CHIOU / 株式会社地央

空家等対策特別措置法 ── 三つの柱と、管理不全空家

この記事の要点
  • 令和5年改正で、対策が除却中心から活用・管理・除却の三本立てに整理された
  • 実務でいちばん効くのは管理不全空家等。勧告を受けると住宅用地特例が外れる
  • 空家等活用促進区域では、接道や用途の規制が合理化される
  • 改正で条文が再編された。改正前の条番号を引いた古い資料に注意

空き家の相談で最も多いのが「持っているだけなら税金も安いし、そのままでよいのでは」という問いです。令和5年の改正で、この前提が崩れました。

放置したままだと、勧告を受けて固定資産税の軽減がなくなる可能性があります。一方で、活用しやすくする仕組みも新たに用意されました。締めると同時に、出口も作った改正です。

この記事では、改正の柱と、実務でどこを確認するかを扱います。

条文番号が再編されている

令和5年の改正(令和5年法律第50号)では、規定の追加にあわせて条文の構成が大きく整理されました。

そのため、改正前の条番号を引いた資料や社内マニュアルが残っていると、実際の条文と一致しません。条文を引用するときは、必ず現行の条文を確認してください。e-Gov法令検索で最新の条文が確認できます。

三つの柱

主な仕組み
活用 空家等活用促進区域、支援法人の指定、建築基準法・用途規制の合理化
管理 管理不全空家等への指導・勧告、所有者の責務の強化、住宅用地特例の解除
除却 特定空家等への措置、所有者不明の場合の財産管理制度の活用

従来は「特定空家等になってから除却する」という組み立てでした。改正後は、そうなる前に手を打ち、使えるものは使う方向に広がっています。

管理不全空家等

実務でいちばん効くのがこれです。

管理不全空家等 特定空家等
状態 放置すれば特定空家等になるおそれがある 倒壊等の危険、著しく衛生上有害、著しく景観を損なう など
措置 指導 → 勧告 助言・指導 → 勧告 → 命令 → 代執行
税への影響 勧告で住宅用地特例が外れる 勧告で住宅用地特例が外れる

該当しうる状態

  • 屋根や外壁の一部が破損している
  • 窓ガラスが割れたままになっている
  • 雑草や樹木が繁茂し、隣地にはみ出している
  • 門扉や塀が傾いている

まだ倒壊の危険はないが、このままでは悪化する。この段階で行政が動けるようになりました。

勧告を受けると、税額が跳ね上がる

住宅が建つ土地には住宅用地の特例があり、固定資産税の課税標準が軽減されます。200平方メートル以下の部分は6分の1、それを超える部分は3分の1です。

管理不全空家等または特定空家等として勧告を受けると、この特例が適用されなくなります。

軽減が外れれば、土地の税負担は大きく増えます。「持っているだけなら安い」という前提が成り立たなくなります。所有者への説明で、最も具体的な材料になる点です。

指導の段階では外れない

特例が外れるのは勧告を受けた場合です。指導の段階ではまだ外れません。

指導を受けた時点で対応すれば、税負担の増加は避けられます。所有者が指導の通知を放置していないか、確認する価値があります。

空家等活用促進区域

市町村が区域を定め、その区域内で空き家の活用を進めやすくする仕組みです。

どこに定められるか

  • 中心市街地
  • 観光振興を図る区域
  • 地域再生の拠点となる区域
  • その他、空き家の活用が地域の活性化に資する区域

何が変わるか

項目 内容
接道規制の合理化 前面道路の幅員が足りない場合でも、安全性が確保されれば建替えが可能になる場合がある
用途規制の合理化 用途地域による制限について、市町村が定める指針に沿って用途変更しやすくなる
古い路地の空き家に効く

幅4メートル未満の路地に面した空き家は、接道義務を満たさず建替えられないことが多くあります。だから壊すこともできず、放置されてきました。

促進区域内であれば、避難や安全に関する条件を満たすことで、建替えの道が開ける場合があります。「再建築不可だから何もできない」で終わらせる前に、区域の指定状況を確認してください。

ただし、条件は市町村の指針によります。緩和されると決まっているわけではありません。個別に確認が必要です。

支援法人

市町村長が、空き家の管理・活用を支援する法人を指定できる仕組みです。NPO法人、一般社団法人などが指定されます。

業務 内容
相談対応 所有者からの相談に応じる
情報提供・普及啓発 管理方法、活用の選択肢を伝える
管理・活用の受託 所有者の委託を受けて、見回りや草刈りなどを行う
所有者の探索 相続人の調査などを支援する
市町村への要請 財産管理人の選任請求を市町村長に要請する

