企業の農業参入 ── 借りるか、子会社で持つか

企業の農業参入 ── 借りるか、子会社で持つか

この記事の要点
  • 企業の農業参入の方式は三つ。借りる、子会社で持つ、出資を受けて組む
  • 建設業などを主にする会社は、本体のままでは農地を所有できない。持つなら子会社をつくる
  • 借りる場合も、役員か重要な使用人の1人以上が農業に常時従事する必要がある
  • 許可を受けた後も、毎年の報告と要件の維持が続く

会社が農業を始めるには、まず農地を買うものだと考えられがちです。

実際には、農地を持たずに借りて始める企業が多く、農業を主な事業としない会社は、そもそも本体のままでは農地を所有できません。

この記事では、企業が農業に参入するときの三つの方式を比べ、許可を受けた後に続く義務と、どの方式から始めるかを整理します。

参入の入口は農地の確保

農地を買う、借りる、いずれの場合も、原則として農地法3条の許可が必要です。許可を出すのは、農地のある市町村の農業委員会です。

この許可は、農地を耕作に使い続ける人に権利が移るかどうかを確かめるためのものです。転用(農地を農地以外にする)の許可とは別の手続きで、参入のときに問われるのはこちらです。

企業の参入を後押しする方向で、制度は段階的に改められてきました。

  • 平成21年(2009年)の改正で、一般の法人でも条件付きで農地を借りられるようになった
  • 令和5年(2023年)4月から、取得後の経営面積の下限(いわゆる下限面積要件)がなくなった
  • 令和6年(2024年)の改正で、食品事業者などからの出資を受けやすくする特例ができた

なお、農地バンク(農地中間管理機構)を通じて借りる場合は、3条の許可ではなく機構の計画で権利が設定されます。候補地がどちらの経路になるかは、市町村と農業委員会で確認します。

三つの方式

借りる(リース方式) 子会社で持つ 出資を受けて組む
農地の権利 賃借のみ 所有も賃借もできる 所有も賃借もできる
農業をする法人 今の会社のまま 農地所有適格法人を新たにつくる 農地所有適格法人(議決権の特例を使う)
主な条件 解除条件付きの契約/地域での役割分担/役員等1人以上の常時従事 法人形態・事業・議決権・役員の四要件 国の認定を受けた計画
始めやすさ 比較的軽い 重い 重い。使える会社が限られる

三つは段階として並ぶことが多く、まず借りて始め、軌道に乗ってから子会社で所有へ移る、という順序がよく見られます。

農地を借りて始める

一般の法人、つまり建設会社や食品会社がそのままの形で農地を借りる方式です。3条の許可を受けるには、どの申請者にも共通の要件(取得する農地のすべてを効率的に耕作する、周辺の農地利用に支障を生じない、など)に加えて、次の三つを満たす必要があります。

契約 ── 解除条件を付ける

農地を適切に使わない場合には契約を解除する、という条件を賃貸借契約に書き込みます。貸し手の農家にとっての安心材料でもあります。

地域 ── 役割分担のもとで続ける

地域の農業者との適切な役割分担のもとで、継続的かつ安定的に農業経営を行うと見込まれることが求められます。集落での話し合いへの参加や、水路・農道などの共同作業への参画が典型です。

人 ── 1人以上が常時従事する

業務を執行する役員か、重要な使用人(農場長など)のうち1人以上が、その法人の農業に常時従事する必要があります。

常時従事は、農作業だけを指すのではない

ここでいう常時従事は、畑に毎日出ることに限られません。

農政局の解説では、農業部門の責任者として、営農計画の作成やマーケティングを含め、経営全般に責任をもって対応できる状態を指すとされています。反対に、名前だけ置いて実際には本業に専念している役員では、要件を満たしません。誰を充てるかは、許可申請の前に社内で決めておく必要があります。

子会社をつくって持つ

農地を所有できるのは、個人の農業者のほかは農地所有適格法人に限られます。要件は、法人形態・事業・議決権・役員の四つです。中身は農地所有適格法人の記事にまとめています。

