山林の境界 ── 公図の精度、地籍調査、境界の明確化
- 山林の境界の確かめ方は、法務局の図面が「地図」か「地図に準ずる図面」かで大きく分かれる
- 地籍調査が済んでいても、現地の目印が残っているとは限らない。「筆界未定」のまま残った土地もある
- 林業のための「森林境界の明確化」は、登記の筆界を確定させるものではない
- 隣と話がつかない、隣の所有者がわからないときは、筆界特定制度がある
- 国庫帰属では、測量図は必須ではないが、境界点に目印を立てて写真で示す必要がある
山の境界は、測量すれば決まる。そう思われることが多いのですが、測量は線を測る作業であって、どこが境界かを決める作業ではありません。
山林の境界は、法務局の図面、地籍調査の成果、現地の目印、隣の山の所有者の認識を突き合わせて確かめていくものです。どの材料がどれだけ残っているかは、山ごとに違います。
この記事は、山林の境界を確かめるときに最初に見るもの、地籍調査の有無による進め方の違い、話がつかないときの手当てを整理したものです。
山林には、三種類の線がある
山林で「境界」と言うとき、実際には性質の違う線が混ざっています。
| 何を示す線か | 誰が決めるか | |
|---|---|---|
| 筆界 | 登記された一筆の土地の範囲 | 土地が登記されたときに定まり、当事者の合意では動かない |
| 所有権界 | 実際に誰がどこまで持っているか | 当事者の合意や時効で動くことがある |
| 森林管理の区画 | 森林計画図の林小班、施業のための境界 | 森林を管理する目的で行政や事業者が整理する |
売る、国に返す、分けるといった出口で問われるのは、主に筆界です。筆界と所有権界の違いは境界がわからない土地を相続した ── 筆界と所有権界は別のもので整理しました。この記事では、山林に固有の事情を扱います。
まず、法務局の図面の種類を確かめる
法務局には、土地の位置や形を示す図面が備え付けられています。これが二種類に分かれます。
| 地図(14条地図) | 地図に準ずる図面(公図) | |
|---|---|---|
| もとになったもの | 地籍調査などの精度の高い測量 | 大部分は明治期の旧土地台帳附属地図 |
| 座標 | ある。現地に復元できる | ない。おおよその位置と隣接関係を示す |
| 山林での実情 | 地籍調査が済んだ地域に備わる | 形も位置も現地と大きくずれていることが多い |
国土交通省の資料でも、山村部には精度のきわめて低い古い公図が多く、現況とのずれが大きいと指摘されています。
写しを取っただけでは、それが「地図」なのか「地図に準ずる図面」なのかは判別しにくいものです。図面の欄外の表示を見るか、法務局で種別を確かめてください。
どちらかによって、この先の進め方が変わります。
地籍調査が済んでいる山
熊本県内は地籍調査を終えた市町村が多いので、まず自分の山がこちらに当たるかを確かめます。地籍調査が済んでいれば、一筆ごとに測量され、その成果が法務局の地図と登記簿に反映されています。境界点には座標があるので、目印が失われていても、測量によって位置を現地に戻すことができます。
ただし、調査が済んでいても安心とは限りません。
- 現地の目印が残っていない。調査の後に杭が抜けたり、埋もれたりしていることは珍しくない
- 「筆界未定」のまま残った土地がある。調査のときに立会いがまとまらなかった土地は、筆界を定めないまま処理されている
- 調査の後に分筆や合筆がされている。その部分は別の図面で確かめる
筆界未定の土地は、地図の上では関係する筆がひとまとまりに表示され、それぞれの範囲が示されていません。売ったり国に返したりする前に、筆界を定め直す手続きが要ります。
なお、令和6年の地籍調査の規程の改正で、通知に反応しない所有者について、筆界案を送って20日間意見がなければ確認があったとみなす手続きが設けられました。これから調査が入る地域では、筆界未定が生じにくくなっています。
地籍調査が済んでいない山
地籍調査が済んでいない山では、公図は位置の手がかりにとどまります。境界を確かめる材料は、次のようなものです。
- 尾根、沢、谷筋といった地形
- 境界に植えられた木、石積み、古い杭や標石
