CHIOU / 株式会社地央

カーフリーと駐車場 ── 地方都市で検討できること

この記事の要点
  • 地方都市では、車を減らす前に置き場をどうするかが現実の論点
  • 駐車場は附置義務で決まる。条例なので市町村ごとに違う
  • 集約と配置の適正化を扱う制度が用意されている
  • 「歩ける」ことと「車が要らない」ことは別のこと

海外の都市が中心部から車を締め出した、という話をよく聞きます。では、熊本で同じことができるか。

前提が違います。公共交通の密度も、日常の移動距離も、暮らし方も違う。

この記事では、地方都市で実際に検討できることを整理します。

前提の違いを、まず押さえる

海外事例をそのまま持ち込めない
大都市・欧州の中心市街地 地方都市
公共交通 高頻度で、面的に整備 路線と本数が限られる
日常の移動 徒歩と公共交通で完結する 車がなければ成り立たない地域が多い
商業 中心部に集積 郊外に分散
駐車場 もともと少ない 店舗に付いているのが当然

「車を制限すれば賑わう」という因果は、そのままでは成り立ちません。

地方都市で車を締め出せば、郊外の店舗に流れるだけということが起こりえます。

実際に検討すべきなのは、車を否定することではなく、車の扱い方を変えることです。

駐車場は、条例で決まっている

附置義務という仕組み

一定規模以上の建築物を建てる際、駐車場を設けることが条例で義務づけられていることがあります。

内容
根拠 駐車場法に基づく市町村の条例
対象 駐車場整備地区、商業地域、近隣商業地域など
台数 用途と床面積に応じて算定される
内容 市町村によって大きく異なる

この義務が、建物の計画を左右します。

  • 台数を確保するために、建てられる床面積が実質的に制限される
  • 1階を駐車場にせざるを得ず、街路に面する部分が壁になる
  • 建設費が増える
  • 敷地が狭いと、そもそも計画が成り立たない

まちの見え方も、ここで決まります。

中心部の道沿いに駐車場や壁が続くのは、多くの場合この義務の帰結です。

台数は、実態と合っているか

附置義務の基準は、車の利用が増える時代に作られたものが残っていることがあります。

  • 実際の利用率が低く、空いたまま維持されている
  • 維持管理の費用がかかる
  • その分、賃料や価格に転嫁される
  • 使われない空間が街路に面している

実態に合わせて見直す動きがあります。その市町村の条例と、改正の状況を確認してください。

集約と配置の適正化

一台ずつ設けなくてもよい

附置義務には、敷地内に設けなくてもよい仕組みが用意されていることがあります。

方法 内容
隔地 一定の距離内の別の場所に設ける
集約 複数の建物で共同の駐車場を使う
緩和 公共交通の利便が高い区域での台数の低減

さらに、都市再生特別措置法には駐車場の配置を適正化するための区域を定める仕組みがあります。

立地適正化計画に位置づけ、駐車場の出入口の設置を制限し、集約された施設へ誘導するという考え方です。

歩行者が多い通りに、車の出入口が並ばないようにする。これが目的です。

運用は市町村ごとに違う

駐車場に関する制度は、その多くが市町村の条例と運用に委ねられています。

  • 附置義務の有無と、対象区域
  • 台数の算定方法
  • 隔地・集約が認められる条件
  • 緩和の要件
  • 駐輪場の附置義務

他の市の例は参考になりません。

計画の初期段階で、その市町村の担当課に条例を確認してください。

台数が確保できずに計画が成り立たないと分かるのは、設計が進んでからでは遅すぎます。

「歩ける」と「車が要らない」は違う

同じ言葉で語らない
意味すること
歩ける その場所の中を、快適に歩いて回れる
車が要らない 日常生活のすべてが、車なしで完結する

地方都市で現実的なのは、前者です。

  • 車で来て、駐車場に停め、そこから歩いて回る
  • 拠点の中は歩行者中心、拠点への移動は車
  • 集約された駐車場を、まちの入口として位置づける

「車を排除する」ではなく、「車をどこで降りてもらうか」を設計する。

この整理をしないまま議論すると、沿道の事業者からの反発だけが残ります。

不動産価値との関係

上がるとは限らない

「歩行者空間化すれば不動産価値が上がる」という説明を見かけます。

断定できません。

上がる方向に働く要因 下がる方向に働く要因
滞在時間が延びる 車で来られなくなる
歩行者が増える 荷捌きができない
環境が改善する 用途が限られる
話題性 工事期間中の売上減

どちらに転ぶかは、その場所の商圏と、代替の駐車場の有無で決まります。

また、賑わいが生まれても、それが地価に反映されるまでには時間がかかります。

顧客への説明では、「こういう計画がある」という事実にとどめてください。

将来の価格を示唆する説明は、宅地建物取引業者として避けるべきものです。

物件調査で見るところ

確認するもの 影響
附置義務の有無と台数 建てられる規模を左右する
駐車場整備地区 指定の有無
隔地・集約の可否 敷地内に確保できない場合の道
駐車場の出入口の制限 設けられる位置
歩行者専用道路の指定 車両の通行が制限される
時間帯規制 荷捌き、来客の車
乗入れ(切下げ) 道路管理者の許可
再配分の計画 将来、車道が狭くなる可能性
用途によって、意味が逆になる

同じ「車が入りにくい場所」でも、用途によって評価が変わります。

用途 影響
住宅 静かで安全。ただし駐車場は要る
飲食・物販 歩行者が多ければ有利
郊外型店舗 成り立たない
事務所 来客と駐車の条件による
倉庫・工場 搬入経路が確保できなければ不可

「歩きやすい」を一律に長所として説明しないでください。

事業を検討するとき

  1. 附置義務の台数を、条例で確認する
  2. 敷地内に確保できるか検討する
  3. できなければ、隔地・集約・緩和の可否を確認する
  4. 出入口を設けられる位置を確認する
  5. 荷捌きの経路を確保する
  6. 周辺の駐車場の状況を調べる
  7. 将来の道路の計画を確認する

駐車場の条件で計画が変わることは珍しくありません。

設計に入る前に、担当課で確認してください。

駐車場と交通に関する確認
  • その市町村の附置義務条例を確認した
  • 対象区域に該当するか確認した
  • 必要台数を算定した
  • 敷地内に確保できるか検討した
  • 隔地・集約・緩和の可否を確認した
  • 駐車場の出入口の位置の制限を確認した
  • 乗入れの許可の見通しを確認した
  • 荷捌きの経路を確保した
  • 歩行者専用道路・時間帯規制を確認した
  • 周辺の駐車場の状況を調べた
  • 道路の再配分の計画を確認した
  • 用途に照らして、有利か不利かを判断した
  • 将来の地価について断定していない

まとめ

  • 地方都市では、車を減らす前に置き場をどうするかが現実の論点。
  • 駐車場の附置義務は条例。市町村ごとに違い、計画を左右する。
  • 隔地・集約・緩和という道がある。配置を適正化する制度もある。
  • 「歩ける」と「車が要らない」は別のこと。混ぜて議論しない。
  • 歩行者空間化が価値を上げるとは限らない。用途によって逆に働く。
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