CHIOU / 株式会社地央

合意形成の設計 ── なぜ、進め方で止まるのか

この記事の要点
  • 合意形成は全員が賛成することではない
  • 反対の理由は中身より進め方にあることが多い
  • 意見を聴く場は、何が決まっていて何が未定かを先に示す
  • 言いっぱなしにしない。どう扱ったかを返す

説明会が、意見のぶつけ合いで終わる。庁内の調整が進まない。

法的には問題のない計画が、段取りのところで止まります。

この記事では、なぜ止まるのか、どう設計するかを整理します。

まず、言葉の意味を絞る

全員賛成を目指すと、失敗する

合意形成を「関係者全員が納得すること」と考えると、たいていの計画は成立しません。

利害が対立する場面では、誰かが必ず不利益を負います。

目指すもの 現実的か
全員が賛成する ほぼ不可能
反対する人が納得する 難しい
決め方に納得してもらう 現実的
意見を述べる機会があったと認めてもらう これが土台

「結論に賛成できないが、手続きは公正だった」という状態を目指します。

そこまで到達していれば、計画は進みます。そこが崩れると、内容の是非以前に止まります。

なぜ紛糾するのか

反対の理由は、中身より進め方にある

説明会で出る意見を分けると、次のようになります。

類型 実際に言われること
内容への反対 その計画は望ましくない
手続きへの不満 なぜ今まで知らされなかったのか
信頼の欠如 どうせ決まっているのだろう
影響の不明 自分にどう関わるのか分からない
代替案の不在 他の選択肢はなかったのか

一つ目だけが「内容」の話です。

残り四つは、進め方によって減らせます。そして実際の紛糾は、二つ目以降が引き金になることが多くあります。

「もう決まっている」と思われる理由

  • 資料が完成した図面だけ 検討過程が見えない
  • 説明会が一度きり
  • 質疑の時間が短い
  • 「ご理解ください」で終わる
  • 代替案が示されない
  • 誰が決めたのか分からない

実際に決まっていることもあります。問題は、それを隠すことです。

決まっている部分と、まだ動かせる部分を分けて示せば、話は前に進みます。

場を設計する

開く前に決めておく四つ
決めること
目的 報告なのか、意見を聴くのか、決めるのか
範囲 何が決まっていて、何が未定か
扱い 出た意見を、どう反映するか
この場の後、どう進むか

これを冒頭で明示してください。

とくに二つ目です。「ご意見を伺います」とだけ言って始めると、動かせない部分にも意見が集中します。

そして「それは変えられません」と答えることになり、「聞くと言ったのに」という不信を生みます。

言い方の例

本日は、都市計画決定の前段階として、計画案をご説明します。

路線の位置と幅員は、上位計画で決まっており、この場では変更できません。

一方、交差点の形状、歩道の仕様、街路樹の種類、工事の時間帯については、
ご意見を反映できます。

いただいたご意見は、次回の説明会で対応方針とともにお示しします。

できないことを先に言うほうが、信頼されます。

意見の扱い方

言いっぱなしにしない

出た意見をどう扱ったかを、必ず返してください。

これを怠ると、「言っても無駄だった」という記憶だけが残ります。次の機会には、誰も来なくなります。

返し方 内容
反映した どこをどう変えたか
一部反映した どこまでできたか、なぜ全部でないか
反映できなかった 理由を具体的に。「困難」で終わらせない
今後の検討 いつ、誰が、どう検討するか

三つ目が最も重要です。

「予算の都合上困難です」ではなく、「この区間の拡幅には用地買収が必要で、現在の事業費では対応できません。次期計画で検討します」と述べる。

理由が具体的なら、納得されなくても信頼は保てます。

誰を呼ぶか

見落としやすい相手
土地の権利者 共有者、抵当権者、借地人
居住者 賃借人。所有者と別に告知が要る
事業者 沿道の店舗、搬入業者
通行者 住んでいないが日常的に使う人
将来の利用者 子ども、これから移り住む人
影響を受ける周辺 迂回交通が増える地域
来ない人が、後で問題になる

説明会に来るのは、関心が高く、時間がある人です。

働いている人、子育て中の人、高齢で外出しにくい人は来られません。

その人たちが後から「知らなかった」と言ったとき、「説明会で説明しました」は通りにくくなります。

補う方法です。

  • 開催の時間帯を分ける 平日夜と休日
  • 同じ内容を複数回
  • 資料の配布と、書面での意見受付
  • オンラインでの閲覧と質問
  • 自治会・事業者団体を通じた周知
  • 個別訪問

庁内の合意も同じ構造

部局間で止まる理由

住民との合意より先に、庁内の調整で止まることがあります。

止まる原因 実際に起きること
所管が曖昧 どちらの仕事か決まらない
相談の順序 後の部局で前提が崩れる
情報の非対称 一部の部局だけが経緯を知っている
前例がない 誰も判断したがらない
時期 予算・人事の時期と噛み合わない

対処は、住民との場合と同じです。

  • 関係する部局を最初に洗い出す
  • 同席の場を作り、順に回らない
  • 決まっていることと未定のことを分けて示す
  • 誰が何を判断するかを明確にする
  • やりとりを記録し、共有する

順に相談すると、後の部局の指摘で前提が崩れ、最初からやり直しになります。

ワークショップという手法

意見を出し合う場の作り方として、参加者が手を動かす形式が用いられます。

向いている場面 向かない場面
構想の段階 すでに案が固まっている
選択肢を広げたい 利害が鋭く対立している
関係者が多様 法的な説明が主目的
時間に余裕がある 結論を急ぐ
形式だけ真似ない

模造紙とふせんを用意すれば、形はできます。

しかし、出た意見を使う気がなければ、参加者はすぐ気づきます。

  • 結論が決まっているのに、意見を出させる
  • 楽しい雰囲気を作るが、反映の道筋を示さない
  • まとめた模造紙が、その後どこにも出てこない
  • 対立点を避けて、当たり障りのない話に誘導する

これをやると、次から人が集まりません。

手法は目的に従います。意見を反映する仕組みがあって、初めて意味を持ちます。

進行役の役割

  • 自分の意見を述べない
  • 発言が偏らないようにする
  • 論点を整理して返す
  • 時間を管理する
  • 結論を誘導しない
  • 記録が残る形にする

事業の担当者が進行役を兼ねると、公平性が疑われます。

可能であれば、計画に利害のない者が担うほうが、場が落ち着きます。

合意形成の設計に関する確認
  • 目的を決めた報告か、意見聴取か、決定か
  • 決まっていることと未定のことを分けた
  • 冒頭で、変えられない範囲を明示した
  • 意見をどう反映するか、道筋を示した
  • 次の予定を示した
  • 関係者を洗い出した賃借人・借地人・沿道事業者
  • 来られない人への手当てをした
  • 開催の時間帯を分けた
  • 書面・オンラインでの意見受付を用意した
  • 出た意見の扱いを、後日返した
  • 反映できない理由を具体的に述べた
  • (庁内)関係部局を最初に洗い出した
  • (庁内)順に回らず、同席の場を作った
  • やりとりを記録し、共有した

まとめ

  • 合意形成は全員賛成ではない。決め方に納得してもらうことを目指す。
  • 紛糾の引き金は、中身より進め方にあることが多い。
  • できないことを先に言う。それが信頼につながる。
  • 出た意見の扱いを必ず返す。言いっぱなしにすると次から人が来ない。
  • 庁内の調整も同じ構造。順に回ると前提が崩れる。
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