CHIOU / 株式会社地央

シャウプ勧告から現在まで ── 拡大の管理から、縮小への対応へ

この記事の要点
  • 戦後の制度は拡大を管理するために作られた。人口も都市も増える前提だった
  • 最大の転換は昭和43年の新都市計画法。線引きと開発許可がここで始まった
  • 平成に入り、拡大の管理から、縮小への対応へ軸が移っていく
  • いまの立法は増えるもの(空き家・所有者不明土地)をどう扱うかに向いている

戦後の土地法制は、「増えていく」ことを前提に作られました。人口が増え、都市が広がり、住宅が足りない。その状況をどう管理するかが課題でした。

しかし現在の課題は逆です。人口が減り、空き家が増え、所有者が分からなくなる。制度は、この転換に追いつこうとしている段階にあります。

この記事では、その流れをたどります。個々の法律の中身より、なぜその時期にその法律ができたのかに重点を置きます。

戦後の出発点

農地改革

昭和21年(1946年)から、農地改革が実施されました。不在地主の農地などを国が買収し、小作人に売り渡す政策です。

結果 いまへの影響
小作地が大幅に減少 自作農が主体になった
農地の権利が細分化 一区画あたりの面積が小さい
農地の売買を規制 農地法による許可制へ

せっかく自作農にしたものが再び集積されないよう、農地の権利移動には許可が必要とされました。現在の農地法3条の許可は、この系譜にあります。

シャウプ勧告と固定資産税

土地に毎年課税する仕組みが、ここでできた

昭和24年(1949年)のシャウプ勧告は、日本の税制全体を組み替える提言でした。

土地に関して重要なのは、地方税の中心として固定資産税を位置づけたことです。

内容
課税の主体 市町村
課税の対象 土地、家屋、償却資産
基準 資産の価格(評価額)

市町村が土地の評価を行い、毎年課税する。この仕組みが、翌昭和25年の地方税法で制度化されました。

土地を保有し続けるだけで費用が発生する構造は、ここに由来します。空き家の除却で住宅用地の特例が外れると負担が増えるという論点も、この延長線上にあります。

建築基準法

昭和25年(1950年)、建築基準法が制定されました。戦前の市街地建築物法を引き継ぐものです。

一方、都市計画法は大正8年のものがそのまま使われ続けました。この状態が、昭和43年まで約20年続きます。

高度成長とスプロール

昭和30年代以降、都市への人口集中が急速に進みます。

計画のないまま、市街地が広がった

当時の都市計画法には、市街化を抑える仕組みがありませんでした。

結果として、次のようなことが起こります。

  • 農地が虫食い状に宅地化される
  • 道路や上下水道が後から追いかける形になる
  • 公共投資の効率が悪くなる
  • 宅地としての条件が悪い土地にも住宅が建つ

これがスプロールです。計画的でない市街地の拡散が、社会問題として認識されるようになりました。

昭和43年 ── 最大の転換点

昭和43年(1968年)、都市計画法が全面的に改正されます。いわゆる新都市計画法です。

二つの仕組みが同時に導入された
内容
区域区分(線引き) 市街化区域と市街化調整区域に分ける
開発許可制度 一定の開発行為に許可を要する

市街化区域はおおむね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図る区域。市街化調整区域は市街化を抑制すべき区域

そして、線を引くだけでは実効性がないため、開発許可という手続きで担保しました。

現在の実務で最初に確認する「区域区分」は、このときに生まれた概念です。

この転換が意味したこと

それまで それ以降
建てられる土地か、まず分からない 区域区分で大枠が決まる
開発は基本的に自由 一定規模以上は許可制
インフラは後追い 開発者が整備して帰属させる

「調整区域だから難しい」という実務上の判断は、この改正に始まります。

地価をどう抑えるか

国土利用計画法

昭和47年(1972年)の日本列島改造論を契機に、全国的な土地の投機と地価の高騰が起こります。

これを受けて、昭和49年(1974年)に国土利用計画法が制定されました。

仕組み 内容
国土利用計画 全国・都道府県・市町村の各段階で策定
土地利用基本計画 五地域に区分(都市・農業・森林・自然公園・自然保全)
取引の届出 一定面積以上の取引を届け出させる
規制区域等 地価が高騰する区域での許可・監視

この五地域区分が、「土地法制の見取図」でいうキャンバスにあたります。都市計画法は、そのうちの都市地域について下書きを行う法律です。

バブル期の対応

昭和末期から平成初期にかけて、地価は再び急騰します。監視区域制度の活用や、地価税の創設などの対応がとられました。

地価が下落に転じると、これらの多くは役割を終えます。制度が、その時期の問題に応じて作られ、状況が変われば使われなくなる例です。

平成 ── 拡大から、選択へ

できごと
平成4年 用途地域が12種類に。生産緑地の制度が現在の形に
平成12年 地方分権。都市計画の決定が自治体の事務に。線引きが選択制へ
平成14年 都市再生特別措置法。都市の国際競争力と再生へ
平成18年 大規模集客施設の立地を用途地域で制限(まちづくり三法の見直し)
平成26年 立地適正化計画。誘導区域という考え方
平成18年と平成26年が、方向転換を示している

