山林・原野を相続した ── 森林法の届出と、境界のない土地
- 森林の土地を相続したら、市町村長へ九十日以内の届出が要る。登記の三年とは別の期限
- 山林は地籍調査がもっとも遅れている。図面がなく、境界を知っているのは人の記憶だけ、ということが起こる
- 登記簿の面積は当てにならない。縄延びは山林でいちばん大きく出る
- 「買い取ります」という突然の連絡には応じない。原野商法の二次被害は、相続した人にも来る
- 国に引き取ってもらう制度はあるが、手入れされていない森林は承認されない
山を相続した。使う予定もないし、売れるとも思えない。とりあえず放っておくしかない。そう考える方は多いと思います。
放っておくこと自体は、いますぐ何かが起きるわけではありません。ただ、放っておくと二度と手がつけられなくなるものが一つあります。境界です。山林の境界は図面ではなく人の記憶に残っていることが多く、その人がいなくなれば、それきりになります。
この記事は、山林や原野を相続したときに、まず出す届出と、いまのうちに手を打っておくべきことを整理したものです。
森林の土地には、届出がある
森林法に、森林の土地の所有者届出制度があります。売買でも相続でも、森林の土地を新たに所有することになった人は、所有者となった日から九十日以内に、その土地のある市町村長へ届け出ることになっています。面積の大小は問いません。
対象になるのは、都道府県が定める地域森林計画の対象となっている民有林です。登記簿の地目が「山林」でなくても、現に森林の状態であれば対象になることがあります。自分の土地が該当するかどうかは、市町村の林務の担当窓口で確かめてください。
| 手続き | 期限と届出先 |
|---|---|
| 相続登記 | 取得を知った日から三年(法務局) |
| 森林の土地の届出 | 所有者となった日から九十日(市町村長) |
| 農地の届出 | 権利の取得を知った時からおおむね十か月(農業委員会) |
山と田畑をまとめて相続した場合は、三つの期限が同時に走ります。
いちばん短いのが森林の九十日です。ところが相続の相談で最初に話題になるのは登記なので、こちらが後回しになりがちです。遺産分割がまとまっていなくても届出は先に出せますので、山が含まれているとわかった時点で市町村に一報を入れてください。
山林の境界は、人が持っている
宅地であれば、境界標があり、地積測量図があり、公図がある。山林にはそのどれもないことがあります。
では何を目印にしてきたのか。尾根と谷。沢の流れ。古い立木に刻んだ印。炭焼き跡。崩れかけた石積み。先代と、隣の山の持ち主とのあいだで共有されてきた記憶が、境界の実体になっている。これが山林の実際です。
山の境界は、現地を歩ける人が両側にいて、初めて確認できます。
先代が亡くなり、隣の山主も代替わりし、双方とも山に入ったことがない。この状態になると、資料もなく記憶もない土地が残ります。測量する側も、復元すべき線を示す手がかりがありません。相続した直後は、まだ話を聞ける人が残っている可能性がいちばん高い時期です。使う予定がなくても、一度は現地に行き、隣の山主に挨拶をして、境界の言い伝えを聞いて記録に残してください。
地籍調査が、いちばん遅れている
境界を公的に整理する事業が地籍調査です。全国の進捗はようやく半分を超えたところで、なかでも林地の遅れが目立ちます。都市部と山村部の遅れが課題だと、国も公表しています。
済んでいる地域であれば、精度の高い地図が法務局に備えられています。済んでいなければ、明治期の図面を引き継いだ公図しかありません。自分の山がどちらなのかは、市町村の地籍調査の担当課で確かめられます。予定が立っているなら、その時期に立ち会えるよう予定を空けてください。
山村部については、境界の情報が失われる前に基本的な調査を先行させる仕組みも用意されています。地域として調査が入るのであれば、個人で測量するより負担がはるかに小さくなります。
面積は、いちばん当てにならない
登記簿の地積と実際の面積のずれは、山林でもっとも大きく出ます。明治の測量が届きにくかった土地であり、収益の小さい土地でもあったからです。
売買の場面では、山林は登記簿の面積で取引するのが通例です。実測すると費用が大きく、価格への影響が小さいためです。ただし相続税の申告がある場合は、面積の扱いが問題になることがあります。この点は登記簿の面積と実際の面積が違うで整理しました。
