CHIOU / 株式会社地央

消費者契約法 ── 宅建業法を守っていても、足りないところ

この記事の要点
  • 相手が消費者なら、宅建業法とは別にこの法律が働く
  • 取り消せるのは意思表示に問題があった場合。四つの類型がある
  • 契約書に書いてあっても、無効となる条項がある
  • 「言っていない」ではなく、言うべきことを言わなかったことも問われる

宅建業法を守っていれば十分か。相手が消費者である限り、そうではありません。

消費者契約法は、事業者と消費者の間にある情報と交渉力の差を前提に作られた法律です。

この記事では、不動産取引で効いてくる場面を整理します。

どういう場面で働くか

当事者の属性で決まる
適用
事業者 ─ 消費者 適用される
事業者 ─ 事業者 適用されない
消費者 ─ 消費者 適用されない

「消費者」とは、事業としてまたは事業のために契約する場合を除いた個人です。

注意すべき点があります。

  • 個人が投資用に買う場合、事業性が問題になりうる
  • 個人事業主が事務所として借りるなら、消費者ではない
  • 賃貸経営をしている個人は、貸主としては事業者となりうる

どちらとも言い切れない場合があります。迷うなら、消費者として扱うほうが安全です。

取り消せる四つの場合

意思表示に問題があったとき
類型 内容
不実告知 重要事項について、事実と異なることを告げた
断定的判断の提供 不確実な事項について、確実だと告げた
不利益事実の不告知 利益を告げながら、不利益な事実を故意等により告げなかった
困惑させる行為 退去しない、退去させないなど

これらにより誤認・困惑して契約したときは、取り消すことができます。

民法の詐欺と違い、相手をだます意図までは必要とされない類型があります。ここが実務上、重要な差です。

不実告知

意図せず起きるのは、たいていこれです。

  • 接道の状況を誤って伝えた
  • 用途地域を取り違えた
  • 再建築の可否を誤って説明した
  • 面積・築年数の誤り
  • 管理費・修繕積立金の額の誤り
  • 設備の有無や状態

「悪気はなかった」は理由になりません。

資料の転記ミス、確認不足、古い情報のまま。原因が過失であっても、告げた内容が事実と違えば該当しえます。

断定的判断の提供

将来の価格や収益を「確実」と告げない

不確実な事項について、確実であるかのように告げることが禁じられています。

危ない言い方 なぜ
「この辺りは必ず値上がりします」 将来の価格は不確実
「満室経営は確実です」 入居は保証できない
「利回り◯%は堅いです」 空室・修繕で変動する
「再開発は決まっています」 計画段階のものを確定として語らない
「すぐ売れます」 売却の見通しは不確実

宅建業法も、断定的判断の提供を禁じています。二重に問題になります。

示すなら、根拠のある事実にとどめてください。「こういう計画があります」「過去の推移はこうです」という形です。

不利益事実の不告知

良い面を告げながら、悪い面を告げなかった場合が対象です。

「陽当たりが良く、眺望も開けています」と説明した。
隣地に高層建築の計画があることを知っていたが、伝えなかった。

利益を強調したことで、消費者は不利益がないと考えます。そこに落差が生まれます。

  • 近隣に建築計画がある
  • 接道・私道に問題がある
  • 近隣とのトラブルの経緯
  • 過去の浸水・地盤の履歴
  • 大規模修繕が近く、負担金が見込まれる

「聞かれなかったから答えなかった」では済みません。

無効となる条項

書いてあっても効かない
類型 内容
責任を全部免れる条項 事業者の損害賠償責任を全部免除する定め
重過失の場合の一部免除 故意・重過失による責任を一部免除する定め
過大な違約金 平均的な損害の額を超える部分
過大な遅延損害金 一定の率を超える部分
消費者の利益を一方的に害する条項 信義則に反して不当なもの

契約書に印刷されていても、これらは効力を持ちません。

「双方が署名したから有効」という理解は誤りです。

賃貸借でよく問題になるもの

条項 問題になる点
敷金を一切返還しない 通常損耗の負担を一方的に負わせている
退去時に一律で全面張替え 経年変化まで借主負担としている
更新料 額と趣旨が説明されているか
解約時の違約金 平均的な損害を超えていないか
貸主は一切責任を負わない 全部免除にあたりうる

これらは、消費者契約法と借地借家法の両方から検討されます。

個別の条項が有効かは、内容と説明の状況によって判断されます。具体的な紛争は、弁護士にご相談ください。

宅建業法との関係

別々に働く
宅建業法 消費者契約法
目的 業者の規制 消費者の保護
効果 行政処分・刑事罰 取消し・無効
相手 誰でも 消費者に限る
義務の範囲 条文が定めた事項 より広い

重要事項説明を形式どおり行っても、消費者契約法上の問題は残りえます。

説明書に記載があっても、口頭で誤解を招く説明をしていれば、そちらが問題になります。

逆に、法定の説明事項でなくても、利益を強調して不利益を隠せば該当します。

実務でどう備えるか

すること
断定的な表現を使わない 必ず・確実に・間違いなく
利益を伝えたら、対になる不利益も伝える
不確かなことは「確認します」と答える
説明した内容を記録に残す
広告・資料の表現を点検する
契約書の免責条項を見直す
記録が身を守る

争いになったとき、「そう説明した」「聞いていない」の水掛け論になります。

記録があれば、説明の内容と時期を示せます。

  • 説明した事項と日付を、書面で交付する
  • 口頭で伝えた懸念事項も、メールや書面で残す
  • 資料を渡したら、渡した記録を取る
  • 相手からの質問と、それへの回答を記録する
  • 調査の限界を伝えた場合、その旨も残す

これは相手を疑うためではありません。後で双方が困らないための備えです。

取り消された場合

契約が取り消されると、はじめから無効であったものとして扱われます。

  • 受け取った代金は返還する
  • 引き渡した物件は返してもらう
  • 現に利益を受けている限度で返還する規定がある
  • 取消権には期間の制限がある

取引が成立してから相当期間が経っていても、取り消される可能性があります。

期間の起算点や長さは条文で定められています。具体的な判断は弁護士にご確認ください。

消費者契約法に関する確認
  • 相手が消費者かどうか確認した迷うなら消費者として扱う
  • 断定的な表現を使っていない
  • 将来の価格・収益を確実と告げていない
  • 利益を伝えたら、対になる不利益も伝えた
  • 不確かなことは持ち帰って確認した
  • 資料の数値を原典で確認した面積・築年数・費用
  • 説明した内容を記録に残した
  • 口頭で伝えた懸念も書面に残した
  • 広告・資料の表現を点検した
  • 契約書の免責条項を見直した
  • (賃貸)原状回復の負担区分を明示した
  • (賃貸)違約金が平均的な損害を超えていない

まとめ

  • 相手が消費者なら、宅建業法とは別にこの法律が働く。
  • 不実告知・断定的判断・不利益事実の不告知・困惑。四つで取り消されうる。
  • だます意図がなくても該当する類型がある。過失でも問われる。
  • 契約書に書いてあっても無効となる条項がある。署名しても効かない。
  • 争いは水掛け論になる。説明の記録が身を守る。
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