まちづくりの合意形成 ── 堂々巡りを断つ
- 「合意」の意味は立場ごとに違う。先に定義を揃えないと、会議は終わらない
- 計画の中身がよくても、手続きに瑕疵があれば決定が取り消されうる
- 法にできるのは権利の処理と手続きの適法性まで。納得は法では作れない
- 議会・上層部には代替案との比較と、不確実性の明示で説明する
説明会が三回、四回と重なり、同じ議論が繰り返される。担当者は疲弊し、事業は進まない。
この状態が起きる理由の一つは、「合意」が何を指すのかが、参加者の間で揃っていないことです。もう一つは、議論の終わらせ方が設計されていないことです。
この記事では、合意形成を手続きの適法性と結びつけて設計する方法を扱います。
市街地再開発事業の根拠法は都市再開発法です。「市街地再開発法」という法律はありません。
「市街地再開発事業」は、都市再開発法に基づく事業の名称です。資料や説明で法律名を誤ると、指摘を受けたときに全体の信頼が揺らぎます。
「合意」の意味が、立場ごとに違う
| 立場 | 「合意」の意味するところ |
|---|---|
| 行政 | 法令に定められた手続きを履行し、必要な同意率を満たした状態 |
| 住民・権利者 | 自分の意見が計画に反映されること |
| 事業者 | 予定どおりの時期に着工できること |
| 議会 | 反対の声が収まり、説明責任が果たされている状態 |
同じ言葉を使いながら、指しているものが違う。これでは会議は終わりません。
説明会の冒頭で、この場で何を決めるのか、何は決めないのかを示してください。
- 本日は、計画案についてご意見を伺う場です
- いただいた意見は記録し、○月の審議会に報告します
- 本日で決定するものではありません
- 意見の提出は○月○日まで受け付けます
これを示さないまま始めると、「今日決まってしまうのか」という不安と、「決めさせない」という対抗が生まれます。場の性格を先に共有するだけで、進行が変わります。
手続きの瑕疵が、すべてを無にする
計画の中身がよくても、手続きに法的な誤りがあれば、決定が取り消される可能性があります。
| 手続き | 注意点 |
|---|---|
| 公聴会・説明会 | 法令や条例が定める開催要件を満たしているか。周知の方法と期間 |
| 縦覧 | 法定の期間を確保したか。場所と時間は適切か |
| 意見書の受付 | 提出期間、受付方法。提出された意見をすべて記録したか |
| 意見への対応 | 採用しなかった意見について、なぜ採用しなかったかを示せるか |
| 記録の保存 | 議事録、配布資料、質疑応答。後日の争いで唯一の証拠になる |
賛成意見は記録に残りやすく、反対意見は「議論が紛糾した」で片づけられがちです。これが逆です。
後の争いで問われるのは、反対意見をどう扱ったかです。誰が、いつ、何を主張し、行政がどう答えたか。採用しなかった場合、その理由は何か。
記録がなければ「聞いていない」「答えてもらえなかった」という主張に反証できません。その場で記録し、後から作らないでください。
権利変換計画でも同じ
都市再開発法では、権利変換計画について縦覧と意見書の提出の手続きが定められています。権利変換を希望しない者は、公告から30日以内に申し出ます。
これらの期間と手続きを守らないと、後で不服申立てや取消訴訟の対象になります。権利者の財産権を大きく動かす手続きであるため、裁判所は手続きの適正性を厳しく見ます。
権利関係の見落とし
登記簿だけを見ていると、見落とす権利があります。
| 見落としやすい権利 | 問題になる場面 |
|---|---|
| 借家権 | 所有者と合意しても、賃借人が明渡しに応じない |
| 通行地役権 | 登記されていれば乙区に出るが、されていないこともある |
| 慣行的な通路・水路の利用 | 登記に現れない。地元の慣行として存在する |
| 法定外公共物 | 赤道・青道。公図でしか気づけない |
| 未登記の相続 | 名義人が故人。相続人が多数に及んでいる |
これらを見落としたまま進めると、後半で止まります。権利関係の調査は、計画の初期に行ってください。
法にできること、できないこと
| 法にできること | 法にできないこと |
|---|---|
| 権利を法的な手続きで処理する | 転居への不安を解消する |
| 補償額を基準に従って算定する | 算定額に納得してもらう |
| 手続きの適法性を担保する | 事業への共感を生む |
| 明渡しの根拠を与える | 関係を壊さずに退去してもらう |
法的な根拠があることと、相手が納得することは別です。根拠を盾にして押し切ろうとすると、反発が強まり、かえって訴訟のリスクが上がります。
