許認可の確実性を高める ── 行政リスクの管理
- 事業のリスクは三層。市場・事業・行政。最も読みにくいのが行政リスク
- 遅延は突然来ない。協議の往復回数、担当者の交代、論点の性質に予兆が出る
- 行政からの指示は法的義務か、裁量による指導かを切り分ける。対応が変わる
- 協議はその場で記録する。担当者が替わったとき、記録だけが引き継げる
開発の計画で、最も読みにくいのが許認可がいつ下りるかです。市場は予測でき、工事費は見積もれますが、行政の判断は外から見えません。
ただし、遅延が突然来ることはほとんどありません。協議の過程に、必ず予兆が出ます。それを拾えるかどうかで、打てる手の数が変わります。
コースCの最終回として、許認可の不確実性をどう管理するかを扱います。
リスクは三層
| 層 | 内容 | 読みやすさ |
|---|---|---|
| 市場リスク | 地価、賃料、金利、需要 | 統計とデータで一定程度読める |
| 事業リスク | 工事費、工期、権利者との調整 | 見積りと契約で管理できる |
| 行政リスク | 許認可の遅延・不許可、条例の改正、行政指導による計画変更 | 最も読みにくい |
行政リスクが読みにくいのは、判断の基準が外から見えにくく、裁量の幅があるためです。しかもこのリスクが顕在化すると、事業そのものが止まります。
許可が下りた後に、行政指導によって計画の変更を求められることがあります。近隣への配慮、緑地の追加、外構の仕様。
許可の取得を最終目標に置くと、この段階で計画が崩れます。指導が入りうる範囲を、事前協議の段階で確認しておいてください。
遅延の予兆
遅延は突然発生しません。次のような形で現れます。
| 予兆 | 意味すること |
|---|---|
| 同じ論点で三回以上やり取りしている | 基準への適合に疑義がある。説明の仕方ではなく、内容の問題 |
| 回答が返るまでの日数が延びている | 庁内で協議が必要な事項が生じている |
| 担当者が「上と相談します」を繰り返す | 現場の判断で処理できない論点がある |
| 担当課長以上が交代した | 判断の前提が変わる可能性がある |
| 関係課の同意が一つだけ残っている | そこが本当の関門 |
| 条例・要綱の改正が議論されている | 適用される基準が変わる可能性がある |
やり取りの回数だけでなく、何について繰り返しているかを見てください。
書類の記載方法や添付資料の不備であれば、直せば済みます。しかし排水の放流先、接続道路の幅員、周辺への影響といった論点で繰り返しているなら、計画そのものの見直しが必要な可能性があります。
前者は時間の問題ですが、後者は成立性の問題です。
指示を切り分ける
行政から示される事項は、性質が二つに分かれます。この切り分けができないと、必要以上のコストを負うことになります。
| 法的義務 | 裁量による指導 | |
|---|---|---|
| 性質 | 法令・条例に根拠がある | 望ましいとされる水準 |
| 例 | 接道の幅員、排水能力、擁壁の構造 | 基準を超える幅員、外構の仕様、緑化率の上乗せ |
| 対応 | 満たす。交渉の余地はない | 目的を確認し、代替案を提示できる |
「どの条文・要綱に基づくものでしょうか」と尋ねることは、行政と対立することではありません。実務上、当然の確認です。
根拠が示されれば従います。根拠が示されず「望ましいので」ということであれば、その目的を確認し、目的を満たす別の方法を提案できます。
すべてを義務として受け入れると、コストが積み上がります。すべてを拒むと協議が進みません。切り分けたうえで、義務は満たし、裁量には代替案で応じる。これが実務です。
代替案の出し方
「その基準は厳しすぎます」では話が進みません。指導の目的を言語化してから提案します。
- 「歩行者の安全確保が目的であれば、幅員を広げる代わりに、この位置に待避所を設ける形ではいかがでしょうか」
- 「雨水の流出抑制が目的であれば、調整池の容量を増やすことで対応できないでしょうか」
目的が満たせることを示せば、手段は交渉できます。
協議の記録
行政との協議は、多くが口頭で進みます。記録がなければ、後から確認できません。
記録すること
- 日時、場所、出席者(相手方の課・職名・氏名)
- こちらが説明した内容
- 相手方の発言。とくに「これでよい」「これは難しい」という判断に関わる部分
- 次回までの宿題と、その期限
- 根拠として示された条文・要綱
作成した記録を、「認識に相違がないか確認をお願いします」と添えて相手方に送ります。
これには二つの効果があります。認識のずれをその場で正せること。そして、後から「そうは言っていない」となる余地が小さくなること。
