CHIOU / 株式会社地央

登録有形文化財 ── 使いながら残す

この記事の要点
  • 平成8年に創設。近代の建造物が急速に失われていたことへの対応
  • 指定が「厳選して守る」のに対し、登録は幅広く、緩やかに
  • 規制は届出制。使いながら残すことが前提になっている
  • 登録しても維持できるとは限らない。活用の担い手が課題

指定文化財の制度は、特に重要なものを厳選して守るものです。

しかし、それだけでは救えないものがありました。明治から昭和にかけての建物です。数が多く、一つひとつは国宝級ではない。しかし、失われれば街の記憶が消えていく。

この記事では、そうした建物を対象とする登録制度を扱います。

なぜ作られたか

近代建造物が、次々に失われていた

平成に入る頃、明治・大正・昭和初期の建物が急速に姿を消していました。

  • 老朽化により、建て替えの時期を迎えた
  • 土地の有効利用が優先された
  • 指定の対象にするには数が多すぎた
  • 指定すると規制が強く、所有者の同意が得にくい

指定制度は、強い規制と手厚い保護をセットにした仕組みです。そのため、対象を絞らざるを得ません。

一方、失われつつある建物の多くは、日常的に使われている現役の建物でした。店舗、住宅、事務所、工場、学校、駅舎。

使われ続けていることに価値がある建物を、使えなくする制度では守れません。

そこで平成8年(1996年)、登録有形文化財の制度が創設されました。

指定との違い

指定 登録
考え方 厳選して守る 幅広く緩やかに
限られる 多い
現状変更 許可が必要 一定の場合に届出
求められること 当初の姿を保つ 外観を大きく変えない
使い方 制約が大きい 使い続けることが前提
支援 修理費への補助等、手厚い 設計監理費の補助、税制上の措置など
「凍結保存」と「動態保存」

指定制度は、価値のある状態で保存し、変えないことを基本とします。

登録制度は、使い続けながら、外観の特徴を残すことを基本とします。

店舗を続ける、住み続ける、用途を変えて活用する。いずれも想定されています。

この違いが、対象となる建物の性格の違いから来ています。

登録の対象と要件

目安

  • 建設後50年を経過していること
  • 次のいずれかに該当すること
    • 国土の歴史的景観に寄与しているもの
    • 造形の規範となっているもの
    • 再現することが容易でないもの

「50年」は絶対の基準ではありませんが、一つの目安とされています。

建造物以外に、美術工芸品や有形の民俗文化財についても登録の仕組みがあります。

手続き

内容
きっかけ 所有者や市町村からの情報提供、調査など
同意 所有者の同意が前提
審議 文化審議会の答申
登録 文化財登録原簿への登録、官報告示

所有者の同意なく登録されることはありません。

登録されると、どうなるか

制限されること

届出制。許可ではない

登録有形文化財について、現状を変更する場合は届出が必要です。

届出が必要な場合 備考
外観を変更する 一定の割合を超える場合
移築する
除却する 解体する場合
所有者が変わる 売買、相続

届出であって、許可ではありません。

したがって、届け出れば、原則としてその行為を行うことができます。行政は指導・助言・勧告を行いますが、強制的に止めることは想定されていません。

この緩やかさが、所有者の同意を得やすくしています。同時に、制度の限界でもあります。

内部の改修は、比較的自由

登録制度が守ろうとしているのは、主に外観です。

したがって、内部の改修は比較的自由に行えます。

  • 設備の更新(水回り、空調、電気)
  • 間取りの変更
  • 用途の変更(住宅から店舗へ、など)

「使いながら残す」ことを可能にしている部分です。

支援

支援 内容
設計監理費の補助 修理の設計・監理にかかる費用の一部
固定資産税 家屋に係る税額の減額措置
相続税 評価に関する措置
低利融資 制度による
建築基準法 条例により、一部の規定の適用を除外できる
建築基準法の適用除外が、活用の鍵になる

