CHIOU / 株式会社地央

既存住宅の流通 ── 記録がないから、評価されない

この記事の要点
  • 中古住宅が評価されない理由は状態が分からないこと。古いことそのものではない
  • 宅建業法により建物状況調査に関する手続きが定められている
  • 瑕疵保険は、買主の不安を減らすと同時に、税制上の要件にも関わる
  • 記録を残すことが、将来の流通で価値になる

日本では、住宅の取引に占める中古の割合が諸外国に比べて低いとされています。

ただ、これは中古住宅そのものが敬遠されているというより、判断の材料がないことによる面があります。

この記事では、その環境を整えるための仕組みを整理します。

なぜ流通しないのか

状態が分からないから、買えない

中古住宅を検討する側が抱く不安です。

  • あと何年住めるのか分からない
  • 雨漏りやシロアリの被害がないか分からない
  • これまでどう手入れされてきたか分からない
  • 買った後で不具合が出たら、誰に言えばよいのか
  • 改修にいくらかかるか見当がつかない

売る側も、多くの場合建物の状態を説明できません。

設計図書がない。修繕の記録がない。何をどう直したか覚えていない。

この状態では、価格の交渉も成り立ちません。結果として、建物の価値をほぼゼロとして、土地の値段で取引されることになります。

評価の慣行

建物の評価が、築年数に応じて機械的に下がるという扱いが一般的でした。

従来の扱い 問題
築年数だけで判断 手入れの有無が反映されない
一定年数でゼロ評価 改修しても評価が上がらない
個別の状態を見ない 良い建物も悪い建物も同じ扱い

この扱いでは、手入れをする動機が生まれません。

直しても評価されないなら、直さない。そして、さらに状態が悪くなる。

建物状況調査

専門家が、目視等で状態を調べる

建物状況調査は、既存住宅の状態を調べる仕組みです。

内容
誰が 一定の講習を修了した建築士
何を 構造耐力上主要な部分、雨水の浸入を防止する部分
どう 目視、計測などによる。原則として非破壊
結果 劣化事象等の有無を報告する

宅地建物取引業法により、次の手続きが定められています。

  • 媒介契約時 調査を実施する者のあっせんに関する事項を記載する
  • 重要事項説明時 調査を実施している場合、その結果の概要を説明する
  • 契約時 建物の状況について当事者が確認した事項を書面に記載する
調査の実施そのものは義務ではない

宅地建物取引業者に義務づけられているのは、あっせんの有無を示すことと、実施されている場合に結果を説明することです。

調査を必ず行わなければならない、というものではありません。

また、調査の範囲には限界があります。

  • 原則として目視できる範囲
  • 家具や内装で隠れている部分は見られない
  • 床下・小屋裏は、点検口がなければ入れない
  • 建物の耐震性能を判定するものではない
  • 将来の不具合を保証するものでもない

「調査したから安心」ではありません。何を見て、何を見ていないかを確認してください。

瑕疵保険

既存住宅の売買について、引渡し後に判明した不具合を保険でカバーする仕組みがあります。

内容
対象 構造耐力上主要な部分、雨水の浸入を防止する部分など
加入の前提 検査に合格すること
期間 一定の期間
効果 買主の不安を減らす。売主の責任の負担も軽くなる
税制上の要件にも関わる

既存住宅の取得に関する税制上の措置には、住宅の安全性に関する要件が定められているものがあります。

この要件を満たす方法として、瑕疵保険への加入が用いられる場合があります。

  • 耐震基準に適合することの証明
  • 一定の性能を有することの証明

要件と手続きは制度によって異なり、改正もあります。

適用の可否は、税理士または関係機関にご確認ください。加入の時期にも要件があるため、取引の設計に影響します。

情報の標準化

既存住宅について、一定の要件を満たすものに標章を付す仕組みが設けられています。

要件の例 内容
耐震性 新耐震基準に適合していること等
建物状況調査 実施され、構造上の不具合等がないこと
情報の提供 点検・修繕の履歴、保険の加入状況などを示す
リフォーム 実施済みまたは提案が示されていること

