相続した土地を国に引き取ってもらう ── 通る土地と通らない土地
- 相続または相続人への遺贈で取得した土地が対象。売買で買った土地は使えない。制度が始まる前の相続も対象になる
- 建物があると、それだけで申請できない。担保権が付いている土地、通路として使われている土地も同じ
- 入口で外される理由の上位が境界が明らかでない土地。ここが実際にいちばん引っかかる
- 崖、地上の工作物や樹木、地下の埋設物、隣地との争い。これらは審査の段階で落ちる
- 費用は審査と負担金の二段階。通らなかった場合も審査の手数料は戻りません
使う予定のない山林や畑を相続した。国が引き取ってくれる制度ができたと聞いたので、これで手放せる。そう考える方は多いと思います。
制度はあります。ただし、通る土地は限られます。そして通らない理由の上位に来るのが、境界が明らかでないという、土地そのものの善し悪しとは別の問題です。
この記事は、相続人ご本人が、自分の土地は通るのかを見極めるための順序を整理したものです。制度そのものの詳しい解説は相続土地国庫帰属制度 ── 引き取ってもらえる土地の条件にあります。
何ができる制度か
相続によって取得した土地を、国に引き取ってもらう制度です。土地を国庫に帰属させる代わりに、負担金を納めます。
使えるのは、相続または相続人に対する遺贈で土地を取得した人です。売買や贈与で買った土地には使えません。制度が始まる前に相続した土地も対象になるので、何十年も前に受け継いだ土地でも申請できます。
共有の土地であれば、共有者の全員が共同して申請することになります。一人でも欠けると申請できません。共有者のなかに相続以外の原因で持分を取得した人が混じっていても、相続で取得した人がいれば、全員そろって申請することは可能です。
申請先は、土地のある都道府県の法務局・地方法務局の本局です。支局や出張所では受け付けていません。
入口で外れる土地
申請そのものができない土地があります。次のいずれかに当たれば、審査に進む前に却下されます。
| 入口で外れる土地 | 相続の場面で当たりやすい例 |
|---|---|
| 建物がある土地 | 空き家、物置、作業小屋。登記されていない建物も含まれる |
| 担保権や使用収益権が設定されている土地 | 先代の抵当権が抹消されないまま残っている |
| 他人の利用が予定されている土地 | 現に通路として使われている土地、水路、墓地の中の土地 |
| 土壌が汚染されている土地 | 工場や資材置き場に使われていた土地 |
| 境界が明らかでない土地 | 所有権の範囲に争いがある土地。次の節で扱います |
ここで最初につまずくのが、建物です。空き家の建っている実家の敷地は、そのままでは申請できません。
境界が明らかでないと、そこで終わる
ここが、この記事でいちばんお伝えしたい部分です。
法務省が公表している統計を見ると、却下された理由の上位に「境界が明らかでない土地」が並んでいます。土地の使い道でも、管理の手間でもなく、境界です。
誤解のないように書いておくと、境界標が一本もないから直ちに駄目、という意味ではありません。問題になるのは、所有権の及ぶ範囲がはっきりしないこと、そして隣接地との間に争いがあることです。申請すると法務局の職員が現地を調査し、隣接地の所有者にも確認が入ります。そこで食い違いが出れば、そこで終わります。
却下されても、審査の手数料は戻りません。
境界に不安があるなら、申請の前に確かめてください。隣接地の所有者に立ち会っていただき、認識が一致するかを見る。争いがあるなら、先に解消しておく。この作業は測量とほとんど同じ手間になりますが、順序を逆にすると費用が二度かかります。筆界と所有権界の違いは境界がわからない土地を相続したで整理しています。
審査で落ちる土地
入口を通っても、審査の段階で承認されないことがあります。判断の基準は、国がふつうに管理するよりも、過分な費用や労力がかかるかどうかです。
| 承認されない土地 | 中身 |
|---|---|
| 崖がある土地 | 勾配三十度以上、高さ五メートル以上の崖があり、管理に過分な費用や労力がかかるもの |
| 地上に有体物がある土地 | 工作物、車両、樹木など。放置された農機具、廃車、伸びきった竹林 |
| 地下に除去が必要なものがある土地 | 産業廃棄物、建築資材、取り壊した建物の基礎 |
| 隣地との争訟が必要な土地 | 通行が妨げられている袋地、他人に使用を妨げられている土地 |
| その他、過分な費用や労力がかかる土地 | 災害のおそれがある土地、鳥獣の被害がある土地、適切に管理されていない森林 |
