事前相談と事前協議 ── 何を、どの順に持ち込むか
- 事前相談は方向を確かめる場、事前協議は条件を詰める場。持っていくものが違う
- 最初から作り込んだ図面を持ち込むと、直す量が増える
- 協議は相手ごとに窓口が分かれる。並行して回すのが原則
- 口頭の回答は、日付と担当課とともに記録に残す
開発許可の実務で、いちばん時間を使うのは申請書の作成ではありません。その手前の協議です。
ここで方向を間違えると、あとの全部がやり直しになります。逆にここが整えば、申請から許可までは比較的読める区間です。
事前相談と事前協議は、別のもの
| 事前相談 | 事前協議 | |
|---|---|---|
| 目的 | 進めてよい方向かを確かめる | 条件を詰める |
| 相手 | 主に開発許可の担当課 | 担当課+関係各課・公共施設の管理者 |
| 持ち物 | 公図・住宅地図・現況写真・やりたいこと | 区域図・土地利用計画図・排水計画の案 |
| 結論 | 要否と、立地の説明の筋道 | 同意・協議の成立、技術基準の適合 |
設計事務所に図面を引いてもらってから相談に行く、という順序をとる方がおられます。これは逆です。
相談で確かめたいのは「この土地に、この用途で、この規模なら進めてよいか」という一点です。そこで方向が変われば、図面は捨てることになります。
持っていくのは、公図の写し、住宅地図、現況の写真、そして手描きでよいので「どこに何を置きたいか」。これで足ります。
事前相談で確かめること
- 開発許可が要るか ── 区域・規模・行為の三つ
- 市街化調整区域なら、どの号で立地を説明するか
- 農地なら、農地転用と農振除外の要否と受付時期
- 盛土規制法の規制区域内かどうか
- 災害の区域にかかっていないか
- 接道の状況と、道路の管理者
- 排水の放流先の見当
この七点が押さえられれば、進めてよいかどうかの判断ができます。逆に、どれか一つでも空白が残ったまま設計に入ると、そこが後で効いてきます。
事前協議 ── 相手ごとに窓口が分かれる
開発許可の担当課に出せば全部が回る、というものではありません。案件によりますが、次のような相手と別々に話すことになります。
- 道路管理者 ── 国道・県道・市町村道で、それぞれ別
- 水路・河川の管理者 ── 農業用水なら土地改良区が絡むこともある
- 下水道の管理者 ── 接続の可否と、放流量の制限
- 水道の担当 ── 既存管の口径で足りるか
- 消防 ── 消防水利、進入路
- 教育委員会 ── 埋蔵文化財の包蔵地にかかっていないか
- 農業委員会 ── 農地が絡む場合
- 環境の担当 ── 土壌汚染、騒音、廃棄物
順に回ると、それだけで数か月が過ぎます。並行して回すのが原則です。
とくに詰まりやすいところ
排水の放流先
雨水と汚水を、どこへ流すか。放流先が他人の土地や、農業用の水路である場合、その管理者や受益者の同意が要ります。
ここは相手の都合で動きます。灌漑期には話が進まない、総代会の日程を待つ、といったことが普通に起こります。いちばん早く着手すべき項目です。
道路の取り付け
開発区域から既存道路へどう取り付けるか。交差点からの距離、隅切り、視距といった条件が付きます。取り付け位置が変われば、区画の割り方も変わります。
埋蔵文化財
周知の埋蔵文化財包蔵地にかかっていると、着工前に届出と、場合によっては試掘・発掘調査が必要になります。調査に入ると、工程は大きく延びます。早い段階で教育委員会に照会しておくべき項目です。
記録の残し方
協議の場での回答は、口頭であることがほとんどです。担当者が替われば、説明のしかたも変わり得ます。
そのため、次の形で残しておきます。
- 日付/自治体名/課名/担当者
- 何を示して、何を聞いたか
- 回答の中身と、根拠として示された条項・基準
- 次に何をすることになったか
