建設会社の農業参入 ── 許可と経審に、何が起きるか

建設会社の農業参入 ── 許可と経審に、何が起きるか

この記事の要点
  • 建設会社の参入でまずぶつかるのは、人の配置。建設業許可の常勤・専任と、農地法の常時従事が同じ人に重なる
  • 農業の売上は完成工事高には入らないが、損益は経審の利益額や経営状況の点数に効く
  • 毎年の手続きが二系統になる。建設業の決算の届出と、農業委員会への報告
  • 重機で農地を盛ったり土を入れ替えたりするときは、転用や届出の対象になることがある

建設会社の農業参入は、閑散期の人と重機を回すだけの話だと受け取られがちです。

実際には、建設業許可の要件を支える人を農業に回すと許可そのものに響き、農業部門の損益は経営事項審査の点数にも表れます。

この記事では、建設会社が農業に参入するときに、許可、経審、毎年の手続き、農地の扱い、労務の五つで何が起きるかを整理します。

参入の形で、影響の出方が変わる

参入の方式は、大きく分けて二つです。今の会社のまま農地を借りて始めるか、農業を主な事業とする子会社をつくるか。方式ごとの要件は企業の農業参入の記事で整理しています。

今の会社で借りる 子会社をつくる
農業の売上と損益 建設会社の決算に入る 子会社の決算に入る
経審への影響 直接に出る 原則として出ない
人の配置 社内の兼務になる 別法人の役員・社員になる
農業委員会への報告 建設会社が出す 子会社が出す

始めやすいのは今の会社で借りる形ですが、影響が本体に直接出るのもこの形です。以下は主にこの形を前提に、子会社の場合の違いを添えて整理します。

人の配置

建設業許可には、会社に常勤していなければならない人と、営業所に専任でいなければならない人がいます。

  • 経営業務の管理責任者(常勤役員等):会社に常勤していること
  • 営業所技術者(旧・専任技術者):その営業所に専任でいること

一方、農地法の許可では、農業部門を担う役員か重要な使用人の1人以上が、その法人の農業に常時従事する必要があります。子会社を農地所有適格法人にする場合は、役員の過半が年150日以上、その法人の農業に従事することが原則になります。

許可を支えている人を、農業の担い手に充てない

営業所技術者を農業部門の常時従事者にすると、専任の説明がつかなくなります。

子会社の場合はさらに注意が要ります。親会社の常勤役員等が、別法人である子会社で年150日以上農業に従事するとなると、親会社での常勤性が問われるおそれがあります。建設業許可の要件を欠くと、許可の維持そのものに関わります。農業部門の責任者は、許可の要件を支えていない役員か、新たに置く農場長などから選ぶのが安全です。判断に迷う配置は、事前に許可行政庁へ確認します。

経審への影響

今の会社で農業を始めると、農業の売上は決算書の上で兼業事業売上高として扱われます。経営事項審査の評点への効き方は、項目ごとに違います。

項目 何を見るか 農業部門の影響
X1 完成工事高 入らない。工事の売上だけで評価される
X2 自己資本額と利益額 効く。利益額は会社全体の営業利益に減価償却実施額を足したもの
Y 経営状況(財務の八指標) 効く。売上高・利益・負債は会社全体の数字で計算される
Z 技術職員と元請完成工事高 元請の工事高には入らない
立ち上げの赤字は、そのまま点数に出る

農業は、始めてから数年は赤字になりやすい事業です。

今の会社で始めると、農業部門の赤字が会社全体の営業利益と経常利益を押し下げ、X2とYの両方に表れます。機械や施設への投資で借入れが増えれば、Yの負債に関する指標も動きます。公共工事の入札で点数の差が効く会社ほど、子会社に切り出すかどうかを、経審の試算を踏まえて決める意味があります。

決算と届出が二系統になる

参入すると、毎年の手続きが二つの役所に分かれます。

建設業 農業
毎年の手続き 決算変更届(事業年度終了届) 農地の利用状況などの報告
出す先 許可行政庁 農地のある市町村の農業委員会
期限 事業年度の終了後4か月以内 事業年度の終了後3か月以内

決算変更届の財務諸表では、完成工事高と兼業事業売上高を分けて記載します。農業の売上や原価が工事の側に混ざらないよう、会計の段階で部門を分けておくと、決算の後の作業が軽くなります。

あわせて、定款の目的に農業に関する事業を加えておきます。農地法の許可申請では定款の写しを出すため、目的に農業がないと申請の前に変更が必要になります。

重機と農地

建設会社の強みは、重機と土の扱いに慣れていることです。ただし、農地に手を入れる工事には独自の決まりがあります。

農地の盛土や土の入れ替えは、自由にはできない

農地をかさ上げする、土を入れ替えるといった工事は、転用の許可や市町村への届出の対象になることがあります。

農地の改良のために一時的に土砂を置く、工事の期間だけ農地を資材置場にする、といった使い方も、一時転用として許可が要る場合があります。扱いは工事の規模や市町村の運用によって分かれるため、着手の前に農業委員会で確認します。転用の手続きの全体は農地転用の記事にまとめています。

また、建設会社が自社の農地で行う作業は、請負ではないため建設業の工事にはあたりません。完成工事高に計上するものではない点も、会計の上で押さえておきます。

労務と保険

人を建設と農業で行き来させると、労務の扱いにも差が出ます。

  • 労災保険:建設現場の労災保険は、その工事のためのもの。農作業での事故は、農業部門の労災保険の手当てがあるかで扱いが分かれる
  • 労働時間:農業の事業に従事する労働者は、労働基準法41条により労働時間・休憩・休日の規定の一部が適用されない。建設と農業を兼務する社員の扱いは、社会保険労務士に確認する
  • 繁閑の重なり:公共工事が立て込む時期と、作物の植付けや収穫の時期が重なると、兼務の前提が崩れる。作物を選ぶ段階で、工事の年間の山と照らしておく

子会社をつくる場合は、子会社として労働保険と社会保険の加入手続きが別に必要です。

始める前の確認

建設会社が農業に参入するときの確認
  • 今の会社で借りるか、子会社をつくるかを、経審の試算を踏まえて決めた
  • 農業部門の責任者に、経営業務の管理責任者や営業所技術者を充てていない
  • 定款の目的に農業に関する事業を加えた
  • 会計で工事と農業の部門を分けた
  • 決算変更届と農業委員会への報告を、誰がいつ作るかを決めた
  • 重機で農地に手を入れる前に、転用や届出の要否を農業委員会で確かめた
  • 農業部門の労災保険と、兼務する社員の労働時間の扱いを確かめた
  • 作物の繁忙期と、工事の年間の山を照らし合わせた

まとめ

  • 建設会社の参入でまず問われるのは人の配置。許可を支える人を農業の常時従事者に充てない
  • 農業の売上は完成工事高に入らないが、損益は経審のX2とYに効く。立ち上げの赤字も点数に出る
  • 毎年の手続きは、建設業の決算変更届と農業委員会への報告の二系統になる
  • 重機での盛土や土の入れ替えは、転用や届出の対象になることがある
  • 今の会社で始めるか子会社をつくるかは、許可・経審・労務をあわせて決める
建設会社の農業参入に伴う手続き、お引き受けしています。

熊本県内に本店を置く建設会社の農業参入に伴う、農地法3条の許可、建設業許可の要件の確認、経営事項審査。行政書士 村上事務所(熊本市東区)が承っています。

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