がけと擁壁 ── 高低差のある土地を、どう造成するか
- 「がけ」は水平面に対して30度を超える傾斜地。この角度が起点になる
- 擁壁が要るかどうかは、がけの高さと、土質で決まる
- 既存の擁壁の上に積み増す「二段擁壁」は、原則として認められない
- がけの処理は、造成費用のいちばん大きな変動要因になる
高低差のある土地は、安く手に入ります。理由があって安いのですが、その理由が見えるのは、たいてい設計に入ってからです。
造成費用がいちばん大きく振れるのは、がけの処理です。擁壁を一段積むかどうかで、数百万円が動きます。
ここでは、開発許可の技術基準(都市計画法33条)のうち、がけと擁壁をめぐる部分を整理します。
「がけ」とは何度からか
盛土規制法をはじめ、多くの法令が「がけ」を地表面が水平面に対し30度を超える角度をなす土地と定義しています。
30度という角度は、勾配でいえばおよそ1対1.7。土を自然に積んだときに崩れずに保つ角度(安息角)を少し超えるあたりです。そこを超えると、土自身の力では立っていられない。だから人工的な支えが要る、という考え方です。
問題は、その「がけ」が何メートルを超えたら擁壁が必要になるかという部分です。ここは自治体の基準で決まります。高さ2メートル、あるいは5メートルといった数値が使われますが、土質や区域によって扱いが変わります。管轄する窓口の手引きで確かめてください。
擁壁が要る場合、要らない場合
| 考え方 | |
|---|---|
| 擁壁が要る | がけの高さが基準を超える。切土・盛土でがけが生じる |
| 要らないことがある | 土質が良好で、安全上支障がないと認められる場合。ただし土質試験などの裏付けが要る |
| 判断が分かれる | 既存のがけに手を加えない場合。敷地内にある以上、安全性の説明は求められる |
造成でつくったがけでなくても、開発区域内にがけがあれば、その安全性は審査の対象になります。
「昔からこうなっている」は理由になりません。建物を建てるということは、そこに人が住むということだからです。
擁壁の種類
実務で出てくるのは、おおむね次の三つです。
| 種類 | 特徴 |
|---|---|
| 練積み造 | 間知ブロックなどを積む。比較的安価だが、高さに制限がある |
| 鉄筋コンクリート造 | L型・逆T型など。高いがけに対応できるが、費用と工期がかかる |
| 補強土壁 | 盛土内に補強材を敷き込む。条件が合えば経済的 |
どれを選ぶかは、高さ、背後の荷重、敷地の余裕、そして費用で決まります。「高さが基準を超えると練積みでは通らない」という段差があり、そこで費用が跳ねます。
二段擁壁は、原則として認められない
既にある擁壁の天端に、さらに擁壁を積む。これを二段擁壁といい、原則として認められません。
上の擁壁の荷重が、下の擁壁の設計に見込まれていないためです。下の擁壁は、その上に何も載らない前提で計算されています。
解決するには、上下を一体の構造として設計し直すか、下の擁壁ごと造り替えるしかありません。どちらも費用がかさみます。造成計画の初期に、既存擁壁の扱いを決めておくべき理由がここにあります。
既存擁壁を使えるか
既にある擁壁をそのまま使いたい、という要望はよくあります。判断の材料は、次のようなものです。
- いつ、どの基準で造られたか ── 築造時の許可や検査の記録
- 構造と寸法 ── 断面図が残っているか
- 水抜き穴の有無と、その機能
- ひび割れ、はらみ出し、目地のずれ
- 背後の地盤に、新たな荷重を載せる計画になっていないか
記録が何も残っていない古い擁壁は、安全性を説明できないという理由で、造り替えを求められることがあります。買う前に確かめておきたい点です。
費用と工期への跳ね返り
がけの処理は、造成費のなかで最も振れ幅が大きい項目です。加えて、擁壁の構造計算は設計に時間がかかり、審査でも見られる箇所です。
そのため私たちは、事前相談の段階で高低差の断面を持ち込むようにしています。平面図だけでは、がけの話が始まりません。
年度で動く単価はここには書きません。見積りは施工会社に取っていただくものですが、「擁壁が一段増えると、どれくらい変わるか」を早い段階で把握しておくと、土地の値付けの判断ができます。
建築基準法のがけ条例との関係
開発許可とは別に、多くの自治体が建築基準法に基づく条例(いわゆるがけ条例)を定めています。がけの上や下に建物を建てるとき、がけから一定の距離を離すか、擁壁などの安全措置を求めるものです。
開発許可で擁壁を造ったからといって、建築側の制限が自動的に消えるわけではありません。造成の設計をする時点で、建物の配置まで見込んでおく必要があります。後から建物が置けないと分かるのが、いちばん困ります。
- 敷地内および隣接地の高低差を実測した
- 30度を超える傾斜地があるか確かめた
- 擁壁が必要になる高さの基準を、管轄の手引きで確かめた
- 既存擁壁の築造時期と、当時の許可・検査の記録を探した
- 既存擁壁のひび割れ・はらみ出し・水抜き穴を現地で見た
- 二段擁壁になる計画になっていないか確かめた
- 擁壁の種類と、高さによる段差(費用が跳ねる点)を把握した
- がけ条例による建物の配置制限を確かめた
- 盛土規制法の規制区域内かどうか確かめた
- 事前相談に、高低差の分かる断面を持ち込んだ
擁壁を立てない、という選択
高低差を処理する方法は、擁壁だけではありません。のり面として、緩い勾配で土を寝かせるやり方があります。
| 擁壁 | のり面 | |
|---|---|---|
| 必要な面積 | 小さい | 大きい |
| 工事費 | 高い | 比較的安い |
| 設計 | 構造計算が要る | 勾配と保護の設計 |
| 維持 | 水抜きの管理 | 草刈りが続く |
つまり、土地の面積と工事費の交換です。区画をぎりぎりまで取りたい計画では擁壁になり、余裕がある土地ではのり面のほうが安く収まります。
- 有効宅地面積が減る ── 何区画取れるかが変わる
- のり面部分の所有と管理を誰が持つか。分譲地では、宅地に含めるか共有地にするかで後の揉め事が変わります
- 植生による保護。張芝、種子吹付けなど
- のり肩・のり尻の排水。のり面の崩れは、たいてい水から始まります
「安いからのり面」と決める前に、草刈りを何十年続けるのは誰かを考えておくことをお勧めしています。分譲地では、これが管理組合のいちばんの負担になることがあります。
買う前に、高低差をどう見るか
高低差のある土地を検討する段階では、次の三つを見ておくと、後の見積りの幅がかなり狭まります。
- どちら向きに、何メートル下がっているか ── 道路より高いのか低いのかで、工事の中身が変わります。道路より低い土地は、排水を自然流下で処理できないことがあります
- 隣地との関係 ── 隣地が高い場合、その土留めは誰のものか。隣地の擁壁に自分の土地が支えられている状態は、後で必ず問題になります
- 既存の構造物 ── 擁壁、石積み、ブロック塀。いつのものか、記録があるか
簡易なレベル測量でも、断面が一枚あるだけで話は具体的になります。写真だけで判断しないことです。高低差は、写真ではほとんど分かりません。
まとめ
- 「がけ」は水平面に対して30度を超える傾斜地。ここが起点になる
- 擁壁の要否は、がけの高さと土質で決まり、数値は自治体の基準による
- 二段擁壁は原則として認められない。既存擁壁の扱いは初期に決める
- 記録のない古い擁壁は、造り替えを求められることがある
- がけの処理は造成費の最大の変動要因で、建築側のがけ条例とも絡む
