農地を相続した ── 届出と、貸す・売る・転用の分岐

この記事の要点
  • 農地を相続したら、登記とは別に農業委員会への届出が要る。期限は権利の取得を知ったときからおおむね十か月
  • 農地かどうかは地目ではなく現況で判断する。地目が畑でも、判断するのは農業委員会
  • その後の道は四つ。自分で耕す・貸す・売る・転用する。どれも農地法の手続きが絡む
  • 令和五年四月に面積の下限という要件がなくなった。小さな農地でも権利を取得しやすくなっている
  • 転用は、農用地区域に入っていれば農振除外が先。ここで一年以上かかることがある

親から田や畑を相続した。相続登記をすれば、それで手続きは終わりだと思われるかもしれません。

農地は、もう一つあります。農業委員会への届出です。登記の期限とは別に定められていて、期限も起算点も違います。そして届出を出したあと、その農地をどうするかで、必要な手続きがまた変わります。

この記事は、相続人ご本人に向けて、まず出す届出と、その先の四つの分岐を整理したものです。転用の手続きそのものは農地転用 ── 三つの条文を、どう使い分けるかで詳しく扱っています。

登記とは別に、届出が要る

相続で農地の権利を取得した人は、農地のある市町村の農業委員会に届け出ることになっています。遺産分割による取得も、遺贈も、時効取得も対象です。

期限は、権利を取得したことを知ったときから、おおむね十か月以内です。相続登記の三年とは別の期限で、こちらのほうがずっと短い。届出をしなかったり、事実と違う届出をしたりすると、過料の対象になります。

この届出は、売買や贈与のときに要る農地法の許可とは性質が違います。許可は、権利を移す前に受けるもの。届出は、すでに移った権利を事後に報告するものです。届け出ることで権利が生じるわけではないので、登記は別に必要です。

二つの期限が、別々に動いています

登記は三年、農業委員会への届出はおおむね十か月。

先に来るのは届出のほうです。ところが、相続の相談で最初に話題になるのはたいてい登記なので、届出のほうが忘れられがちです。遺産分割の話し合いが長引いていても、法定相続分で権利を取得したことは動きませんので、届出は先に出せます。相続財産に田や畑が含まれているとわかった時点で、農業委員会に一報を入れてください。

農地かどうかは、現況で決まる

登記簿の地目が「田」「畑」でも、それだけで決まりません。逆に、地目が「山林」や「原野」でも、実際に耕作されていれば農地として扱われます。判断するのは現況で、判断する主体は農業委員会です。

相続で問題になるのは、長く手が入っていない土地です。何十年も耕作されず、木が生えて山林のようになっている。この状態を農地として扱うのかどうかは、市町村によって判断が分かれる部分があります。自分で決めずに、農業委員会に現況を伝えて確かめてください。

ここを飛ばすと、あとの手続きの前提が崩れます。農地でないと思って造成に着手し、あとから違反転用を指摘される、という順序になりかねません。

分岐は四つ

届出を済ませたら、その農地をどうするかを決めます。

どうするか 必要な手続き 向いている場合
自分で耕す 手続きは不要 近くに住んでいて、続けられる見込みがある
貸す 農地法の許可、または農地中間管理機構を通す 手放したくないが、自分では耕せない
売る 農地法の許可。農地のまま売るか、転用目的で売るかで条文が変わる 持ち続ける理由がない
転用する 都道府県知事等の許可。市街化区域内は届出 自宅、駐車場、資材置き場などに使いたい

自分で耕す

相続した人がそのまま耕作を続けるなら、あらためて許可を取る必要はありません。届出だけで足ります。

ただし、農地を持つということは、その地域の共同の負担を引き受けるということでもあります。水路の掃除、農道の補修、草刈り。地区によって決まりがあり、出られない場合に金銭で負担する仕組みを持つところもあります。遠方に住んでいる相続人が、この負担を続けられるかを確かめないまま「とりあえず持っておく」と決めると、数年で行き詰まります。

貸す

自分では耕せないが手放したくない、という場合の道です。

個人どうしで貸し借りする場合は農地法の許可が要ります。もう一つ、農地中間管理機構(農地バンク)を通して貸す方法があります。機構が借り受けて、担い手にまとめて貸し出す仕組みで、相手を自分で探さなくてよいのが利点です。ただし、引き受けてもらえるかは農地の条件によります。

