自治体職員のための現地調査 ── 書類だけでは分からないこと
空き家の状態を確認するとき、公有財産の現況を把握するとき、用地の取得を検討するとき。書類を揃えたあとに必ず必要になるのが、現地に立って確かめる作業です。
登記簿と公図が揃っていても、境界標が抜けていること、隣家の塀が越境していること、図面にない増築があること、取り壊されたはずの建物が残っていることは、現地に行かなければ分かりません。加えて、自治体の職員が私有地に立ち入るには法的な根拠と手続きが要ります。ここを踏まえずに敷地へ入ると、あとで問題になります。
この章では、現地で何を見るのか、どこまでが権限の範囲なのか、そして記録をどう残すかまでを扱います。
書類だけでは分からないこと
登記事項証明書、公図、地積測量図、建物図面。第06章で扱った四つの資料が揃っていても、次のようなことは現地でしか確認できません。
- 境界標があるか 図面上に境界点があっても、現地の杭や鋲が失われていることは珍しくありません。
- 越境がないか 塀、擁壁、庇、樹木の枝、給排水管。境界をまたいでいるものがないかは現地で見るしかありません。
- 登記にない増築がないか 建物図面と実際の形が合わないことがあります。
- 取り壊された建物が残っていないか 登記だけが残り、現地には建物がないという状態です。
- 現況の地目 登記が「田」でも駐車場になっている、逆に登記が「宅地」でも耕作されている、ということがあります。
- 道路の実際の幅と状態 図面上の幅員と実測値が合わないことがあります。
- 周辺の状況 高低差、日照、騒音、通行の状況、近隣の建物との距離。
敷地に立ち入る根拠
空き家対策の場面では、空家等対策の推進に関する特別措置法に基づく立入調査の仕組みがあります。ただしこれは無条件ではなく、あらかじめ所有者等への通知が必要とされ、対象となる空家等の区分にも定めがあります。実施にあたっては、自庁の要綱と最新の条文を必ず確認してください。
用地取得の事前調査や、公有財産の現況把握であれば、所有者の承諾を得たうえで立ち入るのが原則です。承諾は口頭でも成立しますが、後の行き違いを避けるため、日時・範囲・目的を記録に残しておくことをおすすめします。
単独で行かない
現地調査は、可能なかぎり複数人で実施してください。理由は二つあります。見落としが減ること、そして「立ち入った」「立ち入っていない」「何をした」といった後日の争いに対して、証言が二人ぶんあることです。近隣住民から不審に思われた場合の説明も、複数人のほうが行いやすくなります。
現地で見る項目
土地
- 境界標(コンクリート杭、金属標、鋲、刻印)の有無と位置
- 隣地との高低差、擁壁の有無と状態
- 越境物(塀、庇、樹木の枝と根、給排水管、電線)
- 現況の利用状況(駐車場、資材置場、耕作、空地)
- 公図の形状との一致
建物
- 建物図面との形状の一致、増築の有無
- 外壁・屋根・基礎の状態、傾きの有無
- ブロック塀の傾き、ひび割れ、控壁の有無
- 登記が残っているのに建物がない、またはその逆
道路とライフライン
- 前面道路の実際の幅(メジャーで実測)
- 側溝、U字溝の位置。道路と敷地の境目の手がかりになります
- 上下水道、ガス、電気の引込みの有無
- 排水の放流先
周辺
- 接道の状況、通行できる幅
- 周辺の建物との距離、日照
- ハザードマップとの照合(浸水想定、土砂災害警戒区域)
記録の残し方
現地調査は、記録が残っていなければ「行った」だけの事実にしかなりません。とくに空き家対策のように、後に指導や勧告、代執行へ進む可能性がある場合、記録がそのまま処分の根拠になります。
写真
- 日時が分かる形で撮る(撮影日時の記録を残す)
- 全景と部分をセットで撮る。部分の写真だけでは場所が特定できません
- 方角を記録する。同じ建物でも見る向きで印象が変わります
- 比較の対象を入れる。スケールや既知の寸法のものを一緒に写すと、後から大きさが分かります