古い建物は、現行の建築基準法に適合していないことがほとんどです。

そのまま使い続けることは認められますが(既存不適格)、用途を変更したり、大規模な改修をしたりする段階で問題が生じます。

登録有形文化財については、市町村が条例を定めることで、建築基準法の一部の規定の適用を除外できます。

この場合、代替となる安全の措置を計画に盛り込むことが求められます。防火や避難について、別の方法で安全を確保するという考え方です。

活用を検討する場合、この仕組みが使えるかを、建築担当課と文化財担当課の双方に確認してください。

活用の実際

活用の例 備考
店舗・飲食店 建物自体が魅力になる
宿泊施設 旅館業法・消防法の要件が課題
事務所・工房 比較的、改修の負担が小さい
住宅として継続 断熱・水回りの更新が課題
公共施設・交流拠点 市町村や団体が取得して活用
用途を変えると、他の法律が関わる

登録有形文化財であることと、他の法律の規制は別です。

  • 用途変更 建築基準法上の手続きが必要になる場合がある
  • 消防法 用途によって求められる設備が変わる
  • 旅館業法 宿泊施設にする場合の許可
  • 食品衛生法 飲食を提供する場合
  • バリアフリー 規模と用途による

文化財としての届出だけを済ませて着手すると、後で止まります。

用途を決めた段階で、関係する部局にまとめて相談してください。

課題

登録しても、維持できるとは限らない

登録は、建物の価値を公に認めるものですが、維持を保証するものではありません。

課題 内容
修理の費用 補助は設計監理費が中心。工事費の負担は残る
担い手 所有者の高齢化、後継者の不在
除却 届出すれば解体できる
用途の確保 使い道がなければ、維持する動機が生まれない

実際に、登録後に解体された例があります。届出制である以上、制度としてそれを止める手段は限られます。

それでも登録する意味

  • 価値が公に認められる 所有者の意識が変わることがある
  • 解体の前に、検討する時間が生まれる
  • 支援の対象になる
  • 活用したい人に見つけてもらいやすくなる
  • 記録が残る

強制力は弱いものの、失われる速度を緩める効果はあります。

街の記憶として

建物は、その場所の履歴を持っている

登録有形文化財の多くは、その地域の産業や暮らしと結びついています。

  • かつての基幹産業を担った工場や倉庫
  • 商店街の全盛期に建てられた店舗
  • 地域の金融を支えた銀行の建物
  • 鉄道の開通とともに建てられた駅舎
  • 地域で最初の鉄筋コンクリート造の建物

建物が残っていることで、その場所に何があったかが伝わります。

写真や記録では代えられない部分があります。実際にそこに立てるということ自体に、意味があります。

一方で、「記憶」だけでは維持費は出ません。使い道を見つけ、収支を成り立たせることが、結果として保存につながります。

取引で確認すること

確認するもの 影響
登録の有無 所有者が変わる際に届出が必要
登録されている範囲 建物のどの部分か
外観変更の届出の基準 どこまでが届出の対象か
建築基準法の適用除外 条例があるか
補助・税制の適用状況 承継されるか
修理の履歴と、今後の必要 費用の見込み
登録有形文化財に関する確認
  • 登録の有無を確認した文化財担当課、文化庁のデータベース
  • 登録されている範囲を確認した
  • 外観の変更について、届出の基準を確認した
  • 所有者の変更にも届出が必要なことを確認した
  • (活用を検討)建築基準法の適用除外の条例があるか確認した
  • (活用を検討)用途変更に伴う手続きを確認した
  • (活用を検討)消防法・旅館業法など、関係法令をまとめて確認した
  • 修理の履歴と、今後必要になる工事を確認した
  • 補助・税制の措置の内容と、承継の可否を確認した
  • 収支が成り立つ使い道を検討した

まとめ

  • 平成8年に創設。近代の建造物が急速に失われていたことへの対応。
  • 指定が「厳選して守る」のに対し、登録は「幅広く、緩やかに」。
  • 規制は届出制。内部の改修は比較的自由で、使いながら残すことが前提。
  • 建築基準法の適用除外が使えるかどうかが、活用の鍵になる。
  • 登録しても維持は保証されない。使い道を見つけることが、結果として保存につながる。
この内容を、研修・講座として。

自治体職員、専門職団体、事業者の皆様向けにお引き受けしています。歴史的建造物の活用に伴う手続きも扱います。
構成のご提案とお見積りまで、費用はかかりません。

都市計画実践講座を見る
土地法制の見取図

BLOG

ブログ

PAGE TOP