所有者が高齢、遠方に住んでいる、判断に迷っている。こうした場面で、紹介できる窓口があるかどうかで対応が変わります。地元の市町村が支援法人を指定しているか、確認しておいてください。

所有者が分からない空き家

相続人全員が相続放棄した、所有者の所在が長期間つかめない。こうした空き家は、私有財産である以上、勝手に処分できません。

財産管理制度の活用

改正により、市町村長が裁判所に対して財産管理人の選任を請求できる範囲が広がりました。選任された管理人が、空き家を管理し、必要に応じて売却することもできます。

根拠となる民法の規定に注意

この仕組みの背景にあるのは、令和3年の民法改正で新設された所有者不明土地・建物管理制度、および管理不全土地・建物管理制度です。

従来からある不在者財産管理人や相続財産清算人の規定とは、別の制度です。資料で条文を引くときは、どちらの制度を指しているかを確認してください。混同している解説を見かけます。

実務での使い方

所有者不明の空き家に出会ったとき、「売主が分からないので取り扱えない」で終わらせないという選択肢が増えました。

  • 市町村がその空き家を把握しているか確認する
  • 財産管理人の選任請求が検討されているか確認する
  • 買主の希望がある場合、その旨を市町村に伝えておく

動くまでには時間がかかります。すぐに取引できるものではないことを、買主にも伝えてください。

所有者の責務

改正により、所有者等の責務に「国または地方公共団体が実施する空家等に関する施策に協力するよう努める」という内容が加わりました。

努力義務であって、直ちに罰則が伴うものではありません。ただし、行政からの照会や調査に応じない状態が続けば、管理不全空家等としての指導・勧告につながりえます。

実務での使い方

空き家の売却相談を受けたとき

  • 行政から指導・勧告を受けていないか確認する
  • 受けている場合、住宅用地特例の適用状況を確認する
  • 促進区域内かどうかを確認する
  • 支援法人が指定されているか調べ、必要なら案内する
  • 補助制度(除却、改修、家財処分)の有無を確認する

買主に説明するとき

確認事項 買主への影響
指導・勧告の有無 取得後、買主が対応を求められる
住宅用地特例の状況 翌年度以降の税負担
再建築の可否 接道、促進区域の指定
建物の状態 改修費用、除却費用

指導や勧告の有無は、市町村の担当課で確認できます。買主に承継される事実上の負担なので、説明すべき事項です。

所有者に伝えるとき

不安を煽らず、選択肢を示す

「放置すると税金が6倍になります」とだけ伝えると、脅しになります。正確には、勧告を受けた場合に特例が外れる、です。

そのうえで、選択肢を示してください。売却、賃貸、解体して土地として売る、支援法人に管理を委託する、補助制度を使って改修する。

判断は所有者が行います。材料を揃えて渡すのが役割です。

制度の限界

  • 促進区域は、指定されていなければ使えない 指定は市町村の判断による
  • 支援法人も、指定されていない市町村がある
  • 財産管理制度は時間がかかる 裁判所の手続きを要する
  • 需要がない地域では、活用の出口が乏しい 制度があっても買い手・借り手がいない

制度が整ったからといって、すべての空き家が動くわけではありません。使える制度があるかを個別に確認したうえで、現実的な選択肢を示すことになります。

実務チェックリスト
  • 条文を引くとき、現行の条番号を確認した令和5年改正で再編されている
  • 市町村から指導・勧告を受けていないか確認した
  • 住宅用地特例の適用状況を確認した勧告で外れる。指導の段階では外れない
  • 管理不全空家等に該当しうる状態か現地で確認した
  • 空家等活用促進区域の指定状況を確認した
  • (促進区域内)接道・用途の合理化が使えるか市町村に確認した
  • 支援法人が指定されているか調べた
  • 補助制度の有無を確認した除却・改修・家財処分
  • (所有者不明)市町村が把握しているか確認した
  • (所有者不明)財産管理制度は時間がかかることを買主に伝えた
  • 指導・勧告の有無を買主に説明し、記録した
  • 所有者には、税負担だけでなく選択肢を示した
  • 需要の見通しを踏まえて、現実的な提案をした

まとめ

  • 令和5年改正で、活用・管理・除却の三本立てに整理された。
  • 管理不全空家等として勧告を受けると、住宅用地特例が外れる。指導の段階ではまだ外れない。
  • 空家等活用促進区域では、接道や用途の規制が合理化される。指定の有無を確認する。
  • 所有者不明の空き家は、財産管理制度で動かせる場合がある。ただし時間がかかる。
  • 改正で条文が再編された。古い資料の条番号は現行と一致しない。
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