なお、令和五年四月から、農地を取得する際の面積の下限という要件がなくなりました。それまでは一定の面積以上でなければ権利を取得できませんでしたが、いまは面積の大小を問いません。借り手の側の間口が広がったという意味で、貸しやすくなっています。ただし、農地をきちんと使うこと、農作業に常時従事すること、地域との調和を欠かないことという要件は残っています。

自分で農業を続ける場合や、農地バンクに貸す場合には、相続税の納税を猶予する仕組みがあります。要件も効果もここでは書きません。税理士に確認してください。

売る

売り方は二つに分かれます。

農地のまま売る場合は、農地法の許可が要ります。買える相手が農業に従事する人などに限られるため、買い手を見つけるのが難しいのが実際です。

転用する目的で売る場合は、別の条文の許可になります。買主が住宅を建てる、資材置き場にする、といった場合です。この場合は転用そのものが認められるかどうかが前提になるので、次の節の話につながります。

市街化区域の中にある農地は、許可ではなく届出で足ります。転用の条文の使い分けは農地転用 ── 三つの条文を、どう使い分けるかにまとめています。

転用する

相続した農地を、自宅の敷地や駐車場にしたい。この場合は転用の許可が要ります。自分で転用する場合と、転用する目的で誰かに売ったり貸したりする場合とで、根拠になる条文が変わります。

ここで最初に確かめるのが、その農地が農用地区域に入っているかどうかです。入っていれば、転用の許可を申請する前に、区域から外す手続き(農振除外)が必要になります。

農振除外には時間がかかります

農用地区域からの除外は、申出を受け付ける時期が年に一、二回と決まっている市町村が多く、手続き全体で一年以上かかることがあります。

相続してすぐ家を建てたい、売却の話が進んでいる、という場面では、この期間が決定的になります。農用地区域かどうかは、市町村の担当課で先に確かめてください。要件と申出先は農振除外 ── 申出先と、五つの要件で整理しています。

許可を受けずに転用すると、工事の中止や原状回復を命じられることがあります。相続した農地を「自分の土地だから」と資材置き場にしていた、というのは実際にある話です。地目が田や畑のままなら、まず農業委員会に相談してください。

どれも選べないとき

耕せない、借り手も買い手もつかない、転用も見込めない。そういう農地もあります。

耕作されない状態が続くと、農業委員会から利用の意向についての調査が来ることがあります。地域の担い手にあっせんする仕組みにつながる場合もあるので、放置せずに応じてください。

最後の手段として、国に引き取ってもらう制度があります。ただし農地は通りにくく、荒れた状態だと審査の段階で承認されないことがあります。見極め方は相続した土地を国に引き取ってもらうで整理しました。

頼む先を分けておきます。農業委員会への届出、農振除外の申出、農地転用の許可申請は行政書士。境界の確認と測量、分筆は土地家屋調査士。相続の登記は司法書士。相続税と譲渡所得は税理士です。

農地を相続したときの確認
  • 相続財産に田・畑が含まれていないか、地目で確かめた
  • 農業委員会に届出を出した。または期限までに出す段取りをつけた
  • 現況が農地として扱われるかを、農業委員会に確認した
  • その農地が農用地区域に入っているかを市町村で調べた
  • 自分で耕す・貸す・売る・転用するのどれを考えるかを家族で共有した
  • 水路や農道の共同の負担がどうなっているかを地元に確かめた
  • 転用や売却の予定があるなら、農振除外に要する期間を見込んだ
  • 相続税の申告があるなら、納税猶予の可否を税理士に相談した

まとめ

  • 農地は登記のほかに農業委員会への届出が要る。期限はおおむね十か月で、登記の三年より先に来る
  • 農地かどうかは地目ではなく現況で決まる。判断するのは農業委員会
  • 道は四つ。自分で耕すなら手続きは要らないが、地域の共同の負担が続く
  • 令和五年四月に面積の下限という要件がなくなり、貸し借りの間口は広がった
  • 転用は農用地区域かどうかで所要期間がまったく変わる。予定があるなら先に調べる
農地の届出、農地転用、農振除外、お引き受けしています。

行政書士 村上事務所では、熊本県・熊本市の農地に関する手続きをお受けしています。相続に伴う農業委員会への届出、農地転用の許可申請、農用地区域からの除外の申出まで、土地家屋調査士として現地と境界を確かめたうえで進められます。
相続の登記は司法書士、相続税と納税猶予は税理士が担当する部分ですので、必要に応じてご紹介します。
電話 096-285-3993(平日 10:00〜17:00)/ murakami@mkensetu.jp

お問い合わせ
農地転用の解説を読む

BLOG

ブログ

PAGE TOP