建設会社が、農業と福祉を噛み合わせる ── 仙台・まちワクプロジェクトの設計
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ハイブリッド・エコシステム
記事の内容を解説しています。移動中や作業中にもどうぞ。
この記事の要点
- 担い手が足りない農業と、働く場が足りない福祉。二つの課題は裏返しの関係にある
- 建設会社が、空き家の再生・グループホーム・就労支援・農場を一つの仕組みとして組んだ事例
- それでも工賃の壁は残る。事業が回ることと、自立できる収入を配れることは別の問題である
建設会社にできることは、建物を建てることだけではない。
仙台市泉区で、空き家の再生から農場の運営まで一続きの仕組みを組んだ会社があります。
この記事は、その設計図を追い、どこまで解けて、何が解けずに残ったのかを見たものです。
二つの悪循環が、絡み合っている

出発点は、地方が抱える二つの流れです。
農業の衰退。担い手が高齢化し、従事者が減り、耕作放棄地が増える。福祉の孤立。障がいのある方が増える一方で、働く場所が足りず、孤立と低賃金が続く。
この二つが同時に進むと、地方産業の衰退とコミュニティの崩壊が重なります。個別に手を打っても解けないのは、原因が別々の場所にあるからではなく、絡み合っているからです。
図に出てくる「平均年齢70歳」「15年で半減」「約900万人」といった数値は、公表統計にもとづくものですが、年によって動きます。実務で引用するときは、その年の統計で確かめてください。
裏返しにすると、噛み合う
| 農業 | 福祉 | |
|---|---|---|
| 現状の課題 | 人がいない | 働く場所がない |
| 余剰資産 | 豊かな土地と農法 | 働きたい意欲と人手 |
| 致命的な欠如 | 労働力 | 自立のための収入 |
二つの課題は、掛け合わせることで解決できる
二つの課題を並べると、面白いことが起きます。
農業には土地と農法があるのに、人がいない。福祉には働きたい意欲と人手があるのに、働く場所がない。片方に余っているものが、もう片方に足りていない。
「土地が余る農業」と「働き場が足りない福祉」。この二つは、掛け合わせることで解ける形をしています。
農福連携という架け橋

この掛け合わせを制度の言葉にしたものが農福連携です。農の側からは栽培指導、職務内容の設定、技術の伝承。福の側からは労働力の提供、地域との交流、社会参加。
ただし、理屈が噛み合うことと、実際に回ることは別です。両者を物理的に結びつける器がなければ、連携は言葉のまま終わります。ここに建設会社が入る余地がありました。
資金と共感を、循環させる

器を作るには金が要ります。この事例で使われたのは、応援型の不動産ファンドでした。
空き家と遊休不動産が増えている、というまちの課題を入口にして、共感する市民と投資家からクラウドファンディングで資金を集める。その資金で空き家をグループホームや施設へ再生する。結果としてまちに雇用とコミュニティが生まれ、出資者には配当が還元される。
ここが官民連携の記事で見た構図と重なります。補助金で建てて終わりではなく、事業として回るから続く。違うのは、行政ではなく建設会社が仕掛けている点です。
三つの柱が連動する

できあがった仕組みは、三つの機能が連動する形をしています。
まちワクホームは居住と自立支援。定員20名の全室個室です。まちワクワーキンは就労継続支援B型。農作業や箱折りなどの軽作業と、マナーの習得。まちワクファームは農業生産法人。仙台市泉区実沢に約5000坪、ハウス8棟。
住む場所、働く場所、作る場所。三つが同じ事業者のもとで繋がっていることが、この事例の骨格です。
住む ── まちワクホーム

空き家をリノベーションして生まれた、完全個室の障がい者グループホームです。1フロア5名のユニット制で、プライバシーと家庭的な温かみを両立させています。
親元を離れ、初めて自立した生活へ挑戦する第一歩を、有資格のスタッフが24時間体制で支える。
建設会社が手がけたことの意味は、ここに出ています。安全性と快適性を同時に設計できるのは、建物を作る側の仕事です。福祉事業者が既存物件を借りるのとは、出発点が違います。
働く・学ぶ ── まちワクワーキン


