つながりを「資本」に変える ── 社会的企業という、地域の解き方

地央 まちづくりの見取り図 官民連携

出典:地域の社会的企業に関する公表資料より構成

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この記事の要点

  • 行政に頼るモデルは、財政の面で維持できないところまで来ている
  • 代わりの資源として「信頼・規範・ネットワーク」を資本として扱うという考え方がある
  • 全国の事例に共通するのは、内輪の絆を、外部とつながる形へ広げている点である

「地域のつながりが大事だ」という話は、たいてい精神論で終わります。

けれども、それを資本として扱い、事業として回している地域がいくつもあります。

この記事は、五つの事例を並べて、そこに共通する設計を取り出したものです。

行政依存モデルは、もう支えられない

図1 行政依存モデルの限界タップで拡大

出発点にあるのは、率直な現状認識です。

人口減少と高齢化による財政の悪化で、従来の仕組みは維持できない。そして箱モノ中心の振興は、かえって地域の自立基盤を壊してきた。

そこで求められているのが、行政依存・ハード中心から、住民主導・ソフト(関係性)中心へという転換です。「誰かが救ってくれるのを待つ」ことからの脱却、と資料は書いています。

関係性を「資本」として扱う

図2 信頼・規範・ネットワークタップで拡大

ソーシャル・キャピタルは、三つの要素で説明されます。

信頼は、情報収集や取引にかかるコストを削り、自発的な協力を生む。規範は、共通の危機意識や互酬性(相互扶助)のルール。ネットワークは、学習や模倣を通じてイノベーションが伝わる経路になる。

大事なのはコストの話として説明されていることです。仲が良いから良い、ではない。信頼があれば相手を調べる手間が減り、契約が軽くなり、事業が速く回る。経済の言葉に翻訳できるから「資本」と呼べます。

五つの事例を並べる

変革のプレイヤーたち ── 全国の先進事例
事例(地域) 主導者 資金調達 ソーシャル・キャピタルの核
株式会社高橋工業北海道別海町 企業主導 自己資本・補助金 既存技術の転用と、課題解決への情熱
中城建設株式会社宮城県仙台市 企業主導 小口ファンド(市民出資) 地域課題への共感と投資
北海道グリーンファンド北海道札幌市 NPO主導 市民出資(ファンド) 理念(脱原発・環境)への共感
白老町・土佐山北海道/高知県 住民主導(官民協働) 一部住民負担・公的資金 地縁による強い当事者意識
芽室町・沖縄の共同店北海道/沖縄県 協同組合・集落 共同出資 歴史的な土壌と、競争・協調
図3 全国の先進事例タップで拡大

資料が挙げているのは、主導者も資金の集め方も違う五つの事例です。企業主導が二つ、NPO主導が一つ、住民主導が一つ、そして協同組合・集落が一つ。

資金は自己資本と補助金、小口ファンド、市民出資、住民負担と公的資金、共同出資。同じ「地域のつながり」でも、どこから資金を持ってくるかで形がまるで違います。

既存の技術を、別の用途に振り向ける

図4 高橋工業 ── 既存技術の転用タップで拡大

一つ目は、北海道別海町の建設会社です。酪農エリアの住環境不足と、通過型観光による経済の停滞という課題がありました。

解決に使ったのはすでに持っていた設備のノウハウでした。それを転用して移動可能なコンテナホテルを開発する。宿泊施設が確保できたことで、極寒マラソンやプロ野球独立リーグの誘致まで可能になりました。

新しい事業を外から持ってきたのではありません。手元にある技術の使い道を、地域の課題の側から定義し直した。建設会社が社会的事業の主体になる、という筋道がここにあります。

小口の資金で、共助を事業にする

図5 中城建設 ── 地域ファンドタップで拡大

二つ目は仙台の建設会社です。単なる「請負」から脱却し、まちの課題を解くファンドを通じて、福祉インフラの自律的なエコシステムを組みました。

障がい者の自立支援施設は、長期の一括借り上げによって安定収益を小口の投資家に配る。高齢者向け施設は、オーナーからの一括賃貸で利用料収入を確保する。

この事例は別の記事で詳しく扱いました。建設会社が「建てたあと」まで設計するとどうなるか、という話です。

理念を、投資に変換する

図6 北海道グリーンファンドタップで拡大

三つ目は札幌のNPOです。脱原発・自然エネルギーという理念を、寄付ではなく投資という経済行為に変換して市場を動かしました。

出発点は生協内の小さな活動、つまり結束型のつながりです。そこからNPO法人化を経て、全国規模の市民出資ネットワーク、つまり橋渡し型へ広がりました。電気料金への上乗せと、市民風車ファンドという二つの仕組みを使っています。

