持ち家と賃貸 ── 迷ったときの判断基準

この記事の要点
  • 「どちらが得か」に一般的な答えはない。前提が違えば結論が変わる
  • 比べるなら同じ土俵で数える。賃貸だけ総額を出すのは公平でない
  • 数字にならない違いがある。賃貸は出ていける、持ち家は出ていけないことがある
  • 持ち家を検討するなら、売るときのことを買う前に確認する

「持ち家と賃貸、どちらが得ですか」。よく聞かれる問いですが、一般的な答えはありません。

収入の安定性、転勤の可能性、家族構成の見通し、住む地域、金利の水準。前提が変われば結論が変わります。「持ち家が有利」「賃貸が有利」と断定する説明は、どこかの前提を固定しています。

この記事では、どちらかを勧めることはしません。自分の場合はどうかを考えるための、比べ方の枠組みを整理します。

比較がゆがむ、よくある型

片方だけ総額を出す

「家賃10万円の物件に30年住むと3,600万円。何も残りません」という説明を見かけます。

これは賃貸側だけの総額です。持ち家側にも、ローンの利息、固定資産税・都市計画税、修繕費、火災保険料、購入時の諸費用がかかります。

片方だけを積み上げて比べれば、そちらが高く見えるのは当然です。比べるなら、両方を同じ項目で数えてください。

もう一つ ── 「残る」の中身

持ち家は資産として残ります。ただし残るのは「その物件」であって、現金ではありません。

現金にするには売る必要があり、そのときいくらで売れるかは、買った時点では分かりません。建物は年数とともに価値が下がり、土地の価値はその地域の状況によります。

同じ土俵で数える

比べるときは、この項目を両方について出してください。

持ち家 賃貸
入居時 頭金、登記費用、不動産取得税、仲介手数料、火災保険料 敷金、礼金、仲介手数料、火災保険料
毎月 ローン返済(元金+利息)、(区分所有なら)管理費・修繕積立金 家賃、共益費
毎年 固定資産税、都市計画税
不定期 修繕費(屋根・外壁・給湯器・給排水管など) 更新料(地域による)、住み替え時の費用
退去・売却時 仲介手数料、譲渡所得への課税、(未確定なら)測量費 原状回復のうち借主負担分
最後に残るもの 物件。売却価格は不確定 なし
前提を三つ置いてから計算する

計算するときは、次を先に決めてください。ここを変えると結果が変わります。

  • 何年で比べるか 10年か、30年か、終の住まいとするか
  • 金利の想定 変動なら、上がった場合でも試算する
  • 売却価格の想定 分からないので、複数の想定で見る

一つの前提で出した数字を「答え」として扱わないでください。前提を変えて何通りか出し、どの前提なら逆転するかを見るほうが、判断の役に立ちます。

数字にならない違い

持ち家 賃貸
住み替え 売るか貸すかが必要。時間がかかる 契約の範囲で移れる
手を入れる自由 ある 制約がある
設備の故障 自分の負担 原則として貸主の負担(借主の過失による場合を除く)
近隣との関係 長く続く 合わなければ移れる
災害で損傷したとき 自分で修繕。ローンは残る 契約の扱いによる
高齢期 住み続けられる。ただし段差・階段・広さの問題が出る 新規の契約が難しくなる場合がある

最後の行は、両方に課題があります。持ち家は住み続けられますが、体力が落ちたときに二階建ての家が負担になることがあります。賃貸は移れますが、高齢になってからの新規契約に苦労する場合があります。

持ち家は「出ていけない」ことがある

売れなければ、動けない

賃貸は、契約の範囲で出ていけます。持ち家は、売れなければ動けません。

転勤、転職、家族構成の変化、介護。住まいを変える必要は、予定していなくても生じます。

そのとき、住宅ローンが残っていて、売却価格が残債を下回っていれば、差額を用意しなければ売れません。貸すという選択もありますが、住宅ローンのままでは原則として賃貸に出せません。金融機関への相談が必要です。

売りにくくなる条件は、買う前に分かる

売れるかどうかは、その土地と建物の条件でほぼ決まります。そして、その条件は買う前に確認できます。

条件 売却時に効くこと
接道が足りない 再建築できない。買い手に融資が付きにくい
市街化調整区域 建築に許可が要る。買い手が限られる
境界が未確定 確定測量が必要。数か月と費用がかかる
越境がある 是正または覚書が必要。相手が応じなければ進まない
私道に面している 掘削承諾の有無を確認される
災害の警戒区域内 説明事項になる。価格に影響しうる
建物が既存不適格 建て替え時に同じ規模で建てられない場合がある

