シェアがマイナスになるなど成立しない数値を含んでいたため、本記事には掲載していません。人口推計、計画の記述内容、統計数値は改定されることがあります。実際の検討にあたっては、必ず原典と最新版をご確認ください。
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