地価の変動率 ── 平均は、代表値ではない
- 平均は代表値ではない。上がった地点と下がった地点が相殺されている
- まず見るのは変動率ではなく、上昇・横ばい・下落の地点数
- 変動率と価格の水準は別。大きく上がっても、水準が低ければ額は小さい
- 比べるのは継続地点どうし。選定替えがあると単純に比較できない
「県平均で上昇」という数字を見たとき、その県のすべての土地が同じだけ上がったわけではありません。
大きく上がった地点と、下がった地点が混ざっています。平均は、その相殺の結果です。
この記事では、公表された数字をどう読むかを整理します。
平均は、代表値ではない
県全体の平均が上昇していても、下落している地点が三分の一を占めることがあります。
典型的な内訳です。
| 区分 | 意味 |
|---|---|
| 上昇地点 | 前年より価格が上がった |
| 横ばい地点 | 変わらない |
| 下落地点 | 前年より下がった |
この三つの内訳が公表されています。平均の数字より先に、この構成を見てください。
下落地点が多いのに平均が上昇している場合、少数の地点が大きく上げて全体を押し上げていることになります。
三つの数字を並べる
| 見るもの | 分かること |
|---|---|
| 平均変動率 | 全体の方向 |
| 上昇・横ばい・下落の地点数 | 広がりがあるか、一部に集中しているか |
| 上位・下位の地点の変動率 | ばらつきの幅 |
同じ県内で、上昇率の一位が二桁、下落率の一位がマイナスという状態は珍しくありません。二十ポイント以上の差が同時に存在します。
変動率と、価格の水準は別
変動率は前年からの変化の割合です。もとの価格が低ければ、大きな率でも金額の変化は小さくなります。
| 変動率が高い地点 | 価格が高い地点 | |
|---|---|---|
| どこ | 需要が急に増えた地域 | 中心市街地 |
| もとの水準 | 低いことが多い | 高い |
| 率 | 大きく出やすい | 小さくなりやすい |
「上昇率全国○位」という報道は、率の話です。その地点の価格が県内で高いかどうかとは、別の話です。
率と水準の両方を見てください。どちらか一方では、実態を捉えられません。
上昇率が高くなりやすい条件
- もとの価格が低い 分母が小さいと率は大きく出る
- 需要が急に発生した 工場の立地、道路の開通
- 供給が限られている 市街化区域が狭い、まとまった土地が少ない
これらが重なると、二桁の上昇率が出ます。ただし、その水準がどこまで続くかは別の問題です。
用途別に分ける
| 用途 | 反応の速さ | 動く要因 |
|---|---|---|
| 工業地 | 速い | 企業の立地、物流の需要 |
| 住宅地 | 中間 | 雇用、人口、金利 |
| 商業地 | 景気の影響を受けやすい | 消費、観光、テナント需要 |
全用途の平均だけを見ると、この違いが消えます。
工業地の上昇率が突出して高く、住宅地が緩やかで、商業地が地域によって分かれる。この形が見えて初めて、何が起きているかが読めます。
地域の階層で見る
公表される数字には、階層があります。
| 階層 | 使いどころ |
|---|---|
| 全国平均 | 大きな方向を知る |
| 圏域別 | 三大都市圏と地方圏の差 |
| 都道府県別 | 県の傾向 |
| 市町村別 | ここから実務で使える |
| 地点別 | 最も具体的。標準地・基準地ごと |
県内には、上昇が続く市町村と、下落が続く市町村が同時に存在します。
報道で取り上げられるのは、上昇率が高い地域です。それが県全体の傾向ではありません。
自分が関わる地域については、市町村別、できれば地点別まで確認してください。不動産情報ライブラリで、地図上から地点を選んで価格と推移を見られます。
継続地点で比べる
標準地・基準地は、毎年すべてが同じではありません。新たに設定される地点や、他の地点に替わる地点があります。
| 内容 | |
|---|---|
| 継続地点 | 前年と同じ地点。変動率はこれで計算する |
| 選定替え地点 | 新規または他の地点に替わったもの |
変動率は、継続地点どうしで計算されます。地点が入れ替われば、単純な比較ができないためです。
公表資料には、総地点数と継続地点数の両方が記載されています。この違いを踏まえて読んでください。
前年比の落とし穴
低い水準からの上昇
大きく下落した翌年に上昇すると、率としては大きく見えます。しかし、水準は下落前に戻っていないことがあります。
数年分の推移を見て、どの水準まで戻ったのかを確認してください。
「○年連続の上昇」