立木と、かかっている規制
山林には、土地とは別に確かめることがあります。
一つは立木です。木が土地の所有者のものとは限りません。立木だけを別に登記する仕組みがあり、また、地元との分収の契約が結ばれていることもあります。先代が誰かに立木を売っていた、という話が出てくることがあります。
もう一つが規制です。保安林に指定されていれば、伐採にも土地の形を変える行為にも制限がかかります。指定の有無は都道府県の林務担当で確認できます。また、一定の規模を超えて森林を開発する場合には、開発許可とは別に林地開発の許可が必要になります。詳しくは林地開発許可 ── 森林を開発するときの、もうひとつの許可にまとめています。
「買い取ります」という連絡には応じない
山林や原野を相続すると、しばらくして「その土地を買い取りたい」という電話や封書が届くことがあります。ここは慎重になってください。
かつて価値のない原野を売りつける商法があり、そのときの名簿が今も回っています。狙われるのは当時の購入者と、その土地を相続した家族です。
買い取りの話に見せて、測量費・広告費・整地費といった名目で先に金銭を求めるのが手口です。
「買い手がついているが、測量しないと売れない」「広告を出せば必ず売れる」。そう言われて費用を払い、その後は連絡が取れなくなる。別の土地を下取りに出す形で、新たな土地を買わされる例もあります。相談者は高齢の方が大半です。
その場で契約せず、家族に話し、消費生活センターに相談してください。本当に買いたい人であれば、こちらから費用を先に出す必要はありません。
手放す道はあるか
使わない山を持ち続けることに不安があるなら、出口も考えておきます。
国に引き取ってもらう制度は森林も対象ですが、適切に管理されていない森林は承認されません。荒れているから手放したい、という動機とは噛み合いにくい制度です。見極め方は相続した土地を国に引き取ってもらうで整理しました。
現実的なのは、地元で林業を営む方、隣接する山の所有者、地域の森林組合に相談することです。また、所有者が自分で管理できない森林について、市町村が経営や管理を引き受ける仕組みも設けられています。まず市町村に相談してください。
いま、やっておくこと
使う予定がなくても、相続した直後にしかできないことがあります。
- 届出を出す ── 森林は九十日。まずここから
- 一度、現地に行く ── 入口の場所、車を停められるか、どこから登るか。これも失われる情報です
- 知っている人の話を聞いて記録する ── 親族、隣の山主、地元の方。録音でも手書きでもかまいません
- 写真を残す ── 目印になっている立木、石積み、沢、作業道
- 資料を一つにまとめる ── 登記事項証明書、公図、固定資産税の課税明細、古い図面
頼む先も分けておきます。境界の調査と測量は土地家屋調査士。森林法の届出や林地開発の許可申請は行政書士。相続の登記は司法書士。相続税は税理士です。
- 相続財産に山林・原野が含まれていないか、地目で確かめた
- 森林の土地の所有者届出を、九十日以内に出す段取りをつけた
- その山が地域森林計画の対象になっているかを市町村に確認した
- 保安林の指定があるかどうかを都道府県で調べた
- 地籍調査が済んでいるか、予定があるかを市町村に聞いた
- 現地に行き、入口と目印を写真に残した
- 先代を知る人、隣の山主から境界の言い伝えを聞き、記録した
- 買い取りを持ちかける連絡に、費用を払っていない
まとめ
- 森林の土地には九十日の届出がある。登記の三年、農地の十か月とは別に走る
- 山林の境界は図面ではなく人の記憶にある。案内できる人が残っているうちに聞いて記録する
- 地籍調査は林地でもっとも遅れている。自分の山の状況を市町村で確かめる
- 登記簿の面積は当てにならない。山林は縄延びがいちばん大きい
- 買い取りを持ちかけて先に費用を求める話には応じない。家族と消費生活センターに相談する
行政書士 村上事務所では、行政書士と土地家屋調査士の両方の立場から、相続した土地の調査をお受けしています。森林法の届出、現地の確認と境界の聞き取り、地籍調査の状況の確認まで、一つの窓口で進められます。
相続の登記は司法書士、相続税は税理士が担当する部分ですので、必要に応じてご紹介します。
電話 096-285-3993(平日 10:00〜17:00)/ murakami@mkensetu.jp
