CHIOU / 株式会社地央

自治体職員のための市街化調整区域の判断 ── 窓口で最初に確認すること

この章の要点
  • 市街化区域か市街化調整区域かで、建てられるか・税の扱い・将来の見通しがすべて変わる
  • 調整区域でも建てられる場合はある。ただし可否の判断は窓口で行わず、所管課へつなぐ
  • 農地かどうかは早い段階で確認する。農用地区域なら農振除外に年単位の時間がかかる
  • 実務では、市街化区域・調整区域に加えて非線引き区域・都市計画区域外の四つを意識する

住民から土地の相談を受けたとき、公有地の処分を検討するとき、空き家の対応を進めるとき。最初に確認することになるのが、その土地が市街化区域にあるか市街化調整区域にあるかという区分です。

ところが、区分が分かっただけでは「では建てられるのか」という相談者の問いには答えられません。調整区域であれば開発許可の可否が絡み、そこに農地法が重なり、さらに接道の条件が加わるためです。どこまでを窓口で答え、どこから所管課へつなぐのか。その線引きが難しいところです。

この章では、二つの区域が何を分けているのか、なぜこの線引きが生まれたのか、そして窓口で相談を受けてから回答するまでの確認手順までを扱います。

二つの区域は、何を分けているのか

市街化区域と市街化調整区域の区分は、1968年に制定された新都市計画法によって導入されました。ひとことで言えば、どこに街をつくり、どこを自然や農業のために残すのかを、地図の上で明確にする仕組みです。この区分を定めることを、実務では「線引き」と呼びます。

市街化区域

すでに市街地を形成している区域と、おおむね十年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域です。住宅や商業施設の建築が比較的自由に行えます。道路、上下水道、公園といった都市基盤の整備が集中的に進められるため、生活の利便性が高い区域といえます。

市街化区域では、用途地域が必ず定められています。第一種低層住居専用地域から工業専用地域まで、地域ごとに建てられる建物の種類と規模が決められており、相談への回答もこの用途地域を確認するところから始まります。

市街化調整区域

市街化を抑制すべき区域です。農地や山林が多く残され、新たな開発は原則として認められません。住宅を建てるにも、自治体の開発許可が必要になります。

この区域が設けられている目的は、自然環境と農地の保全、そして都市のスプロール(無秩序な拡大)の防止です。市街化区域と違い、用途地域は原則として定められていません。

市街化区域市街化調整区域
位置づけすでに市街地/十年以内に優先的に市街化を図る区域市街化を抑制すべき区域
建築用途地域の範囲内で比較的自由原則として制限。開発許可が必要
用途地域必ず定められている原則として定めなし
都市計画税課税される課税されない
インフラ集中的に整備される整備が及んでいないことが多い
窓口での言い換え

相談者に「市街化調整区域です」とだけ伝えても、多くの場合は通じません。結論と次の一手を添えて伝えると、その後のやり取りが早くなります。

「原則として新しい建物は建てられない区域です。建てられる場合もありますが、そのためには市(県)の許可が必要になります」

なぜこの線引きが生まれたのか

制度の背景を押さえておくと、「なぜここは建てられないのか」という相談者からの問いに、根拠をもって答えられるようになります。

無秩序な開発の抑制

戦後の日本は急速な経済成長とともに都市化が進みました。しかしその拡大は無計画で、郊外では農地や自然環境が次々と失われていきました。市街化区域と市街化調整区域の区分は、この都市スプロールを抑え、土地利用を効率的に管理するために導入されたものです。

計画的な都市開発の推進

市街化区域を明示することで、「どこで街をつくり、どこでつくらないか」という都市開発の方向性が定まりました。街が乱雑に広がるのではなく、計画に基づいた開発が可能になり、インフラ整備と公共サービスの提供が効率化されました。

