管理されない山林 ── まず何から確かめるか

この記事の要点
  • 多くの山林は、売っても貸しても収益を生まない。現実的な目標は持ち続ける負担と責任を止めること
  • 出口は五つある。どれを選ぶにしても、入口で所有者と境界を問われる
  • 確かめる順序は、所有者 → 境界 → 森林としての位置づけ → 出口
  • 熊本県内でも、地籍調査の進み方は市町村ごとに大きく違う。まず自分の山がどちらかを確かめる
  • 令和8年4月の森林経営管理法の改正で、市町村に委ねる道の手続きが一部軽くなった

使っていない山は、いつか誰かに売れば片づく。そう考えて、何代も手をつけずにきた山林は少なくありません。

実際には、管理されていない山林の多くは買い手がつかず、国や市町村も無条件には引き取りません。しかも、どの手放し方を選んでも、最初に「誰の土地で、どこからどこまでか」を問われます。

この記事は、管理されていない山林を持っている方、これから引き継ぐ方に向けて、出口の全体像と、確かめる順序を整理したものです。

売れない山林は珍しくない

山林が放っておかれるのには、事情が三つ重なっています。一つは収益です。木材の価格に対して、伐採や搬出の費用が見合わない山が多くあります。作業道のない急斜面では、なおさらです。

二つめは所有者です。登記の名義が何代も前のままになっていたり、兄弟やその子らの共有になっていたりして、誰が決めればよいのかがはっきりしません。

三つめは境界です。山林は、宅地のように境界標や測量図がそろっていないことが多く、境界を知っていた人が亡くなると、それきりになります。

この三つのうち、収益は持ち主の努力ではほとんど変わりません。一方、所有者と境界は、調べて定めることができます。このシリーズが軸に置くのはこの二つです。

目指すのは、負担と責任を止めること

収益を生まない山林について、現実的な目標は「活かすこと」よりも、持ち続ける負担と責任を止めることです。

持っているだけなら責任はない、は誤り

管理していなくても、所有者であることは変わりません。

倒木や土砂の流出で隣の土地や道路に被害が出れば、所有者として責任を問われることがあります。また、令和5年4月の民法改正で、越境した枝は、所有者に切除を求めても応じないときなどに、隣地の所有者が自ら切り取れるようになりました。放っておくほど、周りとの関係で問題が表に出やすくなっています。

相続で引き継ぐ場合も同じです。山林だけを選んで相続放棄することはできません。放棄はすべての財産に及びます。山を手放したいという理由だけで放棄を選ぶのは、多くの場合つり合いません。

五つの出口

管理されていない山林の出口は、大きく五つに分けられます。

仕組み 入口で問われること
市町村に委ねる 森林経営管理制度。市町村が所有者の意向を確かめ、経営や管理を引き受ける 所有者の同意。市町村が対象地域を選んで進める
国に返す 相続土地国庫帰属制度。審査を経て、負担金を納めて国に帰属させる 境界が明らかであること。森林は手入れの状態も審査される
集めて林業に使う 隣の山主や林業の事業者に譲る、貸す まとまった面積と、搬出できる道
用途を変える 再生可能エネルギーの設備、キャンプ場など 林地開発許可などの手続きと、地元の理解
所有者不明のまま使う 所有者不明土地管理命令、地域福利増進事業 使う側が申し立てる。所有者側の出口ではない

五つめは、所有者がわからない山林を、隣地の所有者や事業者、自治体が使うための仕組みです。持ち主が選ぶ出口ではありません。

熊本県内の森林を売る・貸すときは、事前の届出がある

熊本県豊かな森林の保全に関する条例により、令和8年10月1日以後に結ぶ契約から、県内の森林の売買・贈与・交換や、地上権・賃借権などの設定について、契約の30日前までに県へ届け出ることになりました。相続は対象外です。

所有者になった後90日以内に市町村へ出す森林法の届出とは、別の手続きです。詳細は県の森林整備課のページで確かめてください。

どの出口も、所有者と境界を問う

五つの出口は仕組みがばらばらですが、共通しているのは、手続きのはじめに所有者と境界を問われることです。

国庫帰属では、境界が明らかでない土地は、審査に入る前の段階で申請が却下されます。法務省が公表している統計でも、却下の理由の上位に「境界が明らかでない土地」が挙がっています。共有の山林なら、共有者全員で申請しなければなりません。

市町村に委ねる場合も、市町村はまず所有者に意向を尋ねます。所有者がわからない、共有者の一部と連絡がつかないという場合の特例はありますが、探索と公告を経るぶん時間がかかります。

売る場合も、どこからどこまでかが決まらなければ買い手は動けません。

出口を選ぶ前に、入口を整える

どの出口が向いているかは、所有者と境界が定まってからでないと判断できないことが多くあります。逆に言えば、この二つを整えておけば、出口の選択肢は広がります。所有者の調査と境界の確定は、出口の前段にある共通の作業です。

確かめる順序

1 所有者 ── 登記の名義と、いまの権利者

最初に、登記事項証明書で名義人を確かめます。名義が亡くなった方のままであれば、戸籍をたどって、いま権利を持っている相続人を特定します。何代も前の名義であれば、相続人は数十人になることもあります。この進め方は何代も前の名義のままの土地 ── 相続人が増えた土地をたたむ順序で整理しました。

