CHIOU / 株式会社地央

自治体職員のための法務局調査 ── 権利と境界を書類で確かめる

この章の要点
  • 資料は公図・登記事項証明書・地積測量図・建物図面の四つ。分かることがそれぞれ違う
  • 住居表示と地番は別。取り違えると別の土地を調べることになる
  • 地役権と抵当権の見落としが、取得後の支障につながる
  • 相続登記は2024年4月から義務化。相続土地国庫帰属制度も案内できる

公有財産を売り払うとき、用地を取得するとき、管理不全の空き家について所有者を探すとき。いずれの場面でも、まず手にするのが法務局の資料です。ここを読み違えると、その後の手続き全体が組み直しになります。

難しいのは、必要な資料が四種類に分かれていて、それぞれ分かることが違う点です。所有者は登記事項証明書、土地の形と接道は公図、面積と境界は地積測量図、建物の配置は建物図面。どれか一つだけを見て判断すると、必ず抜けが出ます加えて、登記の内容が現況と一致していないことも珍しくありません。

この章では、四つの資料から何が分かるのか、読むときにどこでつまずくのか、そして資料を集めてから現地と突き合わせるまでの順序を扱います。

四つの資料と、分かること

公図土地の位置関係、おおまかな形状、隣接地との並び、道路・水路との接し方。精度は高くないため、面積や境界の根拠にはなりません。
登記事項証明書所有者、権利関係(抵当権・地役権・賃借権など)、地目、地積、所有権移転の履歴。
地積測量図土地の面積と境界点の位置。ただしすべての土地にあるわけではありません分筆や地積更正が行われた土地にのみ備え付けられています。
建物図面・各階平面図建物の敷地内での配置、各階の形状と床面積。増築が登記に反映されているかの確認に使います。

登記事項証明書の読み方

証明書は三つの部分に分かれています。

  • 表題部 土地なら所在・地番・地目・地積、建物なら所在・家屋番号・種類・構造・床面積。物件そのものの情報です。
  • 権利部(甲区) 所有権に関する事項。現在の所有者と、過去の所有権移転の履歴が記録されます。差押えや仮処分もここに載ります。
  • 権利部(乙区) 所有権以外の権利。抵当権、根抵当権、地役権、賃借権、地上権など。

見落としやすいところ

地役権を見落とすと、あとで使えません

乙区に地役権が設定されていれば、他人が通行したり、その土地に工作物を設置したりする権利があります。公有地として取得したあとで判明すると、想定した利用ができなくなります。

抵当権の抹消漏れにも注意してください。売主が完済していても、抹消登記がされていなければ権利は残ったままです。取得の前に抹消の見込みを確認します。

登記と現況のずれ

登記の内容は、必ずしも現況と一致しません。自治体の実務でとくに問題になるのは次の三つです。

未登記の増築

建物図面に載っていない増築部分があることがあります。空き家の除却や、公有建物の処分の場面で、面積が合わずに手続きが止まります。現地で建物の形を確認し、図面と突き合わせてください。

滅失登記がされていない建物

取り壊された建物の登記がそのまま残っていることがあります。固定資産税の課税台帳とも食い違うため、空き家対策の場面で所有者の特定に手間がかかります。

地目と現況の不一致

登記地目が「田」でも現況は宅地、あるいは登記が「宅地」でも現に耕作されている、ということがあります。農地法の適用は現況で判断されるため、登記地目だけで結論を出さないでください第04章とあわせて確認します。

所有者が分からないとき

空き家対策や用地取得では、登記名義人が死亡していて相続登記がされていない、あるいは名義人の所在が分からない、という場面に頻繁に行き当たります。

近年、この分野の制度が大きく動きました。相続登記の申請は2024年4月1日から義務化され、相続により所有権を取得したことを知った日から三年以内の申請が求められています。施行前に発生した相続も対象です。あわせて、相続人申告登記という簡易な手続きも設けられました。

また、相続した土地を国に引き取ってもらう相続土地国庫帰属制度が2023年4月に始まっています。要件は厳しいものの、管理が困難な土地の相談では選択肢の一つとして案内できます。

所有者不明のまま手続きを進める必要がある場合は、所有者不明土地管理制度や、財産管理人の選任申立てといった手段があります。いずれも法的手続きになるため、法務担当や専門家との連携が前提になります。

