「適疎」というまちづくり ── 北海道東川町が、企業と組んで人口を増やしてきた方法
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この記事の要点
- 人口8千人台の町が、25年にわたって人口を増やしてきた
- 鍵は「寄付を投資に読み替える」ことと、企業を支援者ではなく共創の相手として扱う設計にある
- 目指しているのは成長ではなく「適疎」──過密でも過疎でもない状態を保つこと
人口が増えている自治体の話は、たいてい大都市の近郊です。
けれども北海道のほぼ中央に、8千人台のまま25年間人口を増やし続けている町があります。
この記事は、その仕組みを追ったものです。やっていることは、意外なほど制度の話でした。
上水道がない町が、人を集めている

東川町。人口8,588人、うち外国人が513人(2023年1月時点)。大雪山系の伏流水が豊かで、北海道で唯一、上水道を敷いていません。全戸が地下水で暮らしています。
旭川空港から約10分、羽田空港から約2時間。「地方衰退」という構造的な課題に対して、独自の考え方で成長を続けているまちです。
人口や外国人比率などの数値は時点によって動きます。引用するときは、その時点の公表値をご確認ください。
六つのDNA
町の性格は、六つの要素で説明されています。大雪山・旭岳の町、水が豊かな町、写真文化首都「写真の町」、お米の町、木工家具の町、そして適疎な町。
最後のひとつが、この町の考え方を表しています。過密でもなく過疎でもない、「適当に疎がある」豊かな状態を保つ、という意味です。
「寄付」を「投資」と読み替える
(寄付者)
価値の共創
株主にさまざまなサービスが返る
いちばん見どころのある仕組みが、ひがしかわ株主制度です。
ふるさと納税を、町を応援し共に未来を育む「投資」として位置づけ、納税者を「株主」と呼び直します。株主は写真文化、福祉人材の育成、自然保全といった投資先を自分で選べる。リターンとして特別町民の株主証が発行され、町内の指定施設に年間2泊無料で泊まれたり、株主総会に招待されたりします。
制度としては、ふるさと納税のままです。変えたのは呼び方と、関わり方の設計だけ。それでも「寄付した人」と「株主」では、その後の関係の続き方がまるで違います。関係人口という言葉が抽象的に響くとき、この事例は具体的な答えのひとつになります。
文化は、資源の使い道から生まれた

1985年の「写真の町宣言」。世界に類を見ない宣言で、自然と人、人と文化の出会いを記録し、写真映りのよいまちづくりを進めてきました。「写真甲子園」の舞台でもあります。
もうひとつの顔である「家具の町」の由来が、また面白い。伝統産業ではありません。1954年の洞爺丸台風による倒木を「無駄にしてはならない」という発想から生まれた産業です。いま町民の約40%が木工家具産業に関わっています。
災害の後始末が、七十年かけて町の看板になった。資源の使い道を決めることが、産業を決めるという順序がここにあります。
ビジョンを建物にする

2023年竣工の共生プラザ「そらいろ」は、地元産のカラマツとトドマツを使い、大雪山のシンボルである旭岳に正対して建てられています。
世界的な家具のコレクションを公有化し、デザインコンペを開き、生まれた子どもに木の椅子を贈る。町全体をデザインミュージアムとして扱うという構想です。
国内唯一の「公立」日本語学校
2015年、町立の日本語学校が創立されました。自治体が設置する日本語学校は、国内でここだけです。
アジアを中心に世界中から留学生を受け入れ、人口の約6%が外国人という構成になっています。語学教育だけでなく、文化体験や地域住民との交流を通じて、多文化共生を町のレベルで実践している。介護福祉人材の養成にも取り組んでいます。
人口8千人の町が、日本の構造的な課題に対する解を持っているという構図です。
企業を、支援者ではなく相手として扱う
だからこそ企業は「支援」ではなく「連携」として関わることができる
企業との関わりは、オフィシャルパートナー制度として設計されています。2019年から始まり、大学の研究所との共同研究で開発されました。2023年6月時点で44社と締結しています。
制度の下支えになっているのが企業版ふるさと納税です。寄付額の最大約9割が税額控除・軽減の対象になる。企業の実質負担は残りの部分だけです。
控除の割合や適用の条件は制度改正で変わります。実際の検討にあたっては、内閣府や総務省が公表するその時点の要件をご確認ください。
本業の延長として関わる
実際の連携を見ると、寄付とはずいぶん違う形をしています。
ソフトウェア企業は、社員が家族とともに滞在しながらリモートで働く。その条件として、町民向けにITリテラシーやダイバーシティの特別授業を実施します。航空会社は、アンバサダーが町で暮らすように旅をし、自社サイトで町の魅力を発信する。銀行は、日本語学校の留学生と人材交流のワークショップを協働で開く。

寄付ではなく、本業の延長として関わっている
もう一群も同じ性格です。カメラ関連の企業が写真の大会に機材を提供し、コンディショニングの会社がコーチを派遣して住民の健康づくりを担い、人材サービスの会社が留学生の就職支援と町民の雇用創出に協力する。
共通しているのは、企業が持っている力を、町の課題にそのまま当てていることです。金を出して終わりではなく、本業の延長として関わっている。だから続くし、企業の側にも取り分がある。
投資先として提示されているもの

株主や企業が選べる投資先も、具体的です。デザインミュージアムの建設、介護福祉士や保育士の育成支援、写真文化の推進。

自然の側では、温泉郷の廃墟をマイナス資産と位置づけて景勝地の復活を目指す事業、滞在型の交流施設の整備、雪を活かした次世代の育成。
「町を応援してください」ではなく、「この事業に投資してください」という提示の仕方になっています。ふるさと納税の返礼品競争とは、立っている場所が違います。
目指しているのは、成長ではない
「適当に疎がある」豊かな状態を、意図して保つ
互いの文化を理解する共生社会、人権を尊重する共和社会、生活を向上させる共栄社会。
この町が掲げているのは、人口をひたすら増やすことではありません。
過密でもなく、過疎でもない。「適当に疎がある」豊かな状態を、意図して保つ。それが「適疎」という言葉の中身です。
1985年の「写真の町宣言」から、2020年の「共に」宣言へ。互いの文化を理解する共生社会、人権を尊重する共和社会、生活を向上させる共栄社会。そのうえで、おなじ価値観を共有するパートナーとの「共創」を求めている、と町は言っています。
持ち帰れること
- 寄付を募っているのか、投資先を提示しているのか。相手からどう見えているか
- 支援してくれた企業に、本業を活かす場を用意できているか
- 返礼品ではなく、関係が続く仕掛けを持っているか
- 目指す状態を「増やす」以外の言葉で説明できるか
- 町の資源の使い道を決めることが、産業の設計になっていないか
まとめ
この事例で使われている制度は、どれも特別なものではありません。ふるさと納税も、企業版ふるさと納税も、地域活性化起業人制度も、全国どこでも使えます。
違うのは読み替え方でした。寄付を投資と呼び直し、納税者を株主と呼び直し、支援企業をパートナーと呼び直す。呼び方を変えたぶんだけ、関わり方の設計を変えている。
そして、目指す状態を「成長」ではなく「適疎」と定義したこと。どこまで増えたら十分かを先に決めている自治体は、そう多くありません。
本記事は、北海道東川町および関係企業の公表資料をもとに構成しています。制度の内容、締結企業数、人口などの数値は変わります。最新の情報は東川町の公表情報をご確認ください。
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