相手方にとっても、担当が替わったときの引き継ぎ材料になります。押し付けではなく、双方の利益になる形です。
担当者が替わったとき
行政側の担当者が異動すると、前提の共有が失われます。同じ説明を最初からやり直すことになります。
このとき、これまでの協議経緯をまとめた資料を用意して渡してください。「前任の○○様と、この方針で進めることを確認しています」と経緯を示せると、判断が覆るリスクが下がります。
早めに伝える
遅れが見込まれるとき、確定してから報告するのではなく、可能性の段階で共有します。
| 相手 | 伝えること |
|---|---|
| 行政 | 権利者との調整が難航しており、申請時期が後ろにずれる可能性がある |
| 金融機関 | 許可の見込み時期に幅が出ている。資金計画への影響 |
| 社内 | 予兆の内容と、想定される期間の幅 |
遅れそうだと分かった時点で伝えると、相手も準備ができます。確定してから伝えると、相手は対応の時間を失います。
「まだ確定していないから」と抱えるのが、最も損をします。
調査の重点
計画の初期に
- 過去の同種案件の扱い 同じ自治体で、似た計画がどう処理されたか
- 条例・要綱の改正の動き 議会の記録、審議会の公開資料
- 関係する許認可の洗い出し 開発許可、農地転用、盛土規制法、埋蔵文化財、景観条例
- それぞれの標準処理期間 公表されているものは確認する
宅地造成等規制法は、2023年に宅地造成及び特定盛土等規制法(盛土規制法)へ改められています。
古い資料や社内のチェックリストが旧法名のままになっていることがあります。法令名が古いと、規制の内容自体を取り違えます。盛土規制法は対象が宅地に限られず、規模の基準も変わりました。
権利関係で
- 登記簿に現れない権利 借家権、通行地役権、慣行的な利用
- 相続が未了の土地 相続人の確定に時間がかかる
- 共有者の所在 所在不明の共有者がいないか
- 法定外公共物 赤道・青道が区域を横切っていないか
これらは後半で見つかると、そこで止まります。初期に洗い出してください。
透明性を保つ
影響力のある関係者に事前に個別説明を行うこと自体は、実務として行われます。しかし、それが公式な手続きの代替になってはいけません。
公開の場での説明を経ずに実質的な合意が形成されていると受け取られると、手続きの公正さが問われます。後から手続きの瑕疵を指摘される余地を作ります。
事前の説明は行うとしても、公式な場で同じ内容を説明し、記録に残してください。説明した相手と内容を一覧にできる状態にしておくことです。
公共性を数字で示す
行政の判断基準は公共性です。「地域のためになります」では判断材料になりません。
| 観点 | 示せる形 |
|---|---|
| 防災 | 避難場所として提供できる面積、収容人数、備蓄 |
| 都市機能 | 老朽建築物の除却棟数、耐震性の向上 |
| 交通 | 歩道の整備延長、交差点の改良 |
| 経済 | 固定資産税の増加見込み、雇用の見込み |
数字にできるものは数字で示します。行政が庁内や議会で説明するときの材料になります。
- 必要な許認可を洗い出した開発許可・農地転用・盛土規制法・埋蔵文化財・景観条例
- 法令名が最新か確認した宅地造成等規制法→盛土規制法
- それぞれの標準処理期間を確認した
- 同じ自治体での同種案件の扱いを調べた
- 条例・要綱の改正の動きを確認した
- 協議の往復回数と、繰り返している論点の性質を把握した
- 残っている関係課の同意を把握した最後の一つが本当の関門
- 指示を法的義務と裁量による指導に切り分けた
- 裁量による指導には、目的を確認して代替案を提示した
- 協議記録をその場で作成した日時・出席者・発言・宿題・根拠
- 協議記録を相手方に送り、認識の確認を求めた
- 担当者交代時に、経緯をまとめた資料を渡した
- 遅れの可能性を、確定前に共有した
- 権利関係を初期に洗い出した
- 非公式な調整を公式手続きの代替にしていない
- 公共性を数字で示した
まとめ
- リスクは市場・事業・行政の三層。最も読みにくいのが行政リスク。
- 遅延には予兆が出る。往復回数だけでなく、繰り返している論点の性質を見る。
- 指示は法的義務と裁量による指導に切り分ける。根拠を尋ねるのは対立ではない。
- 協議記録をその場で作り、相手方にも送って認識を確認する。
- 非公式な調整を公式手続きの代替にしない。手続きの瑕疵を指摘される余地を作る。
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