境界の確認

地積測量図があれば境界点の位置が分かりますが、作成年代が古いものは精度に注意が必要です。座標がなく、隣接地との関係だけが記されている図面もあります。

境界が不明確な場合は、隣接地所有者との立会いによる確認が必要です。公有地が関わる場合は、官民境界の確定という手続きになります。用地取得や公有地の処分では、この確定が済んでいないと先に進めません。時間がかかる手続きなので、早い段階で着手の要否を見極めてください

窓口での確認手順

一 地番・家屋番号を特定する

住居表示と地番は一致しません。「○○町一丁目2番3号」は住居表示、登記で使うのは地番です。ブルーマップや課税台帳で対応を確認します。ここを取り違えると、まったく別の土地を調べることになります。

二 公図で位置と接道を見る

対象地の位置、形、隣接地との並び、道路・水路との接し方を確認します。公図は精度が低いため、寸法の根拠には使えません。位置関係の把握までにとどめます。

三 登記事項証明書で所有者と権利を確認する

甲区で所有者と移転の履歴、乙区で抵当権・地役権などを確認します。所有者が死亡している可能性があれば、住所と登記の年月日から見当をつけます。

四 地積測量図と建物図面を取得する

備え付けがあるかを確認し、あれば面積・境界点・建物配置を確認します。ない場合は、境界確定が必要になる可能性を見込んでおきます。

五 現地と突き合わせる

境界標の有無、建物の形と増築の有無、取り壊された建物が残っていないか、現況地目。書類だけで完結させないでください。詳しくは第08章で扱います。

六 所有者不明の場合の道筋を立てる

相続登記の未了か、所在不明か、共有者多数か。状況によって取るべき手段が変わります。法務担当や専門家と早い段階で相談してください。

実務チェックリスト
  • 地番・家屋番号を特定した住居表示と地番は別。ブルーマップや課税台帳で対応を確認
  • 公図を取得し、位置・形状・接道を確認した公図は精度が低い。寸法の根拠には使えない
  • 登記事項証明書(甲区)で所有者と移転履歴を確認した差押え・仮処分の記載も確認
  • 登記事項証明書(乙区)で権利関係を確認した抵当権・地役権・賃借権・地上権。地役権の見落としに注意
  • 地積測量図の備え付けの有無を確認したすべての土地にあるわけではない。古い図面は精度に注意
  • 建物図面・各階平面図を確認した未登記の増築がないか
  • 登記地目と現況地目の一致を確認した農地法の適用は現況で判断される
  • 滅失登記がされていない建物がないか確認した課税台帳との突合も有効
  • 境界標の有無と、境界確定の要否を見極めた官民境界の確定は時間がかかる。早期の判断を
  • 所有者不明の場合、取るべき手段を法務担当と確認した相続登記未了/所在不明/共有者多数で手段が異なる
  • 取得資料と確認結果を記録に残した

まとめ

  • 必要な資料は四つ。公図・登記事項証明書・地積測量図・建物図面。それぞれ分かることが違う。
  • 登記事項証明書は表題部・甲区・乙区。地役権と抵当権の見落としが後の支障につながる。
  • 登記の内容は現況と一致しないことがある。未登記増築、滅失登記の未了、地目の不一致に注意。
  • 住居表示と地番は別。ここを取り違えると別の土地を調べることになる。
  • 相続登記は2024年4月から義務化。相続土地国庫帰属制度も選択肢として案内できる。

関連法令

  • 不動産登記法第2条・第14条 登記記録および地図(公図・法十四条地図)について規定。
  • 不動産登記法第76条の2 相続等による所有権の移転の登記の申請の義務付けを規定(2024年4月1日施行)。
  • 不動産登記法第76条の3 相続人申告登記について規定。
  • 相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律 相続土地国庫帰属制度について規定(2023年4月27日施行)。
  • 民法第264条の2以下 所有者不明土地管理命令等について規定。
  • 国有財産法・地方自治法第238条以下 公有財産の分類と管理・処分について規定。
ご確認ください

本章は制度理解のための一般的な解説であり、個別案件の法的判断を保証するものではありません。実際の手続きにあたっては、都市計画課・農業委員会・法務局・建築指導課など所管窓口や専門家(行政書士・土地家屋調査士等)に必ずご確認ください。

この内容を、貴庁の職員研修として。

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