BIM/CIMの導入判断 ── 止まるのは、技術ではない
- 三次元化が目的ではない。情報を受け渡す形を変える話
- 止まるのは技術ではなく、受け取る側の体制
- 法定の手続きは紙と図面が前提。そこが接続点になる
- 全庁導入から始めない。一件で試して、型を作る
設計から施工、維持管理まで、同じデータを使い回す。
BIM/CIMが目指すのはこれです。三次元で見えることは、その副次的な効果にすぎません。
この記事では、自治体が導入を判断するとき何を見るかを整理します。
何が変わるのか
従来、情報は工程ごとに作り直されてきました。
| 工程 | 作られるもの |
|---|---|
| 計画 | 計画図、概算 |
| 設計 | 設計図、数量表、積算 |
| 施工 | 施工図、施工計画 |
| 完成 | 竣工図 |
| 維持管理 | 台帳、点検記録 |
それぞれ別の書類で、作り直すたびに情報が落ちます。
数量が合わない。設計変更が竣工図に反映されていない。維持管理の段階では、そもそも図面がどこにあるか分からない。
一つのデータを引き継ぐ形にすれば、この欠落が減ります。これが本体です。
三次元であることの意味
- 干渉が事前に見つかる 配管と構造がぶつかる、など
- 数量を自動で拾える
- 説明の場で、専門でない人にも伝わる
- 完成後の姿を確認できる
最も効くのは三つ目です。住民説明や議会への説明で、図面が読めない相手にも状況が伝わります。
なぜ止まるのか
国が方針を示しても、市町村の現場では進まないことが多くあります。
| 壁 | 実際に起きること |
|---|---|
| 人 | 扱える職員がいない。異動で途切れる |
| 費用 | ソフト、機材、研修。効果が数字で示しにくい |
| 手続き | 法定の様式が紙と図面を前提にしている |
| 受注者側 | 対応できる事業者が地域に限られる |
| 前例 | 誰も判断したがらない |
三つ目が本質的です。
データで作っても、申請や協議には印刷した図面が要ります。結局、両方を作ることになり、手間が増える。
これでは現場が納得しません。どこで紙に落とすかを、先に決めておく必要があります。
異動で途切れる問題
自治体では、数年で担当が替わります。
- 覚えた職員がいなくなる
- 後任は一から学ぶ
- 使われないまま、ソフトの費用だけ残る
個人の技能に依存させないでください。
手順を書面にし、外部に委託する部分と庁内で行う部分を分ける。そうすれば、担当が替わっても止まりません。
判断の三つの視点
導入の効果は、短期の費用削減としては出にくいものです。
むしろ最初は、従来の方法と併走するため費用が増えます。
| 見るべき効果 | 内容 |
|---|---|
| 手戻りの減少 | 設計変更、施工中の干渉、数量の食い違い |
| 説明の質 | 住民・議会への説明が伝わる |
| 情報の継承 | 数十年後、次の世代が使える |
三つ目が、公共施設では最も大きい効果です。
橋も庁舎も、建てた人がいなくなった後も使い続けます。そのときに図面がなければ、調査からやり直しです。
標準化して、つなげる
各部局が別々のソフトで、別々の形式で作れば、データはつながりません。
- 形式を揃える
- どの情報を、どこまで入れるか決める
- 保管の場所とルールを決める
- 受注者に求める仕様を統一する
これを決めずに個別に始めると、後で統合できません。
上と下の両方から
| 役割 | |
|---|---|
| 上層部 | 方針の決定、予算、部局横断の調整 |
| 現場 | 実際に使えるかの検証、改善の提案 |
どちらか一方では続きません。
方針だけあって現場が使えなければ形骸化し、現場が頑張っても予算と制度がなければ広がりません。
進め方
| 段階 | やること | 決めること |
|---|---|---|
| 一 | 目的と範囲を定める | 何のために、どこまで |
| 二 | 一件で試す | 実際に使えるか |
| 三 | 手順と仕様を書面にする | 庁内で共有できる形 |
| 四 | 対象を広げる | 続けられる体制 |
二段階目が要です。
規模が小さく、工期に余裕があり、失敗しても影響が限られる案件を選んでください。
そこで分かることは、次のようなものです。
- どの工程で手間が減り、どこで増えたか
- 紙に落とす必要が、実際どこで生じたか
- 受注者が対応できたか
- 庁内の誰が、どれだけ関わる必要があったか
- 次に同じことをするとき、何を用意しておけばよいか
これを書き留めることが、三段階目の材料になります。
説明の場での使い方
三次元の画面は、説明会で強い印象を与えます。
だからこそ、注意が要ります。
| 避けるべきこと | なぜ |
|---|---|
| 完成予想の映像だけ見せる | 決定済みという印象を与える |
| 見栄えのする角度だけ | 影響が大きい面を隠したと受け取られる |
| 確定していない部分を描き込む | 約束したと理解される |
| 操作を担当者だけが握る | 見たい角度を見せてもらえない |
何が確定していて、何が未定かを、画面上でも区別してください。
模型や図面と同じで、表現されたものは「そうなる」と受け取られます。
あわせて、影響を受ける側から見た視点を必ず示してください。事業者の側から見た完成予想だけでは、信頼を得られません。
権利変換への活用
市街地再開発事業では、床面積や評価の根拠を示す必要があります。
- 数量の根拠をデータとして保持できる
- 変更があったとき、何がどう変わったか追える
- 権利者に、自分の床がどこになるか示せる
法定の手続きは、書面と図面を前提としています。
データをそのまま根拠として扱えるかは、自治体の制度整備と運用によります。
現時点では、データで作り、書面で提出するという併用になります。
導入を検討する際、この二重の手間をどう扱うかを先に決めてください。
効果をどう測るか
| 測るもの | 見方 |
|---|---|
| 手戻りの回数 | 設計変更、施工中の不整合 |
| 照会・確認の件数 | 関係者からの問い合わせが減ったか |
| 説明に要した回数 | 合意までの期間 |
| データの利用 | 維持管理の段階で実際に使われたか |
| 扱える職員 | 何人が、どの程度 |
最後の項目を忘れないでください。
一人しか扱えない状態は、導入していないのと変わりません。
- 目的を定めた三次元化そのものを目的にしない
- どの工程で使うか範囲を定めた
- 法定手続きで紙に落とす箇所を確認した
- 二重の手間をどう扱うか決めた
- 形式・仕様を統一する方針を決めた
- 保管の場所とルールを決めた
- 小規模な案件で先に試した
- 試行の結果を書面に残した
- 手順を、個人の技能に依存しない形にした
- 異動があっても続く体制にした
- 受注者が対応できるか確認した
- (説明の場)確定と未定を区別して示した
- (説明の場)影響を受ける側の視点を示した
- 扱える職員の数を把握した
まとめ
- 目的は情報の受け渡し。三次元であることは手段にすぎない。
- 止まるのは技術ではなく、受け取る側の体制と手続き。
- 法定手続きは書面が前提。どこで紙に落とすかを先に決める。
- 全庁から始めない。小さく試し、手順を書面にしてから広げる。
- 説明の場では、確定と未定を区別して示す。
自治体職員、専門職団体、事業者の皆様向けにお引き受けしています。庁内での進め方と、説明の場での使い方をお話しします。
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