争うための記録ではありません。関係者が多い案件で、話が食い違わないようにするための記録です。協議記録を一枚にまとめて、設計事務所と施工会社にも共有しておくと、手戻りがはっきり減ります。
進め方の順序
- ① 権利関係の調査(登記記録・共有者・相続未登記)
- ② 事前相談(要否と立地の筋道)
- ③ 排水の放流先と、道路の取り付けの当たりをつける
- ④ 農振除外・農地転用の受付時期を確かめ、必要なら先に着手
- ⑤ 土地利用計画図の案をつくり、事前協議へ
- ⑥ 各管理者と並行して協議、32条の同意を集める
- ⑦ 設計を固め、申請
①から④までは、図面がなくても進められます。ここを先に片付けておくのが、工程を短くするいちばん確実な方法です。
- 公図・住宅地図・現況写真を用意した
- 高低差が分かるもの(断面・写真)を用意した
- 登記記録で権利関係を洗った
- 事前相談で、要否と立地の筋道を確かめた
- 協議先を、管理者ごとに一覧にした
- 排水の放流先と、その同意者を特定した
- 道路の取り付け位置の当たりをつけた
- 埋蔵文化財包蔵地にかかっていないか照会した
- 農振除外・農地転用の受付時期を確かめた
- 協議記録の様式を決め、関係者で共有した
- 設計を固める前に、同意の見通しを立てた
相談の場での、聞き方
窓口で「この土地に○○は建てられますか」と聞くと、多くの場合「調整区域なので難しいです」で終わります。質問の形が、答えの形を決めています。
聞き方を変えます。「この土地で○○をしたいのですが、どの号で説明する道がありそうでしょうか」。こう聞くと、担当者は一緒に道を探す側に回ります。
窓口の方は、制度を運用している専門家です。敵ではありません。相談の場を、可否の判定ではなく、道筋の相談にする。それだけで得られる情報の量が変わります。
複数の案を持っていく
ひとつの案だけを持ち込むと、答えは「できる」か「できない」の二択になります。二つか三つの案を並べて持っていくと、比較の話になります。
- 用途を変えた案(店舗ではなく事務所、など)
- 規模を変えた案(面積要件をまたぐかどうか)
- 区域の取り方を変えた案
- 時期を分けた案
どれかが通れば、それが答えです。全部が駄目でも、なぜ駄目なのかの理由が四つ集まります。その理由が、次の案を作る材料になります。
持ち帰る宿題を、その場で確定させる
相談は、たいてい「これを調べてきてください」で終わります。ここを曖昧にしたまま帰ると、次の相談がまた振り出しに戻ります。
- 次に何を用意するか ── 資料の名前まで具体的に
- 次はどこへ行くか ── 別の課なら、課名と担当者。「担当課に確認してください」で終わらせない
- いつまでに ── 会議の日程や受付時期があるなら、その日付
この三つをその場でメモして、復唱します。「では、次は○○を持って、△△課の□□様を訪ねればよいでしょうか」——この一言で、後の往復がひとつ減ります。
設計事務所・施工会社との分担
協議には、それぞれの持ち場があります。分担を決めずに始めると、誰も行っていない窓口が残ります。
| 協議先 | 主に担うところ |
|---|---|
| 開発許可の担当課 | 行政書士・設計事務所 |
| 道路・水路の管理者 | 設計事務所(技術的な条件)+行政書士(同意書の取りまとめ) |
| 農業委員会・農政 | 行政書士 |
| 教育委員会(埋蔵文化財) | 抜けやすい。誰が照会するか決めておく |
| 近隣説明 | 事業者+施工会社。約束事は必ず共有する |
最初の打合せで、この表を一枚作って配る。それだけで、進み方がはっきり変わります。
まとめ
- 事前相談は方向を確かめる場、事前協議は条件を詰める場である
- 相談の段階では精密な図面は要らない。作り込むほど手戻りが増える
- 協議は相手ごとに窓口が分かれるので、並行して回す
- 排水の放流先、道路の取り付け、埋蔵文化財が詰まりやすい
- 口頭の回答は、日付と担当課とともに記録に残して共有する
