田畑から宅地になった土地 ── 転用の年が、地歴の節目になる
- 熊本市の市街地周辺には、戦後から高度成長期にかけて田畑から宅地に変わった土地が多い
- 地歴調査で見るのは農地だった時期ではなく、転用の年と、その直後に何が建ったか
- 許可の年・現況が変わった年・地目変更登記の年は、それぞれずれる
- 現況が宅地でも、地目が田や畑のまま残っている地番がある
田んぼだった土地なら汚染の心配はない、と考えられることがあります。
農地そのものは、有害物質を扱う履歴になりにくいのは確かです。ただし地歴調査で追うのは、農地だった時期ではありません。いつ農地でなくなったか、そしてその直後に何が建ったかのほうです。田畑から宅地に変わった直後に住宅が建つとは限らず、工場や作業場が来ることも珍しくありません。
この記事では、田畑から宅地になった土地について、転用の年をどこで押さえるか、その前後で何を確認するかを整理します。
熊本の市街地は、どこまでが元の田畑か
熊本市の平野部は、白川と坪井川がつくった沖積地に広がっています。近世からの町場は城下の一帯に限られ、その外側は長く農地でした。
市街地が外へ広がったのは戦後です。昭和三十年代から五十年代にかけて、住宅需要と道路整備に押される形で、周縁の田畑がまとまって宅地に変わっていきました。中央区の東側、東区の託麻台地の一帯、北区の南部。このあたりで昭和四十年代の航空写真を開くと、現在の住宅地が田畑として写っていることがあります。
つまり、いま宅地として売買されている土地の相当数が、記録をさかのぼれば農地に行き着くということです。地歴調査でこの類型に当たる頻度は高く、扱いを決めておく価値があります。
転用の年は、どこに残るか
農地でなくなった年は、複数の記録に別々の形で残ります。どれか一つを見て決めることはできません。
| 年の種類 | どこに残るか | 意味 |
|---|---|---|
| 許可の年 | 農業委員会・県の記録 | 転用してよいと認められた年 |
| 現況が変わった年 | 航空写真・旧住宅地図 | 実際に埋め立て、造成された年 |
| 地目変更登記の年 | 旧土地台帳・閉鎖登記簿・登記記録 | 登記の上で宅地になった年 |
許可を受けてから工事に入るまでに間が空くことがあり、工事が終わってから地目変更の登記をするまでにも間が空きます。三つが同じ年になるほうがむしろ少ないと考えておくほうが安全です。
地歴調査で意味を持つのは現況が変わった年です。土壌に何かが持ち込まれるとすれば、それは造成のときだからです。登記の年だけを追うと、実際の改変から数年遅れた年表になります。
転用の直後に、何が来たか
ここがこの類型の見どころです。田畑が宅地に変わった直後の用途は、住宅とは限りません。
北区の小山では、昭和四十年代の前半まで畑地だった区画に、その後、印刷所が入っています。平成に入って建物は解体され、しばらく空地でした。東区の戸島では、昭和三十年代の末に農地転用の許可を受けた土地が、翌年から自動車の教習施設になっています。北区の植木町では、昭和四十年代まで畑だった土地に製菓の工場が建ち、のちに卸売業へと使い手が変わりました。
いずれも、農地の次に来たのが住宅ではない例です。印刷所であれば有機溶剤やインキ、教習施設であれば整備工場と給油設備、製菓の工場であれば排水と焼却設備。調べる対象は、農地だった時期ではなく、この次の使い手で決まります。
だからこの類型では、地目の変遷を確定させたあと、必ず旧住宅地図に戻ることになります。屋号と業種が載っているのは住宅地図だけだからです。
地目が田のまま残っている土地
地目は現況主義ですが、変更の登記が実際にされているとは限りません。
中央区の黒髪では、現況が宅地になって長い区画に、地目が田のまま残る地番が混ざっていました。隣の地番は宅地に変わっているのに、一筆だけ取り残されている、という形です。
この場合、転用の年を登記から読むことはできません。旧土地台帳で周辺の地番の変更年を拾い、航空写真で現況が変わった年代を挟み込んで、範囲として示すことになります。
取り残される理由はさまざまです。相続が続いて登記が動いていない、分筆の際に一部だけ処理が漏れた、農地として課税されるほうが有利だった。理由の推測は報告書に書けませんが、「登記に出ていない=転用していない」ではないことは押さえておく必要があります。
農地だった時期そのものは、何を意味するか
農地であった期間について、農薬の使用を思い浮かべる方があります。土壌汚染対策法の第三種特定有害物質にはシマジン、チオベンカルブ、チウラムといった農薬が含まれており、対象からは外れていません。
「田んぼだったから安全」とも、「農地だったから農薬が残っている」とも、資料調査からは言えません。
旧土地台帳に書かれているのは地目であって、何が栽培され、何が撒かれたかではありません。資料に無いことを、資料があるかのように書かない。過去の地目から農薬の使用を推定した記述は、根拠を持ちません。
書けるのは、いつまで農地として登記されていたか、その間に周辺で何が営まれていたか、という事実だけです。第三種の分析を行うかどうかは、その事実を並べたうえで、依頼者と決める事柄になります。
調べる順序
この類型では、次の順に当たると手戻りが少なくなります。
まず航空写真で、田畑が消えた年代を十年単位で絞ります。次に旧住宅地図をその前後の版で引き、転用の直後に入った使い手を確かめます。そのうえで旧土地台帳と閉鎖登記簿にあたり、地目の変更年を確定させます。最後に、農業委員会と市町村の窓口へ、転用許可と特定施設の届出を照会します。
逆の順序、つまり登記から入ると、地目が変わっていない土地で行き止まりになります。画像から入って、書面で確定させるほうが速いことが多いのは、この類型の特徴です。
- 航空写真で、田畑が消えた年代を十年単位で押さえた
- 旧住宅地図で、転用の直後に入った使い手を確かめた
- 旧土地台帳で、地目の変更年を地番ごとに拾った
- 現況が宅地でも地目が田・畑のまま残る地番がないか、一筆ずつ見た
- 許可の年・現況が変わった年・登記の年のずれを、年表の上で区別した
- 次の使い手の業種から、調べるべき物質を絞った
- 農地だった期間について、資料に無い推測を書いていない
- 周辺の地番についても、同じ年代の資料を見た
まとめ
- 熊本市の市街地周辺には、戦後から高度成長期に田畑から宅地へ変わった土地が多い
- 地歴調査で意味を持つのは、農地だった時期ではなく、転用の年と、その直後の使い手
- 許可の年・現況が変わった年・地目変更登記の年はずれる。土壌に関わるのは現況が変わった年
- 現況が宅地でも地目が田のまま残る地番がある。登記だけでは転用の年を読めない
- 過去の地目から、汚染の有無をどちらの方向にも断定しない