山林には、登記とは別に、市町村の林地台帳や固定資産の課税台帳にも所有者の記録があります。登記と食い違っていることもあるので、並べて見ます。それぞれの読み方は山林の所有者をたどる ── 登記、林地台帳、課税台帳で整理しました。

2 境界 ── 図面が「地図」か「地図に準ずる図面」か

法務局に備え付けられた図面が、地籍調査などに基づく精度の高い「地図」なのか、明治期の図面を引き継いだ「地図に準ずる図面」(いわゆる公図)なのかで、境界を定める手間は大きく変わります。公図は、山林では形も位置も現地とずれていることが珍しくありません。

筆界と所有権の範囲の違い、話がつかないときの筆界特定制度については、境界がわからない土地を相続した ── 筆界と所有権界は別のものにまとめています。

地籍調査の有無による進め方の違いや、森林境界の明確化との関係は、山林の境界 ── 公図の精度、地籍調査、境界の明確化で整理しました。

3 森林としての位置づけ ── 地域森林計画と保安林

その山が地域森林計画の対象か、保安林に指定されていないかを確かめます。伐採や土地の形の変更に制限がかかるかどうかが、ここで決まります。国庫帰属の審査でも、市町村森林整備計画に照らして手入れの状態が確認されます。

4 出口 ── 一つに絞らず並べる

ここまでそろってから、出口を並べて比べます。一つの山で一つの出口とは限りません。道に面した一部を隣地に譲り、残りを市町村に委ねる、という分け方もありえます。

熊本で確かめる先

熊本県内の山林について、上の順序で確かめるときの窓口を挙げます。

確かめること 確かめる先
地籍調査が済んでいるか 市町村の地籍調査の担当課。国土交通省の地籍調査Webサイトに市区町村別の進捗率の一覧がある
林地台帳の記載 市町村の林務担当(熊本市は都市建設局 みどり公園課)。所有者の氏名・住所を見られるのは、所有者本人や隣接する森林の所有者などに限られる
地域森林計画・保安林 県の森林整備課、各広域本部の林務担当
森林経営管理制度の取り組み 市町村の林務担当。森林環境譲与税の使い道は各市町村が公表している
国庫帰属の相談 熊本地方法務局の本局。予約制で、支局・出張所では受け付けていない
熊本は地籍調査が進んだ県だが、差が大きい

全国では、地籍調査は林地でとくに遅れています。熊本県内は、調査を終えた市町村が多い一方で、熊本市や益城町、御船町のように途中の市町村もあります。自分の山がどちらに当たるかで、境界の確かめ方が変わります。最新の進み具合は、地籍調査Webサイトの市区町村別の一覧で確かめてください。

もう一つ、熊本市に山林をお持ちの場合に知っておきたいのは、熊本市内では森林組合が組織されていないことです(市の森林整備計画。令和7年度時点)。「地元の森林組合に相談を」という一般的な案内は、市内の山林にはそのまま当てはまりません。市の林務担当が最初の窓口になります。

令和8年4月の改正で変わったこと

市町村に委ねる道を定めた森林経営管理法は、森林法とともに改正され、令和8年4月1日に施行されました。所有者側から見て関わりの大きい点を挙げます。

  • 所有者がわからない森林などについて、市町村が行う公告の期間が6か月から2か月に短くなった
  • 共有の森林で間伐を行う場合の同意が、共有者全員から過半へ緩められた
  • 市町村が、制度の運用を支える法人(経営管理支援法人)を指定できるようになった

改正前の「6か月」のまま書かれた解説も残っているので、日付に注意してください。

管理されていない山林を整理するときの確認
  • 登記の名義人と、いまの権利者(相続人)を特定した
  • 共有かどうか、共有者全員と連絡がつくかを確かめた
  • 法務局の図面が「地図」か「地図に準ずる図面」かを確かめた
  • 市町村で、地籍調査が済んでいるか、予定があるかを聞いた
  • 地域森林計画の対象か、保安林の指定があるかを確かめた
  • 林地台帳や課税台帳の所有者の記載が、登記と合っているかを見た
  • 市町村の森林経営管理制度の取り組み状況を聞いた
  • 売る・貸す場合は、契約の30日前の県への届出を段取りに入れた

まとめ

  • 管理されていない山林の多くは収益を生まない。目標は、持ち続ける負担と責任を止めること
  • 出口は五つ。市町村に委ねる、国に返す、集めて林業に使う、用途を変える、所有者不明のまま使う
  • どの出口も、入口で所有者と境界を問う。この二つを整えることが共通の前段になる
  • 熊本県内でも地籍調査の進み方は市町村ごとに違う。自分の山がどちらかを先に確かめる
  • 令和8年4月の改正で、市町村に委ねる道の手続きが一部軽くなった
山林の所有者調査と境界の確定、お引き受けしています。

熊本県内の山林について、相続人の調査、境界の確定と測量、相続土地国庫帰属の承認申請書の作成。行政書士・土地家屋調査士 村上事務所(熊本市東区)が承っています。

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