近隣説明 ── いつ、誰に、何を説明するか
- 近隣説明は自治体の条例・要綱で求められるもの。都市計画法の条文に直接の定めはない
- 説明の範囲(隣接何メートルまで)と時期は、自治体ごとに決まっている
- 同意を得ることが許可の要件ではない。求められるのは「説明したこと」
- 説明の順序を間違えると、後から止まる。工事の直前が最も危ない
開発の案件が止まるとき、法令や技術基準でつまずくことは、実はそれほど多くありません。止まるのは、たいてい人のところです。
近隣説明は、法律の条文には直接書かれていません。それでも実務では避けて通れない手続きになっています。
根拠はどこにあるか
都市計画法には、開発行為について近隣に説明せよという規定はありません。多くの自治体が、条例や指導要綱で独自に定めています。
そのため、次のことが自治体ごとに違います。
- 説明が必要になる規模(面積・高さ・用途)
- 説明すべき範囲(隣接地のみか、一定距離内か)
- 時期(申請前か、申請と同時か)
- 提出する報告書の様式
「前の案件ではこうだった」が通じない部分です。管轄する自治体の要綱を、その都度確かめてください。
誰に説明するか
| 相手 | 考え方 |
|---|---|
| 隣接地の所有者 | もっとも基本。登記記録で所有者を確かめる |
| 隣接地の居住者 | 所有者と居住者が違うことがある。賃借人にも説明が要る場合がある |
| 一定距離内の関係者 | 要綱で範囲が定められていることが多い |
| 自治会・町内会 | 要綱に定めがなくても、実務上は先に話を通しておく |
| 水利関係者 | 排水の放流先に関わる場合。土地改良区・水利組合 |
登記記録で所有者を調べて回ったが、実際に住んでいるのは別の方だった。これは頻繁に起こります。
相続が済んでいない土地では、登記名義人が既に亡くなっていることもあります。現地で表札を確かめ、必要なら両方に説明します。
何を説明するか
相手が知りたいのは、法令の適合性ではありません。自分の生活がどう変わるかです。
- 何ができるのか ── 用途、戸数や規模、いつごろ完成するか
- 工事はどうなるのか ── 期間、時間帯、工事車両の経路、騒音と振動
- 雨水はどこへ流れるのか ── これがいちばん多い質問です
- 日照、通風、プライバシー
- 完成後の交通量
- 連絡先 ── 何かあったときに誰に言えばよいか
設計図をそのまま持って行っても、伝わりません。配置が分かる簡単な図と、工事の日程表のほうが、はるかに役に立ちます。
とくに排水は、「いまここに流れている水が、工事後はこう流れます」という一枚を用意しておくと、話が早く終わります。近隣の心配のかなりの部分は、水のことです。
同意は要件ではない
誤解が多いところです。近隣全員の同意を得ることは、開発許可の要件ではありません。
要綱が求めているのは、多くの場合「説明を行い、その経過を報告すること」です。反対があったとしても、説明を尽くしたことが記録されていれば、手続きは進みます。
ただし——これは実務の話ですが——反対を抱えたまま着工すると、工事中に止まります。要件かどうかと、進むかどうかは別の問題です。
順序を間違えない
近隣説明でいちばん多い失敗は、遅すぎることです。
| 時期 | 起きること |
|---|---|
| 計画の初期 | 要望を設計に取り込める。最も安く済む |
| 設計が固まった後 | 変更には図面の引き直しが要る |
| 許可を得た後 | 変更許可が必要になる |
| 着工直前 | 止まる。工事の日程と資金計画が崩れる |
「許可が下りてから説明すればよい」という進め方は、説明ではなく通告になります。相手にはそう受け取られます。
説明の記録
報告書の様式は自治体が定めていますが、それとは別に、自分たちの記録として次を残します。
- 訪問した日時と、対応された方
- 説明した内容と、渡した資料
- 出された質問・要望と、それにどう答えたか
- 不在だった場合の投函記録と、再訪の予定
- 約束したこと(工事時間、車両経路など)
約束したことは、施工会社に必ず引き継ぎます。説明した人と工事をする人が違うために、話が違うと言われる——これが最も多いこじれ方です。
こじれたときの考え方
反対の理由は、たいてい一つではありません。法令で対応できるもの、設計で対応できるもの、対応できないものを分けて整理します。
- 設計で対応できる ── 塀の高さ、窓の位置、駐車場の出入口、工事車両の経路
- 説明で解ける ── 排水の経路、工期、完成後の管理
- 対応できない ── 開発そのものへの反対、地価への懸念
全部を一緒に扱うと、動かせるものまで動かなくなります。分けて、動かせるところから応じる。それが結果として早い道です。
- 管轄する自治体の条例・要綱で、範囲と時期を確かめた
- 隣接地の所有者を登記記録で確かめた
- 所有者と居住者が違う土地がないか、現地で確かめた
- 自治会・町内会の窓口を確かめた
- 排水の放流先に関わる水利関係者を特定した
- 「水がどう流れるか」の一枚を用意した
- 工事の期間・時間帯・車両経路を決めた
- 連絡先(工事中の窓口)を明示した
- 設計が固まる前に説明に入った
- 訪問の記録と、約束したことを書面にした
- 約束したことを施工会社に引き継いだ
工事中の窓口をつくる
説明会が終われば近隣対応が終わる、というものではありません。本番は工事が始まってからです。
- 現場の掲示 ── 工事名、期間、施工者、そして連絡先の電話番号
- 受けた連絡の記録 ── 日時、相手、内容、対応。様式は簡単なもので構いません
- 誰が出るかの取り決め ── 事業者か、現場代理人か。たらい回しが、いちばん心証を悪くします
- 工程が変わったときの周知 ── 期間が延びる、時間帯が変わる、大型車が入る日
苦情の多くは、内容そのものより「言っても誰も出ない」ことで大きくなります。出る人が決まっていれば、たいていは収まります。
説明した人と、工事をする人が違う
近隣説明をするのは、たいてい事業者や設計側です。実際に工事をするのは施工会社です。
「朝は8時30分から」「大型車はこの道を通らない」「土曜は休む」——説明の場で交わした約束が施工会社に伝わっていないと、最初の一週間で信頼が壊れます。
約束したことを箇条書きにして、着工前の打合せで施工会社に渡す。そして、その紙を現場事務所に貼っておく。これだけで、かなりの部分が防げます。
完成後の報告
工事が終わったら、説明した相手にひと言伝えます。これをしている事業者は多くありません。
- 工事が終わったこと
- 約束したことが守られたか(守れなかったなら、その説明)
- 完成後の管理の窓口
次の案件で同じ地域に入るとき、この一手間が効いてきます。地域での仕事は、続くものです。
説明が要らない案件でも
要綱の規模に達しないため、近隣説明が義務づけられていない案件もあります。それでも、隣接地には声をかけておくほうがよいと考えています。
理由は単純で、工事の音と車は、規模に関係なく出るからです。要綱に書いていないことと、近隣が気にしないことは、別の話です。
一戸建て一棟の造成でも、隣に一枚の案内を入れておく。手間としては小さく、効果としては小さくありません。
まとめ
- 近隣説明の根拠は自治体の条例・要綱にあり、範囲も時期も自治体ごとに違う
- 説明すべき相手は所有者だけではない。居住者・自治会・水利関係者も含む
- 近隣が知りたいのは法令の適合性ではなく、生活がどう変わるか。とくに水
- 全員の同意は要件ではないが、反対を抱えたまま着工すると工事中に止まる
- 設計が固まる前に説明に入り、約束したことは施工会社まで引き継ぐ