連続年数は、方向の継続を示しますが、上げ幅までは示しません。
| 読み取れること | |
|---|---|
| 連続年数 | 方向が続いている |
| 前年との比較 | 上げ幅が拡大しているか、縮小しているか |
連続して上昇していても、上げ幅が縮小していれば、勢いは鈍っています。この違いは、率の数字を並べて初めて見えます。
下落幅の縮小
「下落幅が縮小した」は、まだ下落しているという意味です。上昇に転じたわけではありません。
災害からの回復局面などで、この表現が使われます。方向と幅を分けて読んでください。
変動の理由を確認する
公表資料には、変動率が大きい地点について、その理由が記載されています。
| よくある記載 | 読み取れること |
|---|---|
| 企業の立地による需要増 | 特定の要因。その要因が続くかを考える |
| 交通の利便性 | 道路や駅の整備。持続的 |
| 住宅需要の増加 | 雇用と人口が背景にあるか |
| 人口減少・高齢化 | 構造的な要因。短期では変わらない |
| 郊外への顧客流出 | 商業地でよく見られる |
| 災害の影響 | 回復の段階を確認する |
数字だけでなく、この理由の欄を読んでください。一時的な要因か、構造的な要因かが分かります。
どこで見るか
| 資料 | 内容 |
|---|---|
| 国土交通省の公表資料 | 全国の集計、圏域別、都道府県別 |
| 都道府県の公表資料 | 市町村別、地点別。変動の理由も記載 |
| 不動産情報ライブラリ | 地図から地点を探し、過去の価格の推移を見られる |
都道府県が出す資料が、実務では最も使えます。市町村別の一覧と、変動率上位・下位の地点、その理由がまとまっています。
実務での使い方
価格の妥当性を見るとき
- 対象地に最も近い標準地・基準地を探す
- その地点の価格と、数年分の推移を確認する
- 対象地との条件の違いを整理する
- 成約価格と照らし合わせる
顧客に説明するとき
| 避けるべき言い方 | 適切な言い方 |
|---|---|
| 「熊本は地価が上がっています」 | 「この地区の直近の数字はこうです。県内でも地域差があります」 |
| 「上昇率全国○位です」 | 「上昇率は高いですが、水準は別に見る必要があります」 |
| 「○年連続で上がっています」 | 「連続していますが、上げ幅は縮小/拡大しています」 |
| 「これからも上がります」 | 「これまでの推移はこうです。今後は要因次第です」 |
地点の変動率がどれだけ高くても、対象地の個別の条件は別です。
- 接道を満たしているか 再建築できるか
- 前面道路の幅員 容積率の制限
- 形状、間口、高低差
- 境界が確定しているか、越境がないか
- 災害の警戒区域内か
地域の平均や近隣地点の変動率は、これらを反映していません。
売却するときには、買い手がこれらを確認します。地価が上がっても、条件が悪ければ売りにくいままです。
集計値を作るとき
社内の資料などで、自分で集計する場合の注意点です。
- 単純平均か、加重平均か 地点数の少ない用途は、単純平均だと振れやすい
- 地点数を併記する 少ない地点の平均は代表性が低い
- 継続地点で計算しているか
- 比較の期間をそろえる
- 出典と時点を明記する
工業地は地点数が少ないことが多く、一つの地点の動きが平均を大きく動かします。この点は特に注意が要ります。
- 平均より先に、上昇・横ばい・下落の地点数を見た
- 上位・下位の地点の変動率を確認し、ばらつきの幅を見た
- 変動率と価格の水準を、両方確認した
- 用途別に分けて見た工業地・住宅地・商業地
- 県平均ではなく、市町村別・地点別で見た
- 継続地点で比較されているか確認した
- 数年分の推移を確認した
- 連続年数だけでなく、上げ幅の増減を見た
- 「下落幅の縮小」を上昇と読み違えていない
- 公表資料の「変動の理由」欄を読んだ
- 一時的な要因か、構造的な要因かを分けた
- 成約価格と照らし合わせた
- 対象地の個別条件を、地域の平均と分けて確認した
- (自分で集計)地点数と出典・時点を明記した
まとめ
- 平均は代表値ではない。上がった地点と下がった地点が相殺されている。
- 平均より先に、上昇・横ばい・下落の地点数を見る。
- 変動率が高いことと、価格の水準が高いことは別。両方を見る。
- 比べるのは継続地点どうし。地点は毎年入れ替わることがある。
- 変動率は、対象地の接道や境界といった個別の条件を反映していない。
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