これらは、その土地を買った時点で決まってしまい、後から変えられません。「安く買えた」理由が、そのまま「売れない」理由になることがあります。

判断が変わる場面

どちらが向くかは、次の要素で変わります。

要素 考えること
転居の可能性 転勤、転職、実家の事情。頻度が高いほど、動けることの価値が上がる
収入の安定性 返済は収入が下がっても続く
家族構成の見通し 必要な広さが変わる時期がある
住む地域 賃貸の供給が乏しい地域では、選択肢が限られる
手元の資金 頭金を出した後、生活の予備費が残るか
相続の見通し 将来住む家が別にあるか
地域によって前提が違う

大都市圏と地方では、条件が異なります。

賃貸の供給が少ない地域では、希望する広さや設備の物件が見つかりにくいことがあります。家族向けの賃貸が乏しく、持ち家が現実的な選択になる場合があります。

一方、人口が減っている地域では、将来の売却が難しくなる可能性があります。持ち家を「いつでも売れる資産」として考えないほうが安全です。

お住まいの地域の状況は、地元の事情に詳しい方に聞いてみてください。

「家賃を払い続けるのはもったいない」について

よく言われる表現ですが、賃貸で払っているのは「住む」という役務への対価です。持ち家でも、ローンの利息、固定資産税、修繕費は、資産として残らない支出です。

「もったいない」かどうかは、両方の残らない支出を比べてから判断してください。

また、賃貸には身軽さという価値があります。それを不要と考えるか、必要と考えるかは、その人の状況によります。数字だけの問題ではありません。

持ち家を検討するなら、買う前に確認すること

物件について

  • 接道の状況 建築基準法上の道路に、2メートル以上接しているか
  • 用途地域と区域区分 市街化調整区域でないか
  • 境界の確定状況 地積測量図、筆界確認書があるか
  • 越境の有無 塀、庇、樹木、給排水管
  • 私道の場合 通行・掘削の承諾があるか
  • ハザードマップ 浸水、土砂災害、液状化
  • (中古)建築確認・検査済証 適法に建てられているか

お金について

  • 購入時の諸費用を含めた総額
  • 不動産取得税の分を手元に残す
  • 金利が上がった場合の返済額
  • 修繕を年あたりの積立額として見込む
  • 収入が下がった場合に返済が続けられるか

その先について

  • 転居が必要になったとき、売るのか貸すのか
  • ローンが残っている場合、賃貸に出せるか(金融機関に確認)
  • 相続のときに、誰がどう引き継ぐか

相談先を分ける

分野 相談先
資金計画・家計全体 金融機関、ファイナンシャル・プランナー
融資 金融機関
物件の取引 宅地建物取引業者
境界・測量 土地家屋調査士
税務 税理士

一つの窓口ですべてを判断しないでください。物件を売る立場の説明と、資金計画の説明と、税務の判断は、それぞれ別の専門です。

比べるときのチェックリスト
  • 両方を同じ項目で数えた片方だけ総額を出していない
  • 比較する年数を決めた
  • 金利が上がった場合でも試算した
  • 売却価格を複数の想定で見た一つの前提を「答え」にしない
  • 持ち家側に修繕費を織り込んだ
  • 持ち家側に固定資産税・都市計画税を織り込んだ
  • 転居が必要になる可能性を考えた
  • (持ち家)接道の状況を確認した
  • (持ち家)区域区分・用途地域を確認した
  • (持ち家)境界の確定状況を確認した
  • (持ち家)越境の有無を確認した
  • (持ち家)ハザードマップを確認した
  • (持ち家)ローンが残る間、賃貸に出せるか金融機関に確認した
  • 頭金を出した後、生活の予備費が残るか確認した
  • 相談先を分野ごとに分けた

まとめ

  • 「どちらが得か」に一般的な答えはない。前提が変われば結論が変わる。
  • 比べるなら両方を同じ項目で数える。片方だけ総額を出す比較はゆがむ。
  • 賃貸は出ていける。持ち家は、売れなければ動けない。
  • 売りにくくなる条件は、買う前に確認できる。接道・区域・境界・越境。
  • 数字だけの問題ではない。身軽さの価値をどう見るかは、その人の状況による。
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