本業のある会社は、本体のままでは適格法人になれない

事業の要件は、売上高の過半が農業(関連事業を含む)であることです。

直近3か年の売上高で判断するため、建設業や製造業を主にする会社は、この要件を満たせません。農地を所有したい場合は、農業を主な事業とする子会社を新たに設立し、その子会社が適格法人となって3条の許可を受ける形になります。

子会社にする場合、議決権と役員の要件がとくに効いてきます。

  • 議決権:農業関係者(その法人の農業に常時従事する構成員など)が総議決権の過半を持つ必要がある。親会社が議決権の過半を持つ形は、原則として取れない
  • 役員:役員の過半が、その法人の農業に常時従事する構成員であること(原則として年150日以上)。さらに、役員か重要な使用人の1人以上が農作業に従事すること(原則として年60日以上)

親会社の役員が子会社の役員を兼ねる場合、この日数を本当に満たせるかが最初の検討課題になります。

出資を受けて組む特例

令和6年の法改正で、農業経営発展計画の制度ができました。農地所有適格法人がこの計画について農林水産大臣の認定を受けると、議決権の要件が次のように緩められます。

通常 計画の認定を受けた場合
農業関係者 総議決権の過半 3分の1超
あわせて ── 農業関係者と提携事業者で過半

提携事業者として想定されているのは、食品の製造・加工・流通・販売や外食の事業者と、一定の要件を満たす投資組合です。

どの会社でも使える特例ではない

提携事業者の範囲は、食品関係の事業者などに限られています。

建設会社が出資者としてこの特例を使うことは、原則として想定されていません。食品会社が原料の産地を押さえる、といった組み方のための制度です。自社が当てはまるかは、申請先の農林水産省の資料で確かめてください。

参入した後に続く義務

許可を受けて終わりではありません。どの方式でも、参入した後の義務が続きます。

借りた法人 農地所有適格法人
毎年の報告 農地の利用状況を報告 要件を満たしているかを報告
時期と提出先 毎事業年度の終了後3か月以内に、農業委員会へ
要件を欠いたとき 勧告を経て、契約の解除や許可の取消しに進みうる 勧告、あっせんを経て、最終的に国による買収に進みうる

報告を怠ったり、虚偽の報告をしたりすると、30万円以下の過料の対象になります。要件は、許可を受けた時点だけでなく持ち続けるものです。役員の交代、増資、農業以外の売上の増加などで要件が崩れることがあるため、決算のたびに確かめる仕組みを社内に置いておくと安全です。

どの方式から始めるか

判断は、おおむね次の順序になります。

  1. 所有が必要か。作物や施設の都合で長く同じ土地を使う必要があるか。借地で足りるなら、リース方式で始める
  2. 誰が常時従事するか。役員か農場長を、実際に農業部門の責任者として置けるか
  3. 地域に入れるか。候補地の集落や農業委員会と話ができる関係を、申請の前に作れるか
  4. 所有に移る時期はいつか。子会社を設立する場合の議決権と役員の構成を、先に描いておく
農業参入の方式を決めるときの確認
  • 候補地が農地法3条の許可と農地バンクのどちらの経路になるかを、農業委員会で確かめた
  • 農業部門で常時従事する役員か重要な使用人を決めた
  • 賃貸借契約に解除条件を入れる前提で、貸し手と話をした
  • 集落の話し合いや共同作業への参加の見込みを確かめた
  • 所有を目指す場合、子会社の議決権と役員の構成が要件に合うか試算した
  • 出資の特例を考える場合、自社が提携事業者に当たるかを確かめた
  • 毎年の報告を、誰がいつ作るかを決めた

まとめ

  • 企業の農業参入には、借りる、子会社で持つ、出資を受けて組む、の三つの方式がある
  • 本業のある会社は本体のままでは農地を所有できない。所有するなら農地所有適格法人の子会社をつくる
  • 借りる場合も、役員か重要な使用人の1人以上が、経営全般を担う形で常時従事する必要がある
  • 出資の特例は食品関係の事業者などが対象で、どの会社でも使えるものではない
  • 許可の後は、毎年の報告と要件の維持が続く
企業の農業参入に伴う許可、お引き受けしています。

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