CHIOU / 株式会社地央

重要伝統的建造物群保存地区 ── 町並みを面で守る

この記事の要点
  • 仕組みは二段階。市町村が地区を定め、国が選定する
  • 守るのは建物だけではない。門・塀・石垣・水路・樹木も対象になる
  • 建物の区分によって扱いが違う。伝統的建造物とそれ以外
  • 最大の課題は住み続けられるか。保存だけでは町並みは残らない

個々の建物を指定して守る制度では、町並みを残すことができません。

一軒だけ立派に保存されても、周りが建て替わってしまえば、その場所の姿は失われます。町並みは、面として存在しているからです。

この記事では、地区として守る制度の仕組みと、その難しさを整理します。

二段階の仕組み

市町村が決め、国が選ぶ
誰が 何を
第一段階 市町村 伝統的建造物群保存地区を定める
第二段階 価値が高いものを重要伝統的建造物群保存地区として選定する

ほかの文化財と、順序が逆になっています。

国宝や重要文化財は、国が価値を認めて指定します。これに対し、伝統的建造物群保存地区は、まず市町村が地区を定めるところから始まります。

つまり、その地域が「ここを守りたい」と決めることが出発点です。

国による選定は、その判断を評価し、支援を厚くするものと理解できます。

地区の定め方

市町村は、都市計画または条例によって保存地区を定めます。

特徴
都市計画で定める 都市計画法上の地域地区になる。都市計画区域内
条例で定める 都市計画区域外でも定められる

いずれの場合も、あわせて保存条例保存計画を定めます。

保存計画に書かれること

  • 保存地区の保存に関する基本計画
  • 伝統的建造物および環境物件の指定に関する事項
  • 保存すべき建造物等の修理の基準
  • それ以外の建築物等の修景の基準
  • 許可の基準
  • 保存のための助成措置

実際に何ができて何ができないかは、この計画と条例で決まります。法律だけを見ても分かりません。

何を守るのか

建物だけではない

保存の対象には、建造物以外のものも含まれます。

区分
伝統的建造物 主屋、土蔵、門、塀など
環境物件 石垣、水路、屋敷林、社寺林、樹木、庭園、井戸

町並みは、建物だけで成り立っているわけではありません。

道の幅、石垣の積み方、水路の流れ、大きな木。これらが失われると、建物が残っていても場所の姿は変わります。

したがって、樹木の伐採や水路の改修にも許可が必要になる場合があります。

取引や工事の際は、建物以外に指定されているものがないかを確認してください。

規制の内容

保存地区内では、次の行為に市町村長の許可が必要です。

行為 備考
建築物等の新築・増築・改築・移転・除却 解体にも許可が要る
修繕・模様替え、色彩の変更 外観に係るもの
宅地の造成、土地の形質変更
木竹の伐採 環境物件として指定されているもの
土石の類の採取
水面の埋立て・干拓
建物の区分で、求められることが違う
伝統的建造物 それ以外の建築物
求められること 修理(元の姿に復する) 修景(町並みに調和させる)
基準 建築当初の姿を基本とする 町並みと調和する外観にする
新築 修景の基準に従う

すべての建物を古いままにするのではありません。

新しい建物を建てることはできます。ただし、外観を町並みに合わせる必要があります。

この区別があることで、地区が「保存された状態で固定される」のではなく、更新しながら町並みを維持できます。

修理と修景の支援

規制だけでは、所有者の負担が重くなります。そのため、費用の助成が用意されています。

支援 内容
修理・修景の補助 費用の一定割合を補助。市町村の条例による
税制上の措置 固定資産税、相続税に関する措置
技術的な支援 設計の相談、伝統的な工法の指導
それでも、所有者の負担は残る

