CHIOU / 株式会社地央

PFASと不動産取引 ── 制度の外側にある問題

この記事の要点
  • PFASは土壌汚染対策法の対象物質ではない。区域指定も調査義務もない
  • だから制度の外側で判断することになる
  • 疑われるのは泡消火剤を使った場所とその周辺
  • 基準値は動いている。数値を断定して説明しない

近くでPFASが検出された、という報道がある。その土地の取引で、何をすればよいのか。

答えにくい問いです。制度が追いついていないためです。

この記事では、いま何が決まっていて、何が決まっていないかを整理します。

制度上の位置づけ

土壌汚染対策法の対象ではない

これが、実務でいちばん重要な点です。

PFASの扱い
土壌汚染対策法の特定有害物質 含まれていない
要措置区域等の指定 対象にならない
施設廃止時の調査義務 生じない
重要事項説明の法定項目 該当しない

つまり、区域を調べても出てきません。

「土壌汚染対策法の区域指定はありません」と説明しても、PFASについては何も言っていないことになります。

一方で、水道水については暫定的な目標値が定められており、水質の監視は行われています。

製造・輸入については、化学物質の審査規制に関する法律で規制されている物質があります。

だから、どうなるか

制度で決まっていないことを、当事者が判断することになります。

  • 調べるかどうか 義務ではない
  • 調べた結果をどう評価するか 基準がない
  • 費用を誰が負うか 契約で決めるほかない
  • 説明すべきかどうか 法定項目ではないが、告知義務の問題は残る

この不確かさが、取引を難しくしています。

どこで疑われるか

泡消火剤が主な経路

日本で問題になっている事例の多くは、泡消火剤に由来します。

場所 理由
消防の訓練施設 繰り返し放出されていた
空港 航空機火災に備えた訓練と備蓄
基地 同上
石油・化学プラント 備蓄と使用
大規模な倉庫・工場 消火設備
火災のあった場所 実際に使われた

そのほか、めっき、繊維の撥水加工、紙の加工などで使われてきました。

地下水を通じて広がるため、施設の敷地内に限りません。下流側の地域が影響を受けることがあります。

調べ方の限界

  • 公的な区域指定がないので、台帳で確認できない
  • 自治体が地下水の調査結果を公表していることがある
  • 報道された事例なら、その範囲は分かる
  • 個別の土地を調べるには、任意の分析が要る
  • 分析は専門の機関に依頼する

まず、その自治体が調査結果を公表しているか確認してください。

都道府県・市町村の環境部局が、井戸水や河川の調査を行っている場合があります。

数値の扱い

基準値を断定して説明しない

PFASの基準値は、いま動いています。

  • 国内でも見直しの議論が続いている
  • 国外の基準は日本と異なり、しかも改定されている
  • 対象とする物質の範囲も広がりうる
  • 水道水と、土壌・地下水では扱いが違う

解説記事に載っている数値は、書かれた時点のものです。

顧客に説明する際、「基準は◯◯です」と断定しないでください。

示すなら、「現時点ではこう定められており、見直しが議論されています」と、出典と時期を添えてください。

最新の値は、環境省・厚生労働省の公表資料で確認してください。

取引でどう扱うか

法定項目ではないが、伝えるべき場合がある

重要事項説明の法定項目ではありません。

しかし、次の場合は伝えるべきです。

場面 理由
近隣で検出が報道されている 買主が知れば判断が変わりうる
売主から情報を得ている 知っていて告げないことになる
買主が水質を気にしている 問われれば答える
井戸水を使う予定がある 飲用に関わる
過去の用途に該当施設がある 調査を勧める根拠になる

「法定項目ではないから言わなくてよい」とはなりません。

利益を告げながら不利益を告げなければ、消費者契約法上の問題になりえます。

契約での定め方

  • 調査を行うか、行わないかを明記する
  • 行わない場合、その旨と理由を残す
  • 検出された場合の扱い 解除できるか、負担はどちらか
  • 基準がないため、「何をもって問題とするか」を定義しておく
  • 引渡し後に判明した場合の責任
「基準を超えたら」と書けない

土壌についての基準がないため、「基準値を超えた場合」という条件が書けません。

代わりに、次のような定め方が考えられます。

  • 特定の分析方法で、一定の値を超えた場合と数値を明記する
  • 公的機関が基準を定めた場合に、それに従うと定める
  • 飲用井戸を使う場合に限定して条件を付ける

いずれも、契約書の作り方の問題です。

具体的な条項は、弁護士にご確認ください。業者が独自の基準を設けて判断するのは危険です。

説明の仕方

避けるべき言い方 適切な言い方
「PFASの規制はありません」 「土壌汚染対策法の対象物質ではありません。水道水には目標値があります」
「基準値は◯◯です」 「現時点の値はこうで、見直しが議論されています」
「この土地は安全です」 「調べていません。ご希望なら分析を手配できます」
「健康に影響します」 「健康影響については研究が続いています。専門機関の情報をご確認ください」
「値下がりします」 「価格への影響は事案によります」

健康影響について、業者が断定しないでください。

評価は専門機関の領域です。不安を煽ることも、打ち消すことも、どちらも避けてください。

これから変わりうること

制度が動いている分野です。

  • 水道水の目標値の位置づけ
  • 土壌・地下水に関する取扱いの整理
  • 対象となる物質の範囲
  • 製造・使用に関する規制
  • 自治体による調査の広がり

「いま対象でないから、将来も対象にならない」とは限りません。

投資や長期保有を前提とする案件では、将来の規制強化が費用を生む可能性を伝えておいてください。

PFASに関する確認
  • 土壌汚染対策法の対象外であることを理解した
  • 自治体が地下水の調査結果を公表していないか確認した
  • 近隣での検出が報道されていないか確認した
  • 過去の用途を確認した消防訓練施設・空港・基地・化学工場
  • 売主から情報を得ていないか確認した
  • (井戸水を使う場合)水質検査を勧めた
  • 基準値を断定して説明していない
  • 健康影響について断定していない
  • (契約)調査の有無と、その理由を記録した
  • (契約)検出された場合の扱いを定めた
  • (長期保有)将来の規制強化の可能性を伝えた
  • 最新の情報を、環境省・厚生労働省で確認した

まとめ

  • PFASは土壌汚染対策法の対象物質ではない。区域を調べても出てこない。
  • 制度の外側にあるため、当事者が判断することになる。
  • 疑われるのは泡消火剤を使った場所とその下流側。
  • 基準値は動いている。数値を断定して説明しない。
  • 法定項目ではないが、知っていて告げなければ問題になりうる。
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