統計の上でも、地上に工作物や樹木が残っていることを理由とする不承認がいちばん多くなっています。長く手を入れていない土地では、まずここを見てください。
農地と山林は、通りにくい
申請そのものは田や畑がいちばん多いのですが、実際に国庫に帰属した土地では宅地の割合が高い。農地や森林は、申請しても通らずに終わる割合が相対的に高いという傾向が読み取れます。
森林は、適切に管理されていない状態だと不承認の対象になります。農地は、耕作されずに荒れていれば地上の有体物や管理の負担が問題になります。
相続した農地については、この制度に進む前に、貸す・売る・転用するという道が残っていないかを先に確かめてください。整理は農地を相続したにまとめています。
建物があるなら、壊す前に考える
建物があると申請できないので、この制度を使うには解体することになります。ただし、解体を先に決めないでください。
住宅が建っている敷地には、固定資産税の負担を軽くする仕組みがあります。建物を壊すと、この扱いから外れます。申請が通るまでには時間がかかり、そのあいだの負担は自分で持つことになります。
解体の費用、そのあいだの税負担、そして負担金。これを合計した額と、建物ごと誰かに引き取ってもらえる可能性とを、並べて比べてください。近隣の方や、隣接地の所有者が関心を持つことがあります。
費用は二段階でかかる
お金は二度かかります。申請のときの審査手数料と、承認されたあとの負担金です。
負担金は、国有地の種目ごとに、管理に必要な十年分の標準的な費用をもとに算定されます。土地の種類と面積で変わるので、ここで金額を挙げることはしません。法務局が算定の方法を公表していますので、申請を考える段階で確認してください。
審査の途中で、通らないことがわかる場合があります。
統計では、取下げの理由としていちばん多いのが「有効活用の見込みが立った」というものです。調査を進めるなかで、隣の方が買いたいと言ってきた、農地として貸せることがわかった、というかたちで別の出口が見つかる。この制度は最後の手段であって、最初に検討するものではありません。
申請する前に確かめる順序
費用をかけて動く前に、次の順で自分の土地を見てください。上から順に、外れる可能性の高いものです。
- 建物がないか ── 登記されていない小屋も含めて、現地で確かめる
- 登記簿に担保権が残っていないか ── 先代の抵当権が抹消されていないことがあります
- 誰かが通路として使っていないか ── 近隣が通り抜けに使っている土地は外れます
- 境界に争いがないか ── 隣接地の所有者と認識が一致するかを確かめる
- 崖、放置された物、埋まっているものがないか ── 現地を歩いて写真に残す
- 隣地との間に、裁判をしないと解決しない問題がないか
ここで外れることがわかったら、別の道を探します。隣接地の所有者に買っていただく、地元の方に譲る、共有者の一人に持分を集約する。手放す方法は、国に引き取ってもらうことだけではありません。
頼む先も分かれます。境界の確認と現地の調査は土地家屋調査士。申請書類の作成は行政書士。相続の登記は司法書士。譲渡に伴う税は税理士です。
- その土地を相続または相続人への遺贈で取得したことを確かめた
- 共有なら、共有者全員が申請に同意しているかを確かめた
- 現地に行き、建物・小屋・工作物・放置物の有無を写真に残した
- 登記事項証明書で担保権が残っていないかを確認した
- 通路や水路として使われている部分がないかを見た
- 隣接地の所有者と、境界の認識が一致するかを確かめた
- 崖、竹林、地下の埋設物など、管理の負担になるものを洗い出した
- 売る・貸す・譲るという別の出口を先に検討した
まとめ
- 相続で取得した土地が対象。共有なら全員で申請する。建物があるとそれだけで申請できない
- 却下の理由の上位が境界。境界標の有無ではなく、範囲がはっきりしているか、争いがないかが問われる
- 審査では、崖・地上の有体物・地下の埋設物・隣地との争いが落ちる理由になる
- 農地と森林は、申請しても通らずに終わる割合が相対的に高い
- 最後の手段であって、最初の選択肢ではない。売る・貸す・譲るを先に確かめる
行政書士 村上事務所では、行政書士と土地家屋調査士の両方の立場から、相続した土地の調査をお受けしています。現地の状況の確認、隣接地との境界の確認、国庫帰属の申請に必要な書類の作成まで、一つの窓口で進められます。
相続の登記は司法書士、譲渡に伴う税は税理士が担当する部分ですので、必要に応じてご紹介します。
電話 096-285-3993(平日 10:00〜17:00)/ murakami@mkensetu.jp