補助があっても、全額が賄われるわけではありません。

また、伝統的な工法での修理は、一般の工事より費用も期間もかかります。

  • 使える材料が限られる
  • 施工できる職人が限られる
  • 設計に時間がかかる
  • 着工までに許可の手続きが要る

建物を取得して活用する場合、この点を計画に織り込んでください。

建築基準法との関係

保存地区内の建物は、現行の建築基準法に適合していないことが多くあります。

適合しにくい項目 内容
接道 細い道に面している
構造 現行の耐震基準を満たさない
防火 木造密集。防火地域の規制
採光・換気 間口が狭く、奥行きが深い

条例により、建築基準法の一部の規定の適用を除外できる仕組みがあります。

この仕組みがないと、修理も活用もできなくなります。その市町村で条例が定められているか、確認してください。

住み続けるための課題

保存だけでは、町並みは残らない

建物が残っても、人が住まなくなれば町並みは維持できません。

実際に直面する課題です。

課題 内容
生活のしにくさ 断熱、水回り、駐車場。現代の暮らしとの折り合い
高齢化 修理の判断も、資金の負担も難しくなる
後継者 子世代が戻らない
空き家 手を入れないまま傷んでいく
職人 伝統的な工法を担う人が減っている

規制と補助だけでは、これらは解決しません。

住み続けられる条件を整えることが、制度の外側で必要になります。

観光との関係

町並みが評価されると、訪れる人が増えます。これは経済的な支えになりますが、同時に負担にもなります。

利点 負担
修理の費用を賄える 生活が見られる状態になる
若い世代が事業を始める 交通、騒音、ごみ
空き家が活用される 住民が減り、店舗ばかりになる

どこまで観光を受け入れるかは、地域で決める必要があります。これも合意形成の問題です。

防災

木造の建物が密集しているため、火災のリスクが高い地域が多くあります。

消火設備の整備、避難経路の確保、住民による初期消火の体制。景観を損なわない形での防災対策が課題になります。

まちづくりとしての側面

合意形成が、制度の前提にある

保存地区は、市町村が一方的に定めるものではありません。

地区内のすべての土地・建物に規制がかかるため、住民の理解なしには成立しません。

実際の手順では、次のような段階を踏みます。

  1. 調査 どういう建物が、どれだけ残っているか
  2. 住民への説明と、意向の把握
  3. 何を守るかの共有
  4. 規制と支援の内容の検討
  5. 都市計画または条例の手続き
  6. 保存計画の策定

二番目と三番目に、最も時間がかかります。

「規制されるのは困る」という反応は当然に生じます。それに対して、規制と引き換えに何が得られるのかを示す必要があります。

取引で確認すること

確認するもの 影響
保存地区の内か 現状変更に許可が必要
伝統的建造物か 修理の基準が適用される
環境物件の指定 石垣、樹木、水路など
保存計画の内容 修理・修景の具体的な基準
補助の内容と要件 市町村の条例による
建築基準法の適用除外 条例が定められているか

解体にも許可が必要です。「古い建物を壊して建て替える」という前提で取得すると、計画が成り立ちません。

保存地区に関する確認
  • 保存地区の区域内か確認した
  • 都市計画で定められているか、条例か確認した
  • 伝統的建造物として指定されているか確認した
  • 環境物件の指定を確認した石垣・樹木・水路など
  • 保存計画の修理・修景の基準を確認した
  • 許可が必要な行為の範囲を確認した除却にも許可が要る
  • 補助の内容と要件を確認した
  • 建築基準法の適用除外の条例があるか確認した
  • (活用を検討)工事の費用と期間を、通常より多く見込んだ
  • (活用を検討)施工できる事業者を確認した
  • 重要事項説明の対象として整理した

まとめ

  • 市町村が地区を定め、国が選定する。他の文化財と順序が逆になっている。
  • 守るのは建物だけでなく、石垣・水路・樹木などの環境物件も含む。
  • 伝統的建造物は修理、それ以外は修景。更新しながら町並みを維持する仕組み。
  • 除却にも許可が必要。建て替えを前提とした取得はできない。
  • 最大の課題は、住み続けられるかどうか。規制と補助だけでは解決しない。
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