環境保護と農業生産力の維持

市街化調整区域の設定は、自然環境の保護と農業生産力の維持に大きな役割を果たしています。日本は土地資源が限られており、農地が次々に住宅地へ転用されれば食料自給率に影響が及びます。開発を制限することで、農地と森林が守られてきました。

地方分権の促進

都市計画の決定権が地方自治体へ移譲されたことも、この制度の重要な側面です。国主導ではなく、地域ごとの実情に即した計画を立てられるようになりました。市町村が自らの手で都市の発展をコントロールできる仕組みです。

インフラ整備の効率化

道路、上下水道、電気、ガスといった基盤整備を市街化区域に集中させることで、限られた予算のなかで効率的な公共投資が可能になりました。住民の生活環境の改善と、都市の成長が両立できるようになったのはこのためです。

四つの区分を押さえる

実務では、市街化区域と市街化調整区域の二つだけでなく、次の四つの区分を意識する必要があります。相談を受けた土地がどれに当たるのかで、回答がまったく変わります。

区分特徴
市街化区域都市化が進んでいる区域。用途地域が定められ、その範囲内で建築可能。都市計画税が課税される。
市街化調整区域市街化を抑制すべき区域。建築は原則制限され、開発行為には許可が必要。都市計画税は課税されない。
非線引き区域都市計画区域内だが、市街化区域と市街化調整区域に区分(線引き)されていない区域。規制は市街化区域より緩やかだが、用途地域が定められている場合がある。
都市計画区域外都市計画法の適用範囲の外側。同法による規制はほとんどないが、自治体の独自ルールや他法令が適用される場合がある。
窓口での言い換え

「非線引き区域」という言葉は、相談者にはまず通じません。こう補うと理解が早くなります。

「都市計画の区域内ではありますが、市街化区域と調整区域の区分がされていない場所です」

いま起きている課題

この制度は都市の無秩序な拡大を防ぐうえで効果を上げてきましたが、人口減少期に入った現在では新たな課題も生じています。窓口で相談を受ける際に、背景として知っておくと説明に厚みが出ます。

調整区域の資産価値の低下

建築が制限されているため、土地の資産価値が下がりやすい傾向があります。とくに都市部から離れた地域では、人口減少と高齢化が進むなかで、資産としての価値が見込みにくくなっているケースが増えています。相続の相談や、空き家・空き地の処分に関する相談で、この点が問題になることがあります。

インフラ整備の遅れ

市街化区域に整備を集中させた結果、調整区域やその周辺では上下水道などの整備が及んでいないことがあります。生活の利便性が低く、地域の活性化にも影響します。

人口減少下での区域の再編

少子高齢化と人口減少が進むなかで、どの区域を再編し、どう活用していくかが課題となっています。人口が減った地域では、不要になった市街化区域を見直して適切な規模に再編することが求められる場面も出てきました。立地適正化計画の検討は、この文脈にあります。

窓口での確認手順

ここからが実務です。相談を受けてから回答するまでを、順番に整理します。この順序を飛ばすと、あとで戻ってくることになります。

一 都市計画図で区分を特定する

まず、相談の土地がどの区分にあるかを都市計画図で確認します。地番だけでは特定できないことがあるため、可能であれば住宅地図や公図と照らし合わせます。境界付近の土地では、一筆のなかに区分の線が走っていることもあります。この場合の取り扱いは所管課の判断が必要です。

二 市街化区域なら、用途地域を確認する

用途地域によって建てられる建物の種類と規模が変わります。あわせて建蔽率と容積率、防火地域・準防火地域の指定、計画道路の有無を確認します。ここまで確認できれば、おおよその回答はできます。

三 調整区域なら、例外に当たるかを確認する

調整区域でも建築できる場合があります。既存宅地としての扱い、集落内開発制度の対象、農林漁業を営む者の住宅、公益上必要な施設、そして都市計画法第34条各号への該当。このいずれかに当たる可能性があるかどうかまでを窓口で見て、あとは開発許可の所管課につなぎます。

