CHIOU / 株式会社地央

マンションの管理と再生 ── 二つの老い

この記事の要点
  • 問題の根は二つの老い。建物の老朽化と、区分所有者の高齢化が同時に進む
  • 修繕積立金の不足は、値上げの決議が通らないことで固定化する
  • 再生の選択肢は四つ。修繕・改修・建替え・敷地売却
  • いずれも合意形成が最大の関門。所在不明の区分所有者が障害になる

戸建て住宅であれば、所有者が一人で判断できます。マンションはそうではありません。

修繕するにも、建て替えるにも、多数の区分所有者の合意が要ります。

この記事では、その難しさの構造と、用意されている仕組みを整理します。

二つの老い

建物と、人が、同時に古くなる

マンションの問題は、二つの老いが重なることで深刻になります。

起こること
建物の老い 外壁、防水、配管、設備。修繕の費用が増える
人の老い 区分所有者が高齢化し、収入が年金中心になる

この二つが同時に進むと、次の連鎖が生じます。

  1. 修繕が必要になるが、費用を出せない世帯が増える
  2. 積立金の値上げが決議できない
  3. 必要な修繕が先送りされる
  4. 建物の傷みが進み、さらに費用がかかるようになる
  5. 資産価値が下がり、賃貸化・空室化が進む
  6. 管理への関心が薄れ、役員の担い手がいなくなる

一度この循環に入ると、抜け出すのが難しくなります。

管理の仕組み

マンションは、区分所有法に基づいて管理されます。

内容
専有部分 各区分所有者が単独で所有する部分
共用部分 廊下、階段、外壁、屋上、配管など
管理組合 区分所有者全員で構成される。加入・脱退の選択はない
規約 そのマンションの基本的なルール
集会(総会) 意思決定の場
専有部分と共用部分の境目

実務でよく問題になるのが、どこまでが専有部分かという点です。

  • 玄関扉 錠と内側の塗装は専有、それ以外は共用とする規約が多い
  • 窓・サッシ 共用とされることが多い
  • バルコニー 共用部分の専用使用権という扱いが一般的
  • 配管 本管は共用、専有部分内の枝管は専有とする例が多い

規約によって定めが異なります。

修繕の費用を誰が負担するか、勝手に交換できるかは、この区分で決まります。取引の際は規約を確認してください。

修繕積立金

長期修繕計画

大規模な修繕は、あらかじめ計画を立て、積立てを行うのが基本です。

時期の目安 主な工事
十数年ごと 外壁の補修、屋上防水、鉄部の塗装
より長い周期 給排水管の更生・更新、エレベーターの更新
随時 設備の故障への対応

計画は、定期的に見直す必要があります。資材や人件費が上がれば、必要額も変わります。

当初の設定が低いことがある

分譲の時点で、修繕積立金が低く設定されていることがあります。

月々の負担が小さいほうが、購入時には売りやすいためです。

その場合、次のいずれかが必要になります。

  • 途中で値上げする 決議が要る
  • 修繕の時期に一時金を徴収する 同意を得にくい
  • 借入れをする 返済の負担が残る
  • 工事の内容を縮小する 建物の傷みが進む

購入の際は、積立金の額だけでなく、長期修繕計画と積立ての残高を確認してください。

「管理費・修繕積立金が安い」ことは、必ずしも有利ではありません。

滞納

管理費・修繕積立金の滞納は、他の区分所有者の負担になります。

滞納が生じている場合、その額と、対応の状況を確認してください。

なお、滞納がある住戸を取得すると、その債務を引き継ぐことになります。取引の際に精算するのが通常です。

管理計画認定制度

管理の状態を、外から分かるようにする

マンション管理適正化法に基づき、市町村が管理計画を認定する制度があります。

内容
申請 管理組合が、管理計画を作成して申請する
認定 推進計画を作成した市町村が行う
基準 管理者の設置、集会の開催、長期修繕計画の内容、積立金の設定など
期間 一定期間ごとに更新

管理が適切に行われていることを、外部に示せるようになります。

これにより、次のことが期待されています。

  • 購入を検討する人が、管理の状態を判断できる
  • 管理の良いマンションが評価される
  • 結果として、管理に取り組む動機が生まれる

認定を受けたマンションについて、税制上の措置や融資の優遇が設けられている場合があります。

市町村の役割

認定を行うには、市町村がマンション管理適正化推進計画を作成している必要があります。

また、市町村は管理組合に対して助言・指導を行うことができます。管理が著しく不適切な場合には、勧告も可能です。

管理不全のマンションは、周辺の環境にも影響します。行政が関与する根拠が設けられています。

再生の選択肢

選択肢 内容 合意の要件
修繕 現状を維持する 比較的緩やか
改修 性能を上げる。耐震、断熱、バリアフリー 内容による
建替え 取り壊して建て直す 厳しい
敷地売却 敷地ごと売却し、解散する 厳しい。要件がある

