空き家と敷地を相続した ── 建物を壊す前に決めること
- 解体すると住宅用地の特例から外れる。翌年からの固定資産税が変わるので、順序を決めてから壊す
- 放置していても外れる。令和五年十二月から、特定空家になる前の段階でも勧告を受ければ特例が解除される
- 建物が未登記のことがある。相続の登記の義務は建物にもかかる
- 壊したら一か月以内に建物滅失登記。放置すると土地の売買に支障が出る
- 建物があると国庫帰属は使えない。ただし壊せば通るとは限らない。土地の側の要件を先に見る
実家が空き家になった。傷んできたし、近所にも迷惑がかかる。まず解体しよう。そう考えるのは自然なことです。
ただ、解体は最後の手順です。壊した瞬間に税の扱いが変わり、建物ごと引き取ってもらう道も閉じます。壊してから「こうすればよかった」と気づいても、建物は戻りません。
この記事は、相続人ご本人に向けて、壊す前に決めておくことと、壊したあとに必要な手続きを整理したものです。空家法そのものの解説は空家等対策特別措置法 ── 三つの柱と、管理不全空家にあります。
壊すと、税の扱いが変わる
住宅が建っている敷地には、固定資産税の計算の基礎になる額を軽くする仕組みがあります。住宅用地の特例です。
建物を壊して更地にすると、この扱いから外れます。土地の固定資産税は、翌年から上がる方向に動きます。「空き家を放置すると税が高くなる」と言われることがありますが、正確には、放置したから上がるのではなく、壊したから上がる、という場面のほうが多いのが実際です。
固定資産税は、その年の一月一日時点の状態で決まります。
年内に壊せば翌年から特例が外れ、年明けに壊せばその年はまだ建物があったものとして扱われます。解体の時期を決めるときは、この区切りを確かめてください。ただし、税額そのものは土地の評価や自治体の扱いによって変わりますので、金額の見込みは市町村の資産税の窓口で確認してください。
放置していても、外れることがある
では壊さずに置いておけば安全かというと、そうではありません。
空家法には、周囲に危険や迷惑を及ぼしている空き家を特定空家等として扱う仕組みがあります。市町村が助言や指導をし、それでも改善しなければ勧告、命令、そして代執行へと進みます。勧告を受けると、その時点で住宅用地の特例から外れます。
そして令和五年十二月から、その手前の段階が新しく設けられました。管理不全空家等です。まだ周囲に実害は出ていないが、このまま放置すれば特定空家になるおそれがある、という状態を指します。
| 区分 | 状態 | 勧告を受けたら |
|---|---|---|
| 管理不全空家等 | 放置すれば特定空家になるおそれがある | 住宅用地の特例から外れる |
| 特定空家等 | 倒壊のおそれ、衛生上の問題、景観、周辺の生活環境への影響 | 住宅用地の特例から外れる。さらに命令、代執行へ進む |
つまり、壊しても外れるし、傷むままにしていても外れる。特例を残したいなら、最低限の管理を続けることになります。市町村から助言や指導の連絡が来たら、勧告に進む前に相談してください。
建物の登記を、まず確かめる
ここで見落とされがちなのが、建物の登記です。
古い家では、そもそも建物が登記されていないことがあります。固定資産税は課されているのに、法務局に登記記録がない。増築した部分だけが未登記、という例も少なくありません。
相続の登記の義務は、土地だけでなく建物にもかかります。未登記であれば、所有権の登記をする前に、まずその建物の表題登記から始めることになります。現地を測り、建物の位置・構造・床面積を確定させる作業で、ここは土地家屋調査士が担う部分です。登記と現況を合わせる考え方は表示登記 ── 現況と登記を一致させる義務にまとめています。
壊したら、一か月以内に滅失登記
建物を取り壊したら、建物滅失登記を申請します。期限は取り壊した日から一か月以内と定められています。
登記記録が残ったままになるので、存在しない建物の登記が土地に付いてくることになります。土地を売ろうとすると、買主から抹消を求められて、そこで手続きが止まります。相続人が代わっていれば、必要な書類を揃えるのがさらに難しくなります。
市町村の課税台帳と法務局の登記記録は別なので、解体したことを市町村に伝えても、登記は消えません。両方に手当てが要ります。滅失登記の申請も土地家屋調査士が代理します。
壊す前に、建物ごとの出口を当たる