平成18年の改正は、郊外への大規模施設の立地を抑え、中心部の機能を守ろうとするものでした。

平成26年の立地適正化計画は、さらに踏み込みます。居住や都市機能を、どこに誘導するかを行政が示す仕組みです。

昭和43年の線引きが「これ以上広げない」ための制度だったのに対し、立地適正化計画は「どこに集めるか」を扱います。

抑制から、誘導へ。人口が減る前提に立った制度設計は、ここから本格化します。

地方分権の影響

平成12年(2000年)の地方分権により、都市計画の多くが自治体の事務になりました。

線引きを行うかどうかも、原則として都道府県の判断とされます。市町村によって制度の運用が異なるのは、この改正以降の特徴です。

実務上は、「その自治体ではどう運用されているか」を確認する必要が生じました。

令和 ── 増えるものへの対応

近年の立法は、人口減少に伴って増えるものをどう扱うかに向いています。

課題 対応
空き家 空家法(平成26年制定、令和5年改正)
所有者不明土地 民法・不動産登記法の改正(令和3年)
相続登記がされない 相続登記の申請義務化(令和6年施行)
引き取り手のない土地 相続土地国庫帰属制度(令和5年施行)
危険な盛土 盛土規制法(令和5年施行)
脱炭素 建築物省エネ法、都市緑地法などの改正
所有権の強さが、逆向きに効いている

明治以来、日本の制度は所有権を強く保護してきました。

土地が資産として価値を持つ間、これは問題になりませんでした。しかし、持っていることが負担になる土地が増えると、状況が変わります。

  • 所有者が相続を放置し、権利者が分からなくなる
  • 管理されない土地・建物が周囲に影響を及ぼす
  • 所有者が特定できないため、行政も手を出せない

近年の改正は、この状態にどう対処するかを扱っています。登記の義務化、管理制度の新設、国庫への帰属。いずれも、所有権の絶対性に一定の調整を加えるものです。

いま、どの段階にいるか

時期 制度が扱っていた問題
明治〜戦前 所有権の確立、都市の骨格づくり
戦後〜昭和40年代 拡大の管理。スプロールと地価
昭和50年代〜平成初期 地価の抑制、環境と用途の調整
平成中期〜 縮小への対応。誘導と集約
令和〜 管理されない土地・建物への対応

制度は、その時期の問題に応じて積み重ねられてきました。

したがって、古い制度と新しい制度が同時に存在します。拡大期に作られた仕組みと、縮小期に作られた仕組みが、同じ土地に重なって適用されることがあります。

実務にどう効くか

制度の目的を確認する

ある規制が何のためにあるのかは、その制度が作られた時期を見ると分かることがあります。

制度 作られた背景
区域区分 市街地の無秩序な拡散を防ぐ
農地転用の許可 農地改革の成果を守る、食料生産の基盤を維持
国土利用計画法の届出 投機的な取引と地価の高騰を抑える
立地適正化計画 人口減少下での機能の維持

目的が分かると、行政との協議で「何を心配しているのか」が読めます。

自治体ごとの違いを前提にする

地方分権以降、運用は自治体によって異なります。

線引きの有無、条例による上乗せ、集落内開発などの独自制度。「一般的にはこう」で判断せず、その自治体で確認してください。

新しい制度は、まだ動いている

令和期の立法は、施行から間もないものが多くあります。

運用の蓄積が少なく、自治体によって対応が固まっていない場合があります。最新の状況を、その都度確認してください。

制度を読むときの視点
  • その制度がいつ作られたか確認した
  • 作られた当時、何を問題としていたか考えた
  • 拡大期の制度か、縮小期の制度かを区別した
  • 複数の制度が同じ土地に重なっていないか確認した
  • 地方分権以降の運用差を前提にしたその自治体で確認する
  • 条例による上乗せ・独自制度がないか確認した
  • 近年施行された制度は、運用が固まっていない可能性を踏まえた
  • 規制の目的が分かると、協議で何を示せばよいかが見える

まとめ

  • 戦後の制度は「増えていく」前提で作られた。拡大の管理が課題だった。
  • 昭和43年の新都市計画法で、線引きと開発許可が始まった。最大の転換点。
  • 平成26年の立地適正化計画で、抑制から誘導へ軸が移った。
  • 令和期の立法は、管理されない土地・建物への対応に向いている。
  • 古い制度と新しい制度が同じ土地に重なる。どの時期の制度かを意識して読む。
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