- 敷地内に立ち入らずに撮れる範囲かどうかを意識する
調査票
その場で書き込める様式を用意しておくと、確認漏れが減ります。実施日、実施者(複数名)、天候、立入りの有無と根拠、確認項目、所見。事実と評価は分けて書いてください。「傾いている」は事実、「危険である」は評価です。処分に進む場合、この区別が重要になります。
近隣への聞き取り
近隣住民からは、書類にない情報が得られることがあります。所有者の連絡先、いつから空き家か、過去のトラブル、地域の事情。空き家対策では有力な手がかりになります。
窓口・現地での確認手順
一 書類を揃えてから行く
公図、登記事項証明書、地積測量図、建物図面、都市計画図、道路種別図。現地で照合するために持っていきます。手ぶらで行くと、見るべき点が定まりません。
二 立入りの可否と根拠を整理する
敷地内に入る必要があるか。あるなら根拠は何か(所有者の承諾か、法令に基づく立入調査か)。通知が必要なら、その手続きを済ませてから行きます。
三 外周から確認する
まず公道上から見える範囲を確認します。全景の写真、道路の幅の実測、接道の状況、建物の外観。ここで分かることは少なくありません。
四 (立入りが可能な場合)敷地内を確認する
境界標、越境物、建物の形状、増築の有無、ライフラインの引込み。図面と突き合わせながら進めます。
五 記録を整える
その場で調査票を埋め、写真を整理します。後日まとめようとすると、記憶が曖昧になります。
六 書類との差異を整理し、次の手続きにつなぐ
登記と現況の食い違い、境界の不明確さ、越境。それぞれ、どの所管につなぐかを整理します。
実務チェックリスト
- □ 書類を揃えてから現地に向かった公図・登記事項証明書・地積測量図・建物図面・都市計画図・道路種別図
- □ 敷地内へ立ち入る必要の有無と、その根拠を整理した所有者の承諾か、法令に基づく立入調査か
- □ 立入調査に必要な事前通知の手続きを済ませた自庁の要綱と最新の条文を確認
- □ 複数人で実施した見落としの防止と、後日の争いへの備え
- □ 境界標の有無と位置を確認した
- □ 越境物の有無を確認した塀・擁壁・庇・樹木の枝と根・給排水管・電線
- □ 建物の形状が建物図面と一致するか確認した未登記の増築、取り壊し済みの建物の残存
- □ 前面道路の幅を実測した図面上の幅員と一致しないことがある
- □ 現況の地目を確認した登記地目と一致しないことがある
- □ ハザードマップと照合した浸水想定区域、土砂災害警戒区域
- □ 写真を全景と部分のセットで撮り、日時と方角を記録した
- □ 調査票に事実と評価を分けて記録した「傾いている」は事実、「危険である」は評価
まとめ
- 境界標、越境、未登記の増築、取り壊し済み建物の残存は、現地に行かなければ分からない。
- 私有地への立入りには根拠が要る。公道から見える範囲の確認と、敷地内の調査はまったく別の行為。
- 現地調査は複数人で行う。見落としが減り、後日の争いに対する備えにもなる。
- 写真は全景と部分をセットで。日時と方角を記録し、スケールを入れる。
- 調査票では事実と評価を分けて書く。指導や勧告に進む場合、この区別が重要になる。
関連法令
- 空家等対策の推進に関する特別措置法 空家等に関する調査および立入調査について規定。事前通知等の手続きは条文と自庁の要綱を確認のこと。
- 建築基準法第12条 建築物等の報告、検査等について規定。特定行政庁による立入検査の根拠。
- 土地収用法第11条・第12条 事業の準備のための立入りについて規定。
- 民法第209条 境界付近の工事等のための隣地の使用について規定(2023年4月1日施行の改正)。
- 地方自治法第238条の2 公有財産に関する調査等について規定。
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