法は最低限守るべき線であって、それを満たせば十分ということではありません。手続きを守ったうえで、納得を作る作業が別に要ります。
会議の終わらせ方
感情と論点を分けて記録する
発言には、感情の表明と、論点の指摘が混ざります。受け止め方と記録の仕方を変えてください。
| 発言 | 受け止め方 |
|---|---|
| 「ここを離れたくない」 | まず受け止める。「生活の基盤を維持したいというご意見ですね」と要約して確認 |
| 「この計画は不公平だ」 | 論点として扱う。「どの点が不公平とお感じですか」と具体化を促す |
感情の表明を論点として反論すると、対立が深まります。逆に、論点の指摘を感情として流すと、「まともに取り合ってもらえない」と受け取られます。
終着点を先に決めておく
合意形成のゴールは、すべての反対者を納得させることではありません。それは達成できません。
実務上のゴールは、法令・条例に基づく必要な手続きを履行し、その過程で公平性と透明性を確保したと示せる状態です。
「本日でご意見を伺う場は一区切りとします。いただいたご意見は記録し、それぞれについて対応の方針を整理したうえで、○月の審議会に報告します。その内容は○月○日から縦覧します」
この形であれば、意見を打ち切るのではなく、次の手続きに送ることを示せます。「もう聞かない」ではなく「ここから先はこう扱う」という伝え方です。
ただし、要綱や開催要件の範囲内で運用してください。回数や方法が定められている場合、それを下回ることはできません。
議会・上層部への説明
住民への説明とは、必要なものが違います。求められるのは比較と、不確実性の明示です。
代替案と比べる
「なぜこの手法なのか」に答えるには、他の手法と比べて示すしかありません。
- 用途地域の変更で対応した場合、目標は達成できるか。どれだけ時間がかかるか
- 地区計画で対応した場合はどうか
- 個別の建替えに委ねた場合、何年かかるか
- それぞれのリスクは何か
比較なしに一案だけを示すと、「本当にこれが最適なのか」という問いに答えられません。
不確実性を明示する
「補助金で事業費の○割が賄えます」と断定してしまうと、採択されなかったときに説明できなくなります。
正確には、「要件を満たせば対象となる補助メニューがあり、採択されれば○割程度が見込まれます。採否は当該年度の運用によります」です。
不確実性を隠さずに示すほうが、結果的に信頼されます。想定どおりにならなかったときにも、説明が成り立ちます。
手続きの記録を添える
「手続きに瑕疵はないか」「公平性は保たれたか」は必ず問われます。説明会の開催日、参加者数、出された意見の類型、行政の対応。これを一覧にして添えてください。
この記録が、最も強い説明材料になります。熱意を語るより効きます。
一人で抱えない
すべての法的判断を担当者一人が負う必要はありません。次のような相談先を、事前に確保しておいてください。
- 庁内の法務担当、顧問弁護士
- 都道府県の担当課、国土交通省の技術的助言
- 審査会の裁決例、同種事案の先行事例
- 外部の専門家、コンサルタント
相談した記録も残してください。「専門家に確認したうえで判断した」という事実が、後の説明で効きます。
- 根拠法の名称を正確に確認した都市再開発法。「市街地再開発法」ではない
- 説明会の冒頭で、その場の位置づけを示した何を決め、何を決めないか
- 法令・条例が定める手続きの要件を確認した回数・期間・周知方法
- 縦覧の期間と場所を確保した
- 意見書の提出期間と受付方法を明示した
- 反対意見を含め、すべての意見をその場で記録した
- 採用しなかった意見について、理由を示せる状態にした
- 権利関係を初期に調査した借家権・地役権・慣行・法定外公共物・未登記相続
- 感情の表明と論点の指摘を、分けて受け止め記録した
- 会議の締め方を、次の手続きに送る形にした
- (議会・上層部)代替案との比較を示した
- (議会・上層部)補助金・起債の不確実性を明示した断定しない
- (議会・上層部)手続きの履行記録を一覧で添えた
- 法務・専門家への相談記録を残した
まとめ
- 根拠法は都市再開発法。「市街地再開発法」という法律はない。
- 「合意」の意味は立場ごとに違う。会議の冒頭で、その場の位置づけを示す。
- 計画の中身がよくても、手続きに瑕疵があれば決定が取り消されうる。反対意見こそ記録する。
- 法にできるのは権利の処理と手続きの適法性まで。「法で決まっているから」は逆効果。
- 議会・上層部には、代替案との比較と、不確実性の明示で説明する。
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