水質汚濁防止法 ── 土壌汚染対策法と、どう違うか
- 水濁法が規制するのは排出する側。土地の調査を義務づける法律ではない
- 土地の汚染調査は土壌汚染対策法の役割。混同しない
- ただし特定施設の設置があれば、その土地は要注意
- 過去の用途を調べる出発点として、届出の有無が使える
「工場跡地だから、水濁法で調査が必要」──この理解は正確ではありません。
水質汚濁防止法は、工場や事業場から水を出す側を規制する法律です。土地を買う人に調査を求めるものではありません。
この記事では、二つの法律の役割を分け、実務でどう使うかを整理します。
何を規制する法律か
| 内容 | |
|---|---|
| 対象 | 特定施設を設置する工場・事業場 |
| 規制するもの | 公共用水域への排出、地下への浸透 |
| 義務 | 届出、排水基準の遵守、測定と記録 |
| 誰が | その施設を設置・使用する事業者 |
土地の所有者や買主に、調査を義務づける規定ではありません。
混同されやすいのは、「汚染」という結果が同じだからです。しかし法律の働く場面が違います。
特定施設とは
政令で定められた施設で、汚水や廃液を排出するおそれのあるものです。
- 製造業の各種装置
- めっき、洗浄、塗装の設備
- クリーニング業の洗濯機
- 畜産、水産食品製造
- し尿処理施設
- 自動車整備業の洗車施設
「工場」でなくても該当します。小さなクリーニング店や整備工場も対象です。
土壌汚染対策法との違い
| 水質汚濁防止法 | 土壌汚染対策法 | |
|---|---|---|
| 規制の対象 | 排出する行為 | 汚染された土地 |
| 誰の義務 | 施設を使う事業者 | 土地の所有者等 |
| 調査の義務 | 排水の測定 | 土壌の調査 |
| きっかけ | 施設の設置・変更 | 施設の廃止、一定規模の形質変更、健康被害のおそれ |
| 区域の指定 | なし | 要措置区域・形質変更時要届出区域 |
不動産取引で直接効いてくるのは、土壌汚染対策法のほうです。
区域に指定されていれば、重要事項説明の対象となり、形質の変更に届出が要ります。
ただし、無関係ではない
水濁法の届出は、その土地の過去を知る手がかりになります。
- 特定施設の設置届が出ていれば、そこで有害物質を扱っていた可能性がある
- 有害物質使用特定施設の廃止は、土壌汚染対策法の調査契機になりうる
- 地下浸透の禁止に違反していれば、汚染が生じている可能性
つまり、水濁法は「規制」としてではなく「情報源」として使います。
調査での使い方
| 調べること | どこで | |
|---|---|---|
| 一 | 特定施設の届出があるか | 都道府県・政令市の担当課 |
| 二 | 有害物質使用特定施設だったか | 同上 |
| 三 | 廃止の届出と、その後の扱い | 同上 |
| 四 | 土壌汚染対策法の区域指定 | 都道府県等の台帳 |
| 五 | 過去の土地利用 | 古地図、住宅地図、航空写真 |
| 六 | 登記の履歴 | 法務局 |
届出の情報は、自治体によって開示の範囲と手続きが異なります。
- 窓口で閲覧できる場合
- 情報公開請求が要る場合
- 事業者の同意を求められる場合
時間がかかることがあるので、取引の工程に織り込んでください。
また、届出がないことが「汚染がない」ことを意味するわけではありません。届出の制度ができる前の操業は記録に残っていません。
汚染が疑われる土地の履歴
| 過去の用途 | 懸念される物質 |
|---|---|
| めっき工場 | 重金属、シアン |
| クリーニング店 | 有機塩素系溶剤 |
| ガソリンスタンド | 油、ベンゼン |
| 印刷、塗装 | 有機溶剤 |
| 金属加工 | 油、重金属 |
| 農地 | 農薬に由来する成分 |
| 埋立地 | 埋立材の由来が不明なことがある |
古地図と航空写真で、いつ何があったかを追ってください。
クリーニング店は見落とされがちです。小規模でも溶剤を扱っており、地下に浸透した例があります。
実際に調べるとき
| 段階 | 内容 |
|---|---|
| 資料等調査 | 登記、古地図、航空写真、届出、聞き取り |
| 概況調査 | 表層の土壌を採取して分析 |
| 詳細調査 | 深さ方向、地下水を含めた調査 |
| 対策 | 除去、封じ込め、覆土など |
いきなり分析を依頼するのではなく、資料調査から始めます。
資料の段階で疑いがなければ、それ以上の費用をかけずに済みます。
疑いが出たときの費用は、調査の範囲と対策の方法で大きく変わります。数値の目安は示せません。専門の調査会社に見積りを取ってください。
誰が負担するか
調査と対策の費用を誰が負うかは、契約で決めます。
- 売主が調査してから引き渡す
- 買主が調査し、結果により解除できる特約を付ける
- 汚染が判明した場合の負担の上限を定める
- 対策の水準を明確にする 除去まで求めるのか、封じ込めでよいのか
「汚染があれば売主負担」とだけ書くと、額が青天井になります。
説明の仕方
| 避けるべき言い方 | 適切な言い方 |
|---|---|
| 「水濁法の調査が必要です」 | 「土壌汚染対策法の区域指定を確認します」 |
| 「届出がないので安全です」 | 「届出は確認できませんでした。制度以前の操業は記録に残りません」 |
| 「汚染はありません」 | 「資料調査の範囲では確認されませんでした」 |
| 「調査すれば分かります」 | 「調査の範囲と深さによって、分かることが変わります」 |
「ない」ことの証明はできません。
調べた範囲と方法を示し、その外側については分からないと伝えてください。
事業者側の義務
建物を貸す・使う側として、特定施設を設置する場合の義務も押さえておきます。
| 内容 | |
|---|---|
| 設置の届出 | 着工前に届け出る |
| 変更・廃止の届出 | 構造や使用方法を変えるとき |
| 承継の届出 | 譲渡・相続で事業者が変わるとき |
| 排水基準 | 遵守義務。違反には罰則 |
| 測定と記録 | 一定期間の保存 |
| 地下浸透の禁止 | 有害物質を含む水を地下に浸透させない |
| 事故時の措置 | 応急措置と届出 |
テナントが特定施設を設置する場合、貸主も届出の状況を把握しておくべきです。
退去後に汚染が判明すれば、土地の所有者が対応を求められる可能性があります。
- 水濁法と土壌汚染対策法の役割を分けて理解した
- 土壌汚染対策法の区域指定を確認した
- 特定施設の届出の有無を確認した
- 有害物質使用特定施設だったかを確認した
- 古地図・航空写真で過去の用途を追った
- クリーニング店・整備工場を見落としていない
- 登記の履歴を確認した
- 届出の閲覧に要する時間を工程に入れた
- 「届出がない=汚染がない」ではないことを踏まえた
- 調査は資料段階から始めた
- (契約)調査・対策の費用負担を定めた
- (契約)対策の水準と上限を明確にした
- (貸主)テナントの特定施設の届出を把握した
まとめ
- 水濁法は排出する側を規制する。土地の調査を義務づける法律ではない。
- 土地の汚染調査は土壌汚染対策法。区域指定は重要事項説明の対象。
- 水濁法の届出は、土地の過去を知る情報源として使える。
- 届出がないことは、汚染がないことを意味しない。
- 「ない」ことの証明はできない。調べた範囲と方法を示す。
不動産事業者、専門職団体の皆様向けにお引き受けしています。二つの法律の切り分けと、調査の順序をお話しします。
構成のご提案とお見積りまで、費用はかかりません。