他者の役に立つ経験が自信を生み、一般就労へのステップアップを後押しする
就労継続支援B型の事業所として、一人ひとりの特性と希望に合わせた働き方を用意しています。室内での軽作業から、広大なファームでの本格的な農作業まで、選択肢に幅がある。
資料の言葉で印象に残ったのは、この一行でした。「やらされる作業」ではなく「役割を持つ仕事」へ。
他者の役に立つ経験が自信を生み、一般就労へのステップアップを後押しする、という順序です。
創る・繋がる ── まちワクファーム

約5000坪の敷地に、全天候型のビニールハウスが8棟。無農薬・自然栽培で、にんにく、いちご、さつまいもなど、年間を通して多様な作物を生産しています。
注目したいのは現地での直売です。障がいを持つスタッフと地域住民が、野菜を買うという用事を通じて自然に顔を合わせる。交流の場を作るのではなく、交流が起きる用事を作っている。
四方よしの構図

関係者を並べると、それぞれに取り分があります。
障がいのある方には自立した生活と工賃の向上、社会参加。地域社会と農業には耕作放棄地の再生と、担い手不足の解消。出資者には投資リターンと新鮮な農産物、そしてSDGsへの貢献。建設会社には空き家活用と、新たな価値の創造。
誰かの善意に依存していないことが、この構図の強さです。全員に役割があり、全員に取り分がある。だから続く可能性がある。
それでも残る ── 工賃の壁
どう埋めるか
ここまで読むと、うまく回っているように見えます。けれども資料は、最後に正直な課題を置いていました。
就労継続支援B型の全国平均工賃は、月あたり約16,118円。この事業所が目標に掲げるのは月3万円です。この差額をどう埋めるか。
農作業の売上だけでは、経費を引くと高い工賃を分配することが難しい。これはこの事業所の問題ではなく、就労継続支援B型という制度が抱える構造です。
平均工賃の額は年度ごとに公表され、変動します。実務で使う際は、厚生労働省が公表するその年度の数値をご確認ください。
差額を、外から埋める

資料が示した答えは、企業からの安定した支援でした。
企業がサポーターになることで、ファームは安定した単価の高い作業を利用者に依頼できるようになる。企業の側は旬の農作物や体験の機会、そしてSDGsへの貢献の証明を受け取る。
資料はこれを寄付ではなく「ソーシャル・インベストメント(社会的投資)」と呼んでいます。農業の存続と障がい者の自立を、同時に達成する仕組みとして設計されている、という主張です。
この事例から持ち帰れること
建物を建てるだけでなく、まちの「あったらいいな」を仕組みから設計する
土地が余る農業と、働き場が足りない福祉。別々に解かず、噛み合わせる
応援型の不動産ファンドで、市民と投資家から資金を募る
それが続く条件になっている
- 抱えている課題を、単独で解こうとしていないか。裏返しの課題と組み合わせられないか
- 建てる仕事の前後に、運営と資金の設計が入っているか
- 関係者全員に「役割」と「取り分」があるか。善意だけに依存していないか
- 交流の場を作るのではなく、交流が起きる用事を作れないか
- 制度の枠内では埋まらない差額を、どこから持ってくるか決めてあるか
まとめ
この事例のいちばんの示唆は、農福連携そのものではないと思います。
建設会社が、建てたあとのことまで設計したという点です。空き家を再生し、そこに住む人の暮らしを組み立て、働く場を作り、収入の道筋まで考える。請負の外側に踏み出しています。
同時に、工賃の壁が残っていることも正直に書かれていました。事業として回ることと、そこで働く人が自立できる収入を得られることは、まだ別の問題です。そこを曖昧にしていないところに、この資料の誠実さがあります。
本記事は、中城建設株式会社「まちワクプロジェクト」に関する公表資料をもとに構成しています。事業の内容・規模・条件は変わることがあります。最新の情報や参加の可否については、同社へ直接お問い合わせください。
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