ここが分かれ目

可否の判断そのものを窓口で行わないでください。断定したものが後で覆ると、行政への信頼が損なわれます。窓口では「該当する可能性の有無」までにとどめ、判断は所管部署に委ねます。

四 農地かどうかを併せて確認する

調整区域の土地は農地であることが少なくありません。農地であれば農地転用の手続きが必要になり、さらに農業振興地域の農用地区域であれば、その前に農振除外の手続きが要ります。所管は農業委員会です。

時間の見立てを、早い段階で

農振除外は多くの自治体で年に一回または二回の受付にまとめられており、申請から除外の告示まで一年前後を要することも珍しくありません。そのうえで農地転用の手続きが始まります。相談者が着工時期を決めている場合は、この時点で逆算して伝えないと、後で計画が破綻します。

五 接道の状況を確認する

区分と用途の条件を満たしていても、接道義務を満たしていなければ建築はできません。幅員四メートル以上の道路に二メートル以上接しているかを確認します。詳しくは第03章と第09章で扱います。

六 回答を組み立てる

回答は、三つに分けて伝える

① 確認できたこと ② 確認できていないこと ③ 次に相談すべき窓口

この形にすると、行き違いが起きにくくなります。可否を断定せず、判断の所管を明示することが、後々のトラブルを防ぎます。

実務チェックリスト
  • 都市計画図で区分を特定した市街化区域/市街化調整区域/非線引き区域/都市計画区域外のいずれか
  • 一筆のなかに区分の境界線が走っていないか確認した走っている場合は所管課の判断が必要
  • (市街化区域)用途地域を確認した建蔽率・容積率もあわせて確認
  • (市街化区域)防火地域・準防火地域の指定を確認した
  • (市街化区域)計画道路の有無を確認した
  • (調整区域)既存宅地・集落内開発制度の対象かを確認した
  • (調整区域)都市計画法第34条各号に該当する可能性を確認した可否の判断は開発許可の所管課へ
  • 登記地目と現況地目を確認した登記が農地でなくても現況が農地なら農地法の対象
  • 農業振興地域の農用地区域に含まれるかを確認した含まれる場合は農振除外に年単位の時間を要する
  • 接道の状況を確認した幅員4m以上の道路に2m以上接しているか
  • 回答を「確認できたこと/できていないこと/次の窓口」に分けて伝えた
  • 相談内容と回答内容を記録に残した

まとめ

  • 市街化区域と市街化調整区域の区分は、都市の無秩序な拡大を防ぎ、農地と自然環境を守るために1968年に導入された。
  • 市街化区域では用途地域の範囲内で建築でき、都市計画税が課税される。市街化調整区域では建築が原則制限され、開発許可を要する。
  • 実務では、非線引き区域と都市計画区域外を加えた四つの区分を意識する。
  • 調整区域では、例外に当たる可能性の有無までを窓口で見て、可否の判断は所管課につなぐ。
  • 農地であるかどうかは早い段階で確認する。農振除外には年単位の時間がかかることがある。

関連法令

法令内容
都市計画法 第7条都市計画区域について、市街化区域と市街化調整区域との区分を定めることができる旨を規定。
都市計画法 第8条用途地域その他の地域地区について規定。
都市計画法 第29条開発行為の許可について規定。
都市計画法 第34条市街化調整区域における開発許可の基準を規定。
農地法 第4条・第5条農地の転用および転用のための権利移動について規定。
農業振興地域の整備に関する法律農用地区域の設定と除外の手続きについて規定。
ご確認ください

本章は制度理解のための一般的な解説であり、個別案件の法的判断を保証するものではありません。実際の手続きにあたっては、都市計画課・農業委員会・法務局・建築指導課など所管窓口や専門家(行政書士・土地家屋調査士等)に必ずご確認ください。

この内容を、貴庁の職員研修として。

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