解体を決める前に、一度確かめてほしいことがあります。建物ごと引き取ってくれる人がいないかです。
もっとも可能性が高いのは、隣接地の所有者と近隣の方です。物置として使いたい、駐車場にしたい、家族が住むかもしれない。地元では、こうした話が実際にあります。市町村が運営する空き家の情報を扱う仕組みに登録するという方法もあります。
また、古い家がついたままの土地として売る形もあります。買主が自分で解体する前提であれば、解体の費用をこちらで負担せずに済みます。解体費をかけて更地にしてから売るより、手元に残る額が大きくなることがあります。
なお、相続した家屋を売ったときの譲渡所得について、税を軽くする制度が設けられています。要件が細かく、金額もここでは書きません。売却を考えるなら、動く前に税理士に確認してください。要件を満たすかどうかで、解体するかしないかの判断が変わることがあります。
国に引き取ってもらうなら、順序がある
建物があると、国に土地を引き取ってもらう制度は使えません。だから解体する、という発想になりがちですが、順序が逆です。
建物を壊しても、土地の側に別の理由があれば通りません。境界に争いがある、崖がある、地下に前の建物の基礎が残っている。解体してから通らないとわかるのが、いちばん損をする形です。
建物以外の要件を全部確かめて、建物さえなければ通るとわかってから解体してください。
とくに境界です。却下される理由の上位に境界の問題が並んでいます。隣接地の所有者と認識が一致するかを先に確かめる。解体費を払ったあとで境界の問題が出てくると、そこからさらに測量の費用がかかります。見極め方は相続した土地を国に引き取ってもらうで整理しました。
敷地の側も、同時に確かめる
建物の話と並行して、敷地そのものを見ておきます。
前面の道が建築基準法の道路に当たるか、二メートル以上接しているか。ここが満たされていなければ、壊したあとに建て直すことができません。更地にしたところで買い手が限られます。確かめ方は道路に接していない土地を相続したにまとめています。
境界標があるか、地積測量図があるか、登記簿の面積が実際と合っているか。どれも売却や分割の前提になります。建物の判断と敷地の調査は、相続の段階で一度にやっておくほうが、結果的に早く済みます。
壊すと決めたら
調べたうえで解体すると決めたなら、次の手順になります。
- 見積りを複数取る ── 廃棄物の処理を含めた内訳を出してもらう
- 建材の調査 ── 古い建物では、解体の前に石綿の有無を調べ、届出が必要になることがあります
- 解体の時期を決める ── 一月一日の区切りを意識する
- 建物滅失登記 ── 取り壊しから一か月以内
- 市町村への連絡 ── 課税台帳の側も別に手当てが要ります
頼む先を分けておきます。建物の表題登記と滅失登記、敷地の測量と境界の確定は土地家屋調査士。相続の登記は司法書士。譲渡所得と特別控除は税理士。空き家に関する届出や補助の申請は行政書士です。
- 建物が登記されているかを法務局で確かめた。増築部分の登記も見た
- 市町村から助言・指導・勧告の連絡が来ていないかを確認した
- 解体すると住宅用地の特例から外れることを家族で共有した
- 隣接地の所有者や近隣に、建物ごと引き取る意向がないか当たった
- 古家付きの土地として売る場合と、更地にして売る場合を比べた
- 譲渡所得の特別控除の要件を、税理士に確認した
- 国庫帰属を考えるなら、建物以外の要件を先に確かめた
- 前面道路と接道を確認し、建て替えができる土地かを確かめた
まとめ
- 解体すると住宅用地の特例から外れる。一月一日の区切りで一年ずれる
- 放置しても外れる。管理不全空家の段階でも、勧告を受ければ解除される
- 建物が未登記のことがある。相続の登記の義務は建物にもかかり、まず表題登記が要る
- 壊したら一か月以内に滅失登記。放置すると土地の売買で止まる
- 国庫帰属を考えるなら、建物以外の要件を確かめてから壊す。順序を逆にすると費用が無駄になる
行政書士 村上事務所では、行政書士と土地家屋調査士の両方の立場から、相続した建物と土地の調査をお受けしています。未登記建物の表題登記、解体後の建物滅失登記、敷地の測量と境界の確認、接道の調査まで、一つの窓口で進められます。
相続の登記は司法書士、譲渡所得と特別控除は税理士が担当する部分ですので、必要に応じてご紹介します。
電話 096-285-3993(平日 10:00〜17:00)/ murakami@mkensetu.jp