「古い」「汚い」「不安」というイメージを、情報によって解消しようとするものです。

住宅の履歴

記録がないから、評価されない

建物の状態を示す最も確実な材料は、これまでの記録です。

残すべきもの 内容
設計図書 平面図、立面図、構造図、仕様書
確認済証・検査済証 適法に建てられたことの証明
住宅性能評価書 取得している場合
点検の記録 いつ、どこを、誰が
修繕・改修の記録 工事の内容、図面、写真、見積書
設備の情報 機種、設置時期、保証書
保険の加入状況

これらを蓄積し、引き継ぐ仕組みが整えられています。

記録があれば、買主は判断できます。改修の見積りも取りやすくなります。

逆に、記録がなければ、調査からやり直すことになります。その費用と時間が、取引の障害になります。

写真を残す

工事の際、壁や床を開けた状態の写真は、後から得られない情報です。

  • 構造材の状態
  • 断熱材の有無と種類
  • 配管の経路
  • 基礎、土台の状態

次に工事をするとき、開けなくても分かります。

リフォーム市場

環境の整備

仕組み 内容
リフォームの瑕疵保険 工事後の不具合に備える
事業者団体の登録制度 一定の要件を満たす団体を登録し、消費者が選びやすくする
見積りの標準化 比較できる形にする取組み
相談窓口 公的な相談機関
トラブルが起きやすい分野

リフォームは、工事の範囲と品質が事前に見えにくいという特徴があります。

  • 開けてみないと分からない部分がある
  • 追加工事が発生しやすい
  • 見積りの項目が事業者ごとに違い、比較しにくい
  • 完成後、内部が見えなくなる
  • 訪問販売による不適切な勧誘

契約の前に、次を確認してください。

  • 工事の範囲が具体的に書かれているか
  • 追加工事が生じる場合の取扱い
  • 工事中の写真を残してもらえるか
  • 保証と、その内容
  • 瑕疵保険への加入の有無

実務での確認

売る側

  • 設計図書、確認済証・検査済証を探す
  • これまでの修繕の記録をまとめる
  • 建物状況調査を実施するか検討する
  • 瑕疵保険に加入できるか確認する
  • 不具合がある場合、隠さずに伝える

買う側

  • 建物状況調査の結果があれば、内容を確認する
  • 何を見て、何を見ていないかを確認する
  • 修繕の履歴を確認する
  • 改修の見積りを取ってから判断する
  • 瑕疵保険の有無と内容を確認する
  • 税制上の措置の要件を確認する
土地の条件も、併せて確認する

建物の状態が良くても、土地の条件が悪ければ、将来の売却で困ります。

  • 再建築できるか 接道の状況
  • 境界が確定しているか
  • 越境がないか
  • 私道の通行・掘削の承諾
  • 災害の警戒区域内でないか

建物と土地は、分けて確認してください。

建物状況調査は、土地の条件までは扱いません。

既存住宅の取引に関する確認
  • 設計図書・確認済証・検査済証の有無を確認した
  • 修繕・改修の履歴を確認した
  • 建物状況調査の実施の有無を確認した
  • 調査の範囲と限界を確認した見ていない部分がある
  • 瑕疵保険の加入の可否と内容を確認した
  • 税制上の措置の要件を確認した加入の時期にも要件がある
  • 改修の見積りを取ってから判断した
  • (売る側)不具合を隠さずに伝えた
  • (リフォーム)工事の範囲と追加工事の扱いを確認した
  • (リフォーム)工事中の写真を残してもらった
  • 土地の条件を別に確認した接道・境界・越境・災害

まとめ

  • 中古住宅が評価されない理由は、状態が分からないこと。古いことそのものではない。
  • 宅建業法により、建物状況調査に関する手続きが定められている。ただし実施は義務ではない。
  • 調査には範囲の限界がある。何を見て、何を見ていないかを確認する。
  • 瑕疵保険は不安を減らすと同時に、税制上の要件にも関わる。
  • 記録を残すことが、将来の流通で価値になる。とくに工事中の写真は後から得られない。
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