建替え

合意と資金の、二つの壁がある

建替えの決議には、区分所有者および議決権の各5分の4以上の賛成が必要です。

これが第一の壁です。しかし、より大きいのは資金の問題です。

  • 従前と同じ広さを確保するには、追加の負担が生じることが多い
  • 高齢の区分所有者が、その負担に応じられない
  • 工事期間中の仮住まいの費用
  • 賃貸に出している所有者と、居住している所有者で意向が異なる

従来、建替えが成立してきた例の多くは、容積率に余裕があり、増えた分の住戸を売却して費用を賄えた場合です。

容積率をすでに使い切っているマンションでは、この方法が使えません。

マンション建替え等円滑化法により、一定の要件を満たす場合に容積率の特例を受けられる仕組みが設けられています。

敷地売却

建替えではなく、敷地ごと売却して管理組合を解散するという選択肢があります。

内容
前提 耐震性が不足しているなど、一定の要件に該当することの認定
決議 区分所有者等の5分の4以上
結果 売却代金を分配し、各自が転出する

建替え後も住み続けたい人がいない場合、こちらのほうが現実的なことがあります。

ただし、転出先を各自が確保する必要があります。高齢者にとっては容易ではありません。

合意形成の実際

所在不明の区分所有者

決議には、分母となる区分所有者の総数が関わります。

したがって、所在が分からない区分所有者がいると、その分だけ賛成を集めるのが難しくなります。

  • 相続が発生し、登記がされていない
  • 転居して連絡先が不明
  • 投資目的で取得し、関心がない
  • 海外に居住している

この問題への対応として、区分所有法制の見直しが進められています。

所在不明の区分所有者を決議の母数から除外する仕組みや、決議の要件の緩和などが議論されてきました。

改正の内容と施行の時期については、法務省が公表する最新の情報を確認してください。

進め方

すること
建物の状態を調査する劣化診断、耐震診断
区分所有者の状況を把握する居住・賃貸・不明
選択肢ごとの費用を試算する
情報を共有し、意見を聴く
方向性を絞り込む
決議

四番目に最も時間がかかります。

数年をかけて検討している事例が多くあります。建物が傷んでから始めると、間に合いません。

取引で確認すること

確認するもの 備考
管理規約 専有・共用の区分、使用の制限
長期修繕計画 次の大規模修繕の時期と内容
修繕積立金の残高 計画に対して足りているか
滞納の状況 全体の滞納額、当該住戸の滞納
総会の議事録 過去数年分。何が議論されているか
修繕の履歴 これまでに何を行ったか
管理計画認定 受けているか
耐震性 診断の実施と結果
再生の検討状況 建替え等の議論が始まっていないか
議事録に、実情が表れる

数値だけでは分からないことが、総会の議事録に表れます。

  • 出席者・議決権行使の状況 関心の度合い
  • 役員のなり手がいるか
  • 修繕をめぐる意見の対立
  • 滞納への対応
  • 賃貸化の進行

過去数年分を通して読むと、管理組合の状態が見えます。

重要事項説明では、管理に関する事項が説明されます。それに加えて、議事録の閲覧を求めてください。

マンションに関する確認
  • 管理規約を確認した専有・共用の区分
  • 長期修繕計画の内容と見直しの状況を確認した
  • 修繕積立金の残高が計画に足りているか確認した
  • 積立金の額が当初から見直されているか確認した
  • 滞納の状況を確認した全体と、当該住戸
  • 総会の議事録を数年分読んだ
  • 修繕の履歴を確認した
  • 耐震診断の実施と結果を確認した
  • 管理計画認定の有無を確認した
  • 建替え・敷地売却の検討状況を確認した
  • 賃貸化・空室の状況を確認した
  • 役員のなり手の状況を確認した
  • (再生を検討)建物の調査と、区分所有者の状況把握から始めた
  • (再生を検討)合意形成に数年かかることを前提にした

まとめ

  • 問題の根は二つの老い。建物の老朽化と、区分所有者の高齢化が同時に進む。
  • 修繕積立金の不足は、値上げの決議が通らないことで固定化する。
  • 再生の選択肢は修繕・改修・建替え・敷地売却。後の二つは合意の要件が厳しい。
  • 建替えの壁は決議より資金。容積率に余裕がなければ成立しにくい。
  • 所在不明の区分所有者が障害になる。区分所有法制の見直しが進められている。
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