資料が指摘しているのは、「わかりやすさ」と「配当」が続く条件だったという点です。

住民が、設計から運営まで担う

図7 白老町・土佐山 ── 住民主導タップで拡大

四つ目は、北海道白老町と高知県土佐山です。行政主導のハコモノから離れ、住民自身が設計・出資・運営を担うことで、コストの削減と利用率の最大化を両立させています。

白老町の会館は、住民が一戸あたり数千円を負担し、休館日ゼロの自主管理ルールで運営コストを半減。土佐山では過疎への強い危機感から住民全員参加の会が発足し、外部の専門家を巻き込み、地元農産物を直売する法人を設立して経済的な基盤を確保しました。

ここは注意して読む必要があります。住民の負担と手弁当に支えられた仕組みは、担い手が高齢化すると続きません。土佐山が法人を作って収益の道を用意したのは、その先を見ていたからだと読めます。

歴史的な土壌を、経済の基盤に読み替える

図8 芽室町・沖縄 ── 相互扶助タップで拡大

五つ目は、北海道芽室町と沖縄の共同店です。歴史的に培われた「地縁」の強さを、外部への防衛と内部の競争力に転換しています。

芽室町では「競争しつつ協調する」という規範があり、農協青年部という切磋琢磨の場が維持されて、高い農業生産力と経済効果につながっている。沖縄の共同店・模合は「シマ意識」と「ユイマール」を土台に、外来資本からの搾取を防ぐため、日用品の調達から金融までを担う自律的な互助システムを作ってきました。

芽室は競争×協調で経済効果、沖縄は相互扶助×防衛で社会的な維持機能。同じ地縁でも、向いている方向が違います。

社会的効果だけでは、続かない

社会的効果と、経済的効果の相関
地域経営を続けるには、社会的なミッションを追うだけでなく、事業性の確保が欠かせない
社会的効果
住民参加、コミュニティ維持、福祉の向上
経済的効果
雇用創出、生産力の向上、投資配当
北海道グリーンファンド
中城建設
高橋工業
白老町
オーベルジュ土佐山
沖縄共同店
芽室町(農業競争力)
社会的企業
ソーシャル・エンタープライズ
経済的インパクト(低 → 高)
図9 社会的効果と経済的効果タップで拡大

五つを二つの軸で並べ直すと、はっきりすることがあります。

社会的効果は住民参加、コミュニティの維持、福祉の向上。経済的効果は雇用の創出、生産力の向上、投資配当。

住民主導の事例は社会的効果が高い一方、経済的なインパクトが小さい。逆に企業やNPOが主導する事例は、両方の軸で高い位置にいます。

地域経営を続けるには、社会的なミッションを追うだけでなく事業性の確保が要る。善意は資源ですが、燃料にはなりません。

内輪の絆を、外へ開く

図10 結束型から橋渡し型へタップで拡大

成功している事例に共通するのは、ひとつの動きです。

結束型(Bonding)は、同質的で強い結びつき。村落や生協のメンバーのような関係で、排他性に注意が要ります。橋渡し型(Bridging)は、異質な人や組織との結びつき。外部の専門家、全国の出資者、異業種。社会の潤滑油と呼ばれます。

閉じた絆をベースにしつつ、そこから外へネットワークを広げている。どちらかではなく、順序の問題だという指摘です。

資本として動かすための五つの条件

ソーシャル・キャピタルを駆動させる五つの要件
単なる「仲良しクラブ」を、地域経済を回す「資本」へと変えるための条件
自律型 地域経済
先駆性・適応
柔軟で新しいビジネスモデル
危機意識の共有
漠然とした不安を課題として定義する
キーパーソン
信頼を集めるハブ人材
仕組みづくり
参加のハードルを下げるシステム
経済的持続性
善意への依存を脱する配当・利益
ソーシャル・キャピタルの土壌
図11 五つの要件タップで拡大