- 植林の樹種や林齢の違いが作る線
- 隣接する山の所有者と、先代を知る人の記憶
このうち、失われやすいのは人の記憶です。相続したらまず聞いて記録しておくべきことは、山林・原野を相続した ── 森林法の届出と、境界のない土地にまとめています。
地籍調査では、航空レーザ測量や空中写真から地形や樹種の違いを読み取り、筆界案をつくって、集会所などで所有者に確認してもらう方法が使われるようになりました。林地で調査された面積のうち、この方法による割合は大きく伸びています。
高齢の所有者が急な山に立ち入らずに済むので、山林の調査を進める手段として期待されています。自分の山のある市町村で予定があるかどうか、地籍調査の担当課に聞いてみてください。
森林境界の明確化は、筆界の確定ではない
林業の現場でも「境界の明確化」が進められています。間伐などの施業をまとめて行うために、所有者の立会いや航空測量の成果を使って、所有の範囲を確認する取り組みです。国の交付金や森林環境譲与税が充てられていて、熊本県でも交付金の対象に所有者や境界の確認が挙げられています。
森林境界の明確化は、施業のために所有の範囲を確かめるもので、登記の筆界を確定させる手続きではありません。成果が出ても、法務局の図面や地積はそのままです。
一方で、その成果は後の地籍調査で使えるとされています。明確化に立ち会った記録や図面は、捨てずに残しておいてください。
境界を確定させるには
筆界を確定させる基本は、隣接する土地の所有者と現地で立ち会い、境界点を確認して書面に残すことです。そのうえで、必要なら地積の更正や分筆の登記をします。これは土地家屋調査士の業務です。
山林でこの手順が止まりやすいのは、隣接する山の所有者がわからない、連絡がつかない、あるいは話がまとまらないときです。そうした場合に使えるのが、法務局の筆界特定制度です。
- 筆界特定登記官が、外部の専門家である筆界調査委員の意見を踏まえて、筆界の位置を特定する
- 新しく境界を決めるのではなく、もともとの筆界がどこかを明らかにする
- 所有権の範囲を決めるものではない。結果に不服があれば裁判で争える
- 令和2年の改正で、地方公共団体も申請できるようになった
手数料は土地の価格で決まり、測量の費用は別にかかります。熊本県内の土地であれば、熊本地方法務局が窓口です。
国に返すときの境界
相続土地国庫帰属制度では、境界が明らかでない土地は申請が却下されます。山林ではここが最初の関門になります。
法務省の説明では、測量図や境界確定図の提出は必須ではありません。ただし、隣接する土地との境界を明らかにする写真と、土地の形を示す図面は必要です。境界標がなければ、境界点に目印を立てることになります。その目印は、審査のときにも、国に帰属するときにも判別できるものでなければなりません。隣の所有者が異議を述べれば、争いが解消するまで先へ進みません。
つまり、国に返す場合も、隣と境界を確かめる作業は避けられません。制度そのものの見極め方は相続した土地を国に引き取ってもらう ── 通る土地と通らない土地で整理しました。
- 法務局の図面が「地図」か「地図に準ずる図面」かを確かめた
- 地籍調査が済んでいるか、予定があるかを市町村に聞いた
- 調査済みなら、筆界未定の扱いになっていないかを確かめた
- 現地で、境界木・石積み・杭など目印になるものを探して写真に残した
- 隣接する山の所有者を調べ、連絡がつくかを確かめた
- 森林境界の明確化に立ち会った記録があれば、手元に保管した
- 話がつかない場合に、筆界特定を使うかどうかを検討した
まとめ
- 山林の境界の確かめ方は、法務局の図面が「地図」か「地図に準ずる図面」かで分かれる
- 地籍調査が済んでいても、目印の消失や筆界未定が残っていることがある
- 未了の山では、地形・目印・人の記憶を突き合わせる。航空測量で筆界案をつくる方法も広がっている
- 森林境界の明確化は、登記の筆界を確定させるものではない
- 話がつかない、相手がわからないときは筆界特定制度。国庫帰属でも境界の確認は避けられない
熊本県内の山林について、相続人の調査、境界の確定と測量、相続土地国庫帰属の承認申請書の作成。行政書士・土地家屋調査士 村上事務所(熊本市東区)が承っています。