単なる「仲良しクラブ」を、地域経済を回す資本へ変えるために必要なものが五つ挙げられています。

先駆性・適応(柔軟で新しいビジネスモデル)、危機意識の共有(漠然とした不安を課題として定義する)、キーパーソン(信頼を集めるハブ人材)、仕組みづくり(参加のハードルを下げるシステム)、そして経済的持続性(善意への依存を脱する配当・利益)。

この五本が揃ってはじめて、自律型の地域経済が乗る、という構図です。

社会的企業という交差点

「社会的企業」という交差点
「利益至上主義の企業」と「善意に頼る非営利組織」。
その境界が溶け合う交差空間に、地域を支える次のプレイヤーがいる
伝統的企業
非営利組織(NPO)
協同組合・地域コミュニティ
社会的企業
事業ノウハウ ── 伝統的企業から
社会的な使命 ── NPOから
地域の信頼 ── 協同組合から
社会ミッション・事業性・革新性を併せ持ち、市場収入だけでなく寄付やボランティア、連帯組織も資源にする
図12 社会的企業という交差点タップで拡大

資料が最適解として置いているのが社会的企業(ソーシャル・エンタープライズ)です。

利益至上主義の企業と、善意に頼る非営利組織。その境界が溶け合う場所に、伝統的企業から事業ノウハウを、NPOから社会的な使命を、協同組合から地域の信頼を持ち込んだプレイヤーがいる。

社会ミッション・事業性・革新性を併せ持ち、市場収入だけでなく寄付やボランティア、連帯組織も資源として使う組織です。

何から始めるか

実践に向けたアクション・ブループリント
明日から、地域や企業で何から始めるか
Step 1
共有すべき危機の発見
地域に眠る「不」を言葉にし、対話の場を設ける
Step 2
キーパーソンの発掘とハブ化
信頼関係の核となる人物を見つけ、権限を集める
Step 3
資金と想いが回るループ設計
市民ファンドや小口投資で「共感」を少額資本に変える
Step 4
外部への橋渡し
地域の外にいる専門家や異業種を巻き込み、閉鎖性を破る
図13 アクション・ブループリントタップで拡大

実践の順序も四段で示されています。

Step 1 共有すべき危機の発見。地域に眠る「不」を言葉にし、対話の場を設ける。Step 2 キーパーソンの発掘とハブ化。信頼関係の核となる人物を見つけ、権限を集める。Step 3 資金と想いが回るループの設計。市民ファンドや小口投資で「共感」を少額資本に変える。Step 4 外部への橋渡し。地域の外にいる専門家や異業種を巻き込み、閉鎖性を破る。

順序が効いています。資金の話(Step 3)より先に、危機の言語化(Step 1)と人(Step 2)が来る。補助金の公募要領から始まる事業が続かない理由も、ここにあります。

確認しておきたいこと

  • 地域の「不」は、まだ漠然とした不安のままか。課題として言葉になっているか
  • 信頼を集める人物は誰か。その人に権限が集まる形になっているか
  • 共感を資本に変える入口(小口・少額)が用意されているか
  • 内輪の絆で止まっていないか。外部の異質な相手とつながっているか
  • 善意に依存していないか。配当や利益として返るものがあるか
  • 社会的効果だけを測っていないか。経済的効果も同じ表に載せているか

まとめ

五つの事例は、規模も主体も資金の集め方もばらばらです。それでも共通していたのは、つながりを気持ちの問題として扱っていないことでした。

信頼は取引コストを下げる。規範は約束の担保になる。ネットワークは情報の経路になる。どれも経済の言葉に置き換えられる。だから資本と呼び、事業として設計できる。

そして最後に残るのは、経済的な持続性でした。続かない仕組みは、どれだけ善いことをしていても地域を支えられません。ここを避けずに書いているところに、この資料の芯があります。

本記事は、各事例に関する公表資料をもとに構成しています。事業の内容や数値は変わることがあります。個別の事例については、それぞれの実施主